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ホーチミン市で、他人名義の土地に48戸の住宅を違法に建設し、それを低所得の労働者らに販売していた男が詐欺容疑で逮捕された。購入者の多くは工場労働者で、長年の貯蓄や借入金をつぎ込んで住宅を手に入れたにもかかわらず、全財産を失う危機に直面している。ベトナムの不動産市場に潜む構造的リスクを象徴する事件である。
事件の経緯——1999年に正規登記された土地が不法占拠される
2026年4月16日、ホーチミン市公安の捜査警察機関は、レ・ヴァン・ホアン(Lê Văn Hoàng、1969年生まれ、ホーチミン市在住)に対し、「財産詐取」の容疑で被疑者起訴・勾留の決定を執行した。
捜査資料によると、問題の土地はホーチミン市タンカイン(Tân Khánh)区に所在する6,400平方メートル超の区画で、1999年にチュオン・ミン・K(Trương Minh K.)氏に対して正式な土地使用権証明書(いわゆる「レッドブック」)が発行されていた。ベトナムでは土地はすべて国家所有であり、個人や法人には「土地使用権」が付与される仕組みだが、このレッドブックこそが合法的な使用権を証明する最も重要な書類である。
しかし2017年以降、ホアンは複数の協力者とともにこの土地の一部を不法に占拠し、無許可で住宅の建設を開始した。これにより土地の正規使用権者であるK氏との間で長期にわたる紛争が発生した。裁判所は緊急暫定措置として当該土地での建設を禁止する命令を出したが、ホアンはこれを無視し、建設を続行した。
裁判所命令を無視、48戸にまで拡大
2020年、執行機関が建物の撤去を求めた時点で、すでに数十戸の住宅と貸部屋が形成されていた。その後も建設は止まらず、最終的に違法建築物は48戸にまで膨れ上がった。いずれもホアンが使用権を持たない土地の上に建てられたものである。
さらに悪質なのは、ホアンが合法的な土地使用権を一切保有していないにもかかわらず、これらの住宅を第三者に「売却」していた点である。購入者の大半は工場の作業員や低所得労働者で、マイホーム取得のためにコツコツと貯蓄し、あるいは親族や金融機関から借り入れを行って購入資金を捻出していた。彼らは今、資産を丸ごと失うリスクに直面している。
民事訴訟から刑事事件へ——行政・司法の対応の遅れも浮き彫りに
民事訴訟の面では、2024年7月にタンウエン市人民裁判所(旧名称)がホアンおよび関係者に対し、全建築物の撤去と正規の土地使用権者への土地返還を命じる判決を下していた。しかし違反状態は根本的に是正されず、裁判所は捜査機関に対して刑事処分の検討を要請するに至った。
2025年12月、ホーチミン市公安の捜査警察機関が「財産詐取」の罪名で正式に刑事事件として立件。そして2026年4月にホアンの逮捕・勾留に踏み切った。2017年の不法占拠開始から約9年、裁判所の建設禁止命令からも数年が経過しており、行政・司法の対応の遅さが被害を拡大させた側面は否めない。
ベトナム不動産市場に潜む「レッドブック問題」
本件は、ベトナムの不動産取引に内在する構造的リスクを端的に示している。ベトナムでは都市部の住宅需要が急増する一方、正規の土地使用権証明書(レッドブック)を持たない物件や、法的地位が曖昧な土地が依然として多数存在する。特にホーチミン市の郊外や新興開発エリアでは、土地の権利関係が複雑に絡み合い、こうした詐欺的取引の温床となりやすい。
低所得層にとって住宅取得は人生最大の買い物であり、価格の安さに惹かれてレッドブックの有無を十分に確認しないまま契約してしまうケースが後を絶たない。当局は、不動産取引の前に必ず法的書類を精査し、土地使用権証明書の原本確認や管轄区の土地登記情報との照合を行うよう改めて強く呼びかけている。
投資家・ビジネス視点の考察
本件は個別の刑事事件ではあるが、ベトナム不動産市場全体、ひいては株式市場にも示唆を与える内容である。
不動産セクターへの影響:ベトナムでは2023年の改正土地法施行以降、土地使用権の透明化やデジタル登記の推進が進められている。こうした詐欺事件が大きく報道されることで、法整備・執行強化への世論圧力が高まり、中長期的には市場の透明性向上につながる可能性がある。上場不動産デベロッパーにとっては、法令遵守を徹底している企業ほど相対的な信頼性が増す展開となり得る。
日本企業・ベトナム進出企業への教訓:日系企業がベトナムで工場用地や商業施設用地を取得・賃借する際にも、土地使用権の真正性確認は最重要事項である。本件のように裁判所命令すら無視される実態があることを踏まえ、現地の信頼できる法律事務所を通じたデューデリジェンスの徹底が不可欠である。
FTSE新興市場指数格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナム格上げにあたっては、市場の透明性やガバナンスが評価基準となる。不動産分野における権利関係の不透明さや行政対応の遅れは、海外投資家の信認に影響し得る要素であり、当局がこうした事案を厳正に処理し制度改善につなげられるかが注目される。
ベトナム経済全体のトレンド:急速な都市化と工業化が進むベトナムでは、住宅需要と供給のミスマッチが社会問題化している。特に低所得層向けの社会住宅(ニャー・オー・サー・ホイ)の供給不足が、本件のような違法物件への需要を生む背景にある。政府は2025年から社会住宅120万戸建設計画を推進しているが、計画の実行速度が追いつかなければ類似の事件は今後も発生し得る。
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出典: 元記事












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