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ベトナム最大の経済都市ホーチミン市(HCMC)が、グリーンエネルギー、LNG(液化天然ガス)、洋上風力発電、海洋ロジスティクス、ハイテク産業を新たな「成長エンジン」に据え、従来型の成長モデルからの転換を本格化させようとしている。2025年5月14日にハノイで開催されたシンポジウム「ホーチミン市:工業・エネルギー・ハイテクサービスからの跳躍力」では、複数の専門家がこの方向性について踏み込んだ議論を展開した。
エネルギーを「インフラ」から「成長モデルの基盤」へ
今回のシンポジウムで注目すべきは、専門家たちがエネルギー問題を単なるインフラ整備や電力供給の課題としてではなく、ホーチミン市の成長モデルそのものを再構築するための土台として位置づけている点である。
政策管理・開発戦略研究院のレー・グエン・ティエン・ガー院長は、ホーチミン市はエネルギーに対して従来の思考を捨て、グリーンエネルギー、デジタルエネルギー、AI(人工知能)、ハイテク産業、そして東南部地域(ドンナムボー)全体の新たな成長エコシステムの中に総合的に位置づける必要があると主張した。同氏は「長期的な道を歩み、ベトナム企業を世界トップ500に入れるという目標を達成するには、リーディング企業に対して十分な規模の実験的メカニズムを与えなければならない」と強調している。
最大のボトルネックは「国家ガバナンスのアーキテクチャ」の欠如
ガー院長が指摘する現在の最大の障害は、制度や規制の不足ではなく、政策立案に資するデータの接続・分析・運用を可能にする「国家ガバナンスのアーキテクチャ(統治の全体設計)」が十分に構築されていないことである。この基盤が整わない限り、デジタルトランスフォーメーション(DX)、スマートシティ、工業・エネルギー統合型エコシステムのいずれも実質的な成果を出すのは困難だと警鐘を鳴らした。
ペトロベトナムに「脱・石油ガス」の新たな役割
地政学的リスクが高まるなか、ガー院長はペトロベトナム(PVN、ベトナム最大の国営石油ガスグループ)について、従来の石油・ガス企業という枠を超えた役割を担うべきだと提言した。具体的には、LNG、グリーンエネルギー、デジタルエネルギー、さらには都市・工業・エネルギー・金融を統合した新たなモデルの実験空間をPVNに与えるべきだとしている。
PVNは現在「ベトナム国家工業・エネルギーグループ」への転換を目指しており、ガー院長はこの方向性を高く評価。ホーチミン市および東南部地域の新しい発展エコシステムを統合する主体となる可能性があるとし、特にLNG、洋上風力、エネルギーロジスティクス、ハイテク工業の各分野での活躍を期待した。
カンザー〜コンダオの海洋経済空間が鍵
環境・海洋・島嶼の専門家であるズー・バン・トアン博士は、ホーチミン市の最大の優位性はカンザー(ホーチミン市南東部の沿岸地区)からコンダオ島(バリア・ブンタウ省に属する離島)に至る海洋経済空間と、長年にわたって形成されてきた港湾、ロジスティクス、石油ガスインフラにあると指摘した。この優位性は海上輸送やロジスティクスにとどまらず、南部地域における「工業・エネルギー・海洋技術サービスのハブ」形成への余地を開くものである。
特に洋上風力発電のバリューチェーンは発電だけにとどまらず、海洋機械、基礎構造物の製造、海上ロジスティクス、環境データ、オフショア技術サービスなど広範な産業を牽引する。PVNの子会社であるPTSC(ベトナム石油技術サービス総公社)が風力発電基礎構造物を製造・輸出している実績は、ベトナムが再生可能エネルギーのグローバルサプライチェーンに単なる消費市場としてではなく、供給側として深く参入し始めていることを示している。
旧来モデルの限界と「スーパーシティ圏」への転換
元国会経済委員会副委員長のグエン・ドゥック・キエン博士は、安価な労働力や土地集約型の伝統的工業モデルを続ける限り、ホーチミン市が長期的に高い成長率を維持するのは困難だと断言した。ハイテク工業、クリーンエネルギー、イノベーション、高品質技術サービスを基盤とするモデルへの転換は不可避である。
注目すべきは、ホーチミン市の発展空間がビンズオン省やバリア・ブンタウ省、さらに東南部地域全体へと拡大するなかで、都市構造自体が単極型都市モデルから、経済・ロジスティクス・エネルギー・テクノロジーの連携に基づく「スーパーシティ圏(超広域都市)」モデルへと変化しつつある点である。
ホーチミン市経済管理研究院のチャン・クアン・タン院長も、現在の核心的課題は制度と発展空間にあるとし、広域連携を推進するメカニズムが十分に開かれて初めて、東南部地域全体の新たな成長エコシステムが形成可能になると述べた。
「新世代エネルギー産業」が戦略変数に
シンポジウムでは多くの専門家が、新たなメカニズムを具体的なプロジェクトやバリューチェーン、実質的な成長成果へと迅速に転換することの重要性を訴えた。ホーチミン市の成長再定義の競争において、新世代のエネルギー産業は今後数十年にわたる都市の発展余地を左右する「戦略的変数」の一つとして位置づけられている。
投資家・ビジネス視点の考察
今回のシンポジウムが示す方向性は、ベトナム株式市場において複数のセクターに中長期的な影響を与えうる。
関連銘柄への影響:ペトロベトナムグループの上場子会社群——GAS(PVガス)、PVS(PVサービス/PTSC)、PVD(PVドリリング)、POW(PVパワー)——は、LNG・洋上風力・グリーンエネルギーへの事業転換が進めば中長期的な再評価の対象となる。特にPVS(PTSC)は洋上風力基礎構造物の輸出実績を持ち、グローバルサプライチェーンへの組み込みが進む銘柄として注目に値する。
日本企業への示唆:日本はベトナムにおけるLNGインフラや洋上風力分野で既に複数のプロジェクトに関与しており(JERA、住友商事、丸紅など)、ホーチミン市・東南部地域での新たなエネルギー・ハイテク産業エコシステム構築は、日本企業にとって追加的な事業機会となりうる。
FTSE新興市場指数との関連:2026年9月に見込まれるFTSE新興市場指数への格上げが実現すれば、ベトナム市場全体への資金流入が加速する。その際、エネルギー転換やハイテク産業といった構造的成長テーマを持つ銘柄群は、海外機関投資家の選好対象になりやすい。ホーチミン市の成長モデル転換は、こうしたグローバル資金を呼び込むための「ストーリー」としても重要である。
マクロ的位置づけ:ベトナムは2045年までに先進国入りを目指す国家目標を掲げており、ホーチミン市の成長モデル転換はその中核をなす。従来の不動産・製造業依存型から、エネルギー・テクノロジー・イノベーション駆動型への転換が具体的プロジェクトとして動き出すかどうかが、今後の注視ポイントとなる。
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