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ベトナム南部に建設が進むロンタイン国際空港(Long Thành International Airport)をめぐり、免税・商業施設大手サスコ(Sasco、ホーチミン証券取引所上場:SAS)のジョナサン・ハイン・グエン(Johnathan Hạnh Nguyễn)会長が、同空港での市場シェアが現行のタンソンニャット国際空港(Tân Sơn Nhất)より低下する可能性を認めつつも、旅客数の大幅増により売上・利益は上回るとの見通しを示した。「競合とのシェア分散を恐れない」という同氏の発言は、ベトナム航空インフラ投資における新たな競争環境を占ううえで注目に値する。
ロンタイン空港とは何か——ベトナム最大級の国家プロジェクト
ロンタイン国際空港は、ホーチミン市の東約40キロメートルに位置するドンナイ省(Đồng Nai)ロンタイン県に建設中のベトナム最大の空港プロジェクトである。現在、南部の国際線・国内線の大部分を担うタンソンニャット国際空港は、設計容量を大きく超える年間約4,000万人の旅客をさばいており、ターミナルの混雑や滑走路の処理能力の限界が長年指摘されてきた。市街地に囲まれた立地ゆえに拡張の余地もほぼなく、ロンタイン空港はその根本的な解決策として位置づけられている。
第1期の完成時には年間2,500万人の旅客処理能力を持ち、最終的には年間1億人規模にまで拡張される計画である。ベトナム政府はこのプロジェクトを国家的最重要インフラ事業と位置づけ、2025年に第1期の部分開業を目指していたが、スケジュールは一部調整されながらも着実に工事が進捗している。
ジョナサン・ハイン・グエン会長の発言——シェアよりも絶対額
サスコの会長であるジョナサン・ハイン・グエン氏は、ベトナムの免税品・空港商業ビジネスにおける「帝王」とも称される人物である。IPP(Imex Pan Pacific)グループの創業者でもあり、ベトナム国内の主要空港における免税店・ブランドショップ運営で圧倒的な存在感を持つ。タンソンニャット空港においてはサスコが免税品販売や商業施設運営で高いシェアを握ってきた。
今回の発言で同氏は、ロンタイン空港では競合他社も参入するため、タンソンニャット空港で享受してきたような高い市場シェアを維持することは難しいかもしれないとの認識を率直に示した。しかし同時に、ロンタイン空港の旅客数がタンソンニャット空港の「何倍にもなる」ことを強調し、市場シェアが下がったとしても売上高と利益の絶対額はロンタイン空港のほうが大きくなるとの見通しを示した。
この発言の背景には明確な算術がある。仮にタンソンニャット空港でのシェアが50%だったものがロンタイン空港で30%に低下したとしても、旅客数が3倍になれば、一人当たりの消費額が同水準であれば売上は約1.8倍になる計算である。国際線旅客の比率が高い大型ハブ空港では、免税品の購買単価が高くなる傾向があるため、実際の収益増はさらに大きくなる可能性がある。
ベトナム空港商業ビジネスの競争環境
ロンタイン空港の開業は、ベトナムの空港商業ビジネスにおける競争構造を根本から変えると見られている。タンソンニャット空港では、歴史的経緯やスペースの制約もあり、サスコをはじめとする既存事業者が強固な地位を築いてきた。しかし、ロンタイン空港は巨大なターミナルスペースを有するため、複数の事業者が参入する余地が大きい。
ベトナム政府としても、空港の商業スペースの入札を透明化・競争化する方針を打ち出しており、韓国のロッテやシンガポールの空港商業運営大手など、海外勢の参入も取り沙汰されている。ジョナサン会長の「シェア分散を恐れない」という発言は、こうした競争激化を織り込んだうえでの戦略的メッセージとも読み取れる。
サスコ(SAS)の企業概要と足元の業績
サスコ(正式名称:サービス航空サイゴン株式会社)は、ホーチミン証券取引所に上場する空港サービス企業である。免税品販売、飲食、ラウンジ運営、地上サービスなどを手がけ、タンソンニャット空港を主要な収益基盤としてきた。コロナ禍では国際線の停止により大幅な業績悪化に見舞われたが、2022年以降の旅客回復に伴い業績はV字回復を見せている。
ジョナサン・ハイン・グエン氏はIPPグループを通じて世界の高級ブランドのベトナム正規代理店も多数保有しており、空港ビジネスとブランドビジネスのシナジーがサスコの強みの一つとなっている。
投資家・ビジネス視点の考察
SAS株への影響:ロンタイン空港の開業は中長期的にサスコにとって明確な成長ドライバーとなる。短期的にはシェア低下への懸念が株価の重しになる可能性もあるが、旅客数の増加による売上・利益の絶対額の拡大が確認されれば、再評価の余地は大きい。今回のジョナサン会長の発言は、市場に対する先手を打った期待値コントロールとも解釈できる。
日本企業への示唆:ロンタイン空港は日本のODA(政府開発援助)も活用された事業であり、日本の建設・インフラ企業の関与も深い。空港周辺では工業団地や都市開発が急速に進んでおり、日系製造業のサプライチェーン再編にも影響を与える。空港商業分野においても、日本の飲食・小売ブランドが出店を検討する動きがあり、ビジネスチャンスは広い。
FTSE新興市場指数への格上げとの関連:2026年9月にも決定が見込まれるベトナムのFTSE新興市場指数への格上げは、海外資金のベトナム株への流入を大きく加速させる。空港・航空関連銘柄はインフラ整備の進展を示す象徴的セクターであり、ロンタイン空港プロジェクトの進捗はベトナム市場全体の成長ストーリーを補強する材料となる。SASのような空港関連銘柄は、格上げに伴う海外投資家のベトナム株物色の対象に入る可能性がある。
ベトナム経済全体のトレンド:ベトナムは2024年以降、GDP成長率が再び6〜7%台の高成長軌道に回帰しつつある。中間層の拡大と国際観光の回復は空港ビジネスの追い風であり、ロンタイン空港はその象徴的インフラとなる。ジョナサン会長の強気の見通しは、ベトナム経済の中長期的な成長ポテンシャルに対する確信の表れでもある。
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