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ホーチミン市(ベトナム最大の商業都市、人口約1,000万人)が、マンション(chung cư)内での短期宿泊ビジネス——いわゆるAirbnb型民泊——に対する管理を本格的に強化する方針を打ち出した。2026年5月14日の記者会見で、ホーチミン市観光局が現状の課題と4つの重点対策を公表。急速に拡大するシェアリングエコノミー型宿泊が、住民との利害衝突や安全管理上の「穴」を生んでいる実態が明らかになった。
Airbnb型短期賃貸の功罪——観光には貢献、管理には「穴」
ホーチミン市観光局は、オンライン予約プラットフォーム(OTA)の普及が宿泊分野のシェアリングエコノミーを強力に後押ししていると分析する。短期賃貸モデルは宿泊の選択肢を多様化させ、価格帯・立地・空間の面で幅広い顧客層——外国人旅行者、専門家、長期滞在者、家族連れ——のニーズに対応している。さらに、ピークシーズンや大規模イベント時に中心部のホテル供給を補完し、郊外の住宅地域にも観光客を分散させることで地元経済への波及効果を生んでいる。
しかし同局は、この急成長が「自然発生的」(tự phát)であり、国の管理体制に多くの課題をもたらしていると指摘する。具体的には、営業許可条件、納税義務、治安維持、防火防災、居住管理、環境保護、そして周辺住民の合法的権利の保護といった分野で規制の空白が存在するという。
住宅法と観光法の「衝突」——最大の構造的課題
観光局が挙げる最大の難題は、住宅法(Luật Nhà ở)と観光法(Luật Du lịch)の間に存在する法的矛盾である。住宅法上、マンションの住戸は「居住目的」以外の使用が原則禁止されている。一方、観光法は宿泊施設としての登録・運営を認めている。現実には大半のAirbnb物件がマンション内に所在しており、住宅法違反の状態で営業が行われていることになる。この矛盾が住民との利害衝突を引き起こし、設備・サービス品質の最低基準も満たされないまま運営されるケースが多く、ホーチミン市の観光イメージにも悪影響を及ぼしているとされる。
また、Airbnb特有の「セルフチェックイン」方式が治安管理と一時滞在届出を困難にしている。一部のオーナーが届出を怠ることで都市の安全保障上のリスクが生じている。ホーチミン市公安局は宿泊管理ソフトウェアを導入済みだが、意図的に遵守しない事業者が依然として存在する。さらに、大半の観光用アパートメントが通達第18/2021/TT-BVHTTDL号に基づく定期報告を行っておらず、観光客数や売上に関する統計データの欠損が業界の需要予測を困難にしているという。
2026年4月の政策転換——Airbnb「条件付き再開」
こうした状況を受け、ホーチミン市は2026年4月、Airbnb型モデルの活動を「条件付き」で再び認める方針に転じた。核となるのが、決定第19/2026/QĐ-UBND号(2026年4月25日施行)である。同決定は従来の規定を置き換え、マンションの管理・使用に関する新たなルールを定めた。主なポイントは以下の通りである。
- マンション内での商業・サービス活動は、所管当局が承認した設計上の用途に合致しなければならない。
- 観光用アパートメントとして貸し出す場合、所有者は観光宿泊施設としての登録を行い、観光法を遵守する義務がある。
- 住宅・不動産・税務・居住管理・治安・電子商取引・環境衛生・防火防災に関するすべての規定を満たさなければならない。
- 短期宿泊営業を行うアパートメントは、観光法第49条および政令第168/2017/NĐ-CP号第29条に適合する必要がある。
ただし、観光局によると、決定第19号の施行以降、宿泊営業の届出を提出したマンション物件の数は「まだ多くない」のが実情である。多くの事業者が法的要件の精査、書類の整備、新基準への適合性評価を行っている段階であり、これは持続可能で管理された短期宿泊モデルの構築に向けた必要な準備過程だと観光局は位置づけている。
4つの重点対策——プラットフォーム規制からテクノロジー活用まで
観光局は課題解決に向け、以下の4つの柱からなる対策を提示した。
第一に、中央政府への法整備要請である。住宅法と観光法の矛盾を解消するための具体的なガイドライン策定を求め、観光用アパートメントの営業が許可される地域の明確化、運営規模の上限設定、住民の同意要件の規定を盛り込むよう提言している。
第二に、OTA(オンライン旅行代理店)プラットフォームへの責任付与である。Airbnb、Agoda(シンガポール拠点の予約サイト)、Booking.com(オランダ拠点)といったプラットフォームに対し、営業許可証・税コード・観光局の最低条件充足通知を取得した物件のみ掲載を認める仕組みを導入する。加えて、各プラットフォームは取引データを定期的に管理当局および税務当局に提供し、資金の流れを透明化する義務を負う。
第三に、テクノロジーの活用強化である。短期宿泊・ホームステイ・観光用アパートメントを含むすべての宿泊施設に対し、公安省の宿泊管理ソフトウェア「ASM」を通じた滞在届出を100%義務化する。ベトナム人・外国人を問わず全宿泊者が対象であり、手続きの自動化と治安管理の強化を同時に実現する狙いがある。
第四に、検査・取り締まりの強化である。最低条件を満たさない施設、治安・防火防災・環境に関する違反、無許可営業などに対し、重点的に査察を実施し、厳正に処分する方針を打ち出している。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の規制強化は、ベトナムの不動産・観光セクターに複数の示唆を与える。
不動産関連銘柄への影響:短期賃貸の規制強化は、マンション投資の「利回り」の前提を変える可能性がある。これまでAirbnb運用を前提に高利回りを謳っていたホーチミン市内の投資用コンドミニアムは、登録コストや運営制約の増加により収益性が低下するリスクがある。一方、正規のサービスアパートメントやホテル運営会社にとっては、非合法な競合が排除されることで稼働率・客室単価の改善が期待できる。ビングループ(Vingroup、ベトナム最大手コングロマリット)傘下のビンパール(Vinpearl)や、サイゴンツーリスト(Saigontourist)など正規ホテルチェーンにはプラス材料となり得る。
OTAプラットフォームへの規制波及:プラットフォーム側にライセンス確認義務とデータ共有義務を課す動きは、東南アジア全体で進む「プラットフォーム規制」の文脈に沿ったものである。日本のOTA事業者やベトナムに進出する日系不動産テック企業にとっても、コンプライアンス対応の見直しが必要になる可能性がある。
FTSE新興市場指数格上げとの関連:2026年9月に判断が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナム格上げにおいて、市場の透明性・規制の整備状況は重要な評価項目である。今回のような「グレーゾーンの経済活動」を法的枠組みに組み込む動きは、ベトナム政府のガバナンス改善姿勢を示すものとして、間接的に格上げ評価にプラスに働く可能性がある。
日本企業への示唆:ホーチミン市でマンション開発を手がける日系デベロッパーや、短期賃貸運用サービスを展開する日系企業は、決定第19号の詳細規定を早急に確認し、事業モデルの適法性を再検証すべきである。特に防火防災基準や住民同意要件は、日本基準とは異なる部分が多く、現地法務チームとの連携が不可欠となる。
総じて、ホーチミン市の今回の動きは「規制と成長の両立」を図る典型的な新興国の政策プロセスであり、短期的には市場の混乱要因となるものの、中長期的にはベトナム観光・不動産セクターの質的向上と投資環境の透明化に寄与するものと評価できる。
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