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ホーチミン証券取引所(HOSE)上場の不動産デベロッパー、トゥドゥックハウス(Thuduc House、証券コード:TDH)に対し、ホーチミン市税務局が長年にわたり課していた税務強制措置がすべて撤回された。輸出入の通関手続き停止、インボイス使用停止、銀行口座凍結という事業運営の根幹を縛る措置が解除されたことで、同社は本格的な事業再開への道筋をつけた形である。
税務強制措置撤回の経緯
2026年4月21日、TDHはホーチミン市税務局から通知を受領したと発表した。これは、ホーチミン市にある最高人民裁判所控訴審が2025年9月23日に下した行政控訴判決(第332/2025/HC-PT号)の執行に関するものである。
具体的には、以下の措置が取り消された。
- 2020年12月25日付の是正措置決定第5438号および第5439号
- 2021年1月11日付の是正措置決定第66号
- 上記3決定から派生したすべての強制措置決定(輸出入通関手続きの停止、インボイス使用停止、銀行口座凍結)
- 2020年12月から2025年4月までの期間における、3,655億4,744万1,471ドンに係る延滞金についての税務滞納通知
この判決は、旧第二地区税務署(現ホーチミン市税務局)およびその署長による控訴をすべて棄却し、2025年4月24日の一審判決(第133/2025/HCST号)を全面的に維持する内容であった。TDHにとっては完全勝訴といえる結果である。
背景——電子部品をめぐる刑事事件との関連
TDHに対する税務強制措置の発端は、チャン・ホアン・ティエン(Trần Hoàn Tiên)らによる電子部品関連の刑事事件に遡る。同事件に関連して税務当局がTDHに対し巨額の追徴・是正措置を課したが、TDH側はこれを不当として行政訴訟を提起していた。約5年にわたる法廷闘争の末、司法が会社側の主張を認めた格好である。
ベトナムでは税務当局の権限が非常に強く、税務強制措置が発動されると企業活動がほぼ停止状態に追い込まれるケースが少なくない。TDHのケースは、企業が行政訴訟を通じて税務当局の決定を覆した象徴的な事例として、今後のベトナムにおける税務訴訟の先例となる可能性がある。
2025年通期業績——黒字転換を達成
TDHは2025年通期で連結税引後利益が1,080億ドン超となり、前年同期の約3,050億ドンの赤字から大幅な黒字転換を果たした。主な要因は以下の通りである。
- 刑事事件関連の執行回収:チャン・ホアン・ティエンらに対する判決執行により230億ドンを回収
- 行政訴訟の勝訴収入:税務強制措置に関する行政訴訟勝訴により910億ドン超の収入を計上
- 債務整理による収入:10年超の長期債務の整理により、その他の収入を計上
- 管理費の大幅削減:個別ベースで約3,240億ドン、連結ベースで約3,280億ドン超の管理費を削減。リストラクチャリング戦略の成果
- 引当金の非計上:財務状況の改善を反映し、各種引当金の計上を行わなかった
依然として残る課題——累積損失と警告銘柄指定
一方で、TDHの経営が完全に正常化したとは言い難い。2026年4月初旬、HOSEはTDH株を引き続き「警告(cảnh báo)」銘柄に指定すると発表している。理由は、2025年12月31日時点の連結未処分利益が約マイナス9,476億5,000万ドンと、依然として巨額の累積損失を抱えているためである。ベトナム証券取引所が2026年3月16日に公布した上場・取引規則(決定第22号)の基準を満たしていない。
警告銘柄に指定されている間、株式の取引自体は可能であるが、投資家にとっては注意喚起のシグナルであり、機関投資家の投資対象から外れやすい状況が続く。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の税務強制措置撤回は、TDHにとって事業正常化への大きな転換点である。通関手続きと銀行口座が使えるようになったことで、不動産開発や資産売却を含む本業の再起動が可能になる。
ただし、投資家としては以下の点に留意すべきである。
- 累積損失の解消には時間がかかる:約9,476億ドンの累積赤字は一朝一夕には消えない。保有資産の売却や継続的な黒字化が求められる。
- 警告銘柄指定の継続:HOSEの警告指定が解除されない限り、外国人投資家や機関投資家の本格参入は見込みにくい。
- ベトナム不動産市場全体との連動:ベトナムでは不動産市場の回復局面にあるが、TDHの場合は法的リスクの解消という個別要因が大きく、セクター全体のトレンドとは分けて分析する必要がある。
- FTSE新興市場指数格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE格上げにおいて、警告銘柄であるTDHが直接的な恩恵を受ける可能性は低い。しかし、ベトナム市場全体の制度的透明性向上という文脈では、行政訴訟で企業側の権利が認められた本件は、市場の法的予見可能性を高めるポジティブな事例として評価できる。
- 日本企業への示唆:ベトナムに進出している日系企業にとっても、税務当局との紛争が発生した場合に行政訴訟という手段が実効的に機能し得ることを示した点で、重要な参考事例となる。
TDH株は依然としてハイリスクな銘柄であるが、強制措置の撤回による事業基盤の回復は確実にプラス材料である。今後は資産売却計画や新規事業展開の具体策が示されるかどうかが、中長期的な株価の方向性を左右するだろう。
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出典: 元記事












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