ハノイ在住13年の現地投資家による、より深い企業分析・投資戦略は👉 メンバーシップで公開中
ベトナム国家銀行(中央銀行、SBV)が2026年4月9日に商業銀行各行との会合を開き、貸出残高対預金比率(LDR)規制の柔軟化を議論した。2026年1月から国庫預金の全額控除が発効したことで国営銀行を中心にLDRが急上昇し、預金金利の引き上げ競争が過熱している。規制緩和が実現すれば、金利上昇圧力の緩和と信用拡大の余地拡大が期待される。
通達22号・通達26号とLDR規制の経緯
ベトナム国家銀行が2019年に公布した通達22号(Thông tư 22/2019/TT-NHNN)は、銀行の健全性指標としてLDR(貸出残高÷総預金)の上限を85%と定めている。コロナ禍後の2022年、同規制を改正する通達26号(Thông tư 26/2022/TT-NHNN)が発布され、国庫(ベトナム国家財務省傘下の国庫機関、Kho bạc Nhà nước)からの有期預金をLDR計算の分母である「総預金」に算入できる特例措置が導入された。これはパンデミック後の銀行システムを支援する時限的な措置であった。
ただし、この特例には段階的な控除スケジュールが設けられていた。具体的には以下の通りである。
- 2023年:国庫預金の50%を控除(=50%は預金に算入可能)
- 2024年:60%を控除
- 2025年:80%を控除
- 2026年以降:100%を控除(=国庫預金は一切算入不可)
つまり2026年1月1日をもって、国庫預金はLDR計算から完全に除外された。
100%控除がもたらした影響——約100兆ドンの「消失」
証券会社KBSV(KB証券ベトナム)の分析によると、2025年末時点の国庫預金残高は推定約100兆ドン(約100nghìn tỷ đồng)に上る。この全額がLDRの分母から消えたことで、特に国庫預金を多く預かる国営商業銀行(ベトコムバンク=VCB、ベトインバンク=CTG、BIDV=BIDなど)のLDRが一気に跳ね上がった。各行はLDRを85%の上限以下に抑えるため、個人・法人からの預金獲得を急ぐ必要に迫られ、預金金利の引き上げ競争が激化している状況である。
国家銀行と商業銀行が検討する3つの緩和策
4月9日の会合では、主に以下の3方向の緩和案が議論された。
①通達26号のロードマップ延長
国庫預金の控除率を2025年水準の80%(=20%を預金に算入)で一定期間据え置き、100%への移行を先送りする案である。完全除外を急がず、金融市場の安定を優先する狙いがある。
②LDR計算式のテクニカルな調整
一部の商業銀行は、「総預金(Huy động)」の定義を拡大するよう提案した。具体的には、国際金融機関からの長期借入や長期預金証書(CD)をより高い割合で預金に算入することで、個人預金への依存度を下げる案である。
③LDR上限そのものの引き上げ
株式商業銀行(民間銀行)の一部からは、自己資本比率(CAR)が良好な銀行に限り、LDR上限を85%から87〜90%へ引き上げる案も出ている。システム全体の流動性に局所的な逼迫が見られる現状への対応策である。
期待される効果
KBSVは、上記の緩和策が実現した場合の効果として以下の3点を挙げている。
第一に、預金金利の上昇圧力の緩和である。国庫預金が再びLDR分母に算入されれば、国営銀行が「金利の錨(いかり)」として機能し、市場全体の金利水準を安定させる役割を果たす。
第二に、国営銀行の信用供与余力の回復である。国庫預金の大部分を保有する国営銀行グループのLDRが改善し、新規融資の拡大余地が生まれる。
第三に、経済成長への波及である。信用枠が拡大すれば、重点公共投資プロジェクトや製造業セクターへの資金供給が加速し、GDP成長を後押しする原動力となる。
投資家・ビジネス視点の考察
本件は複数の観点からベトナム株式市場に重要な意味を持つ。
銀行株への直接的なポジティブ材料:規制緩和が実現すれば、LDR制約で信用成長が頭打ちになっていた国営銀行(VCB、CTG、BID)の業績見通しが改善する。預金金利競争の緩和は、銀行セクター全体のNIM(純金利マージン)にもプラスに作用する。ベトナム株式市場(HOSE)において銀行セクターは時価総額の約3割を占めるため、指数全体への押し上げ効果も期待できる。
不動産・建設セクターへの波及:信用枠の拡大は、資金需要の大きい不動産デベロッパーや公共インフラ建設企業にとっても追い風となる。公共投資案件への融資加速が明確になれば、建設関連銘柄にも資金が向かいやすい。
FTSE新興市場指数への格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナム格上げに向け、金融システムの安定性は極めて重要な評価項目である。中央銀行が機動的にマクロプルーデンス規制を調整し、金利の急変動を抑制する姿勢を示すことは、海外機関投資家に対するポジティブなシグナルとなる。
日系企業への影響:ベトナムに進出する日系製造業にとって、現地通貨建て借入金利の動向は設備投資計画に直結する。預金金利の安定は貸出金利の安定にもつながるため、事業環境の予見可能性が高まる。特に中小企業向け融資の拡大が進めば、日系サプライヤーの取引先であるベトナム地場企業の資金繰り改善にも寄与するだろう。
今後の注目点は、国家銀行が通達改正をどの程度のスピードで実行に移すかである。会合から正式な通達改正までには通常数カ月を要するが、金利上昇が経済全体に悪影響を及ぼすリスクが高まる中、異例の速さで対応が進む可能性もある。引き続き、国家銀行の動向と銀行各行のLDR推移を注視していきたい。
いかがでしたでしょうか。今回のニュースについて、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。
この記事が参考になったら、ぜひXでシェアしていただけると嬉しいです。より多くの方にベトナム投資の魅力を伝えたいと思っています。
ハノイ在住13年日本語で毎日配信。
✅ 個別銘柄の詳細分析 ✅ FTSE格上げ関連速報 ✅ 現地だからわかるリアルタイム情報
👉 月額980円でメンバーシップに参加する
出典: 元記事












コメント