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ベトナム中小企業協会(VinaSME)のト・ホアイ・ナム副会長兼事務局長が、ベトナム経済誌VnEconomyのインタビューで衝撃的な数字を明かした。ベトナムの中小企業の約80%が銀行融資へのアクセスに困難を抱えており、融資条件を満たせる企業はわずか20〜25%にとどまるという。最大の原因は、現行の信用評価基準が大企業向けに設計されており、中小企業の実態に合っていないことにある。
融資アクセスを阻む3つの構造的ボトルネック
ナム副会長は、中小企業が融資を受けられない原因として、大きく3つの構造的な問題を指摘している。
第一に、担保資産の問題である。ベトナムの中小企業、とりわけ製造業の企業は、資産を全く持たないわけではない。しかし、その資産の多くは賃借工場、機械設備、在庫、受注残、キャッシュフローといった形態で存在する。これらは経済的価値を持ち、キャッシュフローを生み出す能力があるにもかかわらず、銀行が伝統的に求める「法的に明確な有形資産」という担保基準を満たさないケースが大半である。つまり、企業に担保がないのではなく、銀行側の担保の認定・評価方法が中小企業の実態に適合していないのである。
第二に、財務の透明性の問題である。銀行の視点からすれば、多くの中小企業は透明な財務報告体制を整えていない。しかし、ベトナムの中小企業の大半は家族経営モデルで運営されており、小規模な組織体制の中で、会計システムは主に税務申告目的で設計されている。経営管理と銀行の要件を同時に満たすようには作られていないのが実情である。この結果、銀行が求めるデータ基準と企業が提供できるデータの間に大きなギャップが生じ、融資審査の過程で困難が生じている。
第三に、信用リスク評価の手法の問題である。中小企業の最大の特徴は、高い柔軟性、迅速な適応力、短い資金回転期間にある。ところが、融資審査が財務諸表、貸借対照表、過去の履歴データに主に依拠し、資金回転の速さや運営の柔軟性を適切に反映しない場合、事業計画の実現可能性や効率性を過小評価してしまうリスクがある。
ナム副会長はさらに、銀行システム内の「心理的バイアス」にも言及した。中小企業向け融資の処理コストは大企業向けと大差がないにもかかわらず、実際には多くの金融機関が「リスクが高い」という先入観から、中小企業への融資に慎重になる傾向がある。しかし、データ全体を見れば、中小企業の不良債権比率は他の顧客層と比べて必ずしも高くない。感覚ではなく、実際のデータに基づいた再評価が必要であると同氏は強調している。
デジタル化への適応──銀行と企業、どちらが先に動くべきか
市場の急速な変化とデジタルトランスフォーメーション(DX)が進む中、「中小企業の変革が遅い」という批判がある。この点についてナム副会長は、銀行と企業の双方が変わる必要があるとしつつも、資源・組織力・技術投資力の面で優位に立つ銀行こそが主導的な役割を果たすべきだと主張する。
銀行側の変革にはコストがかかるが、その波及効果は金融エコシステム全体に広がる。中小企業セクターが経済に占める比重は極めて大きく、その約80%が十分な融資にアクセスできていない現状は、逆に言えば信用拡大の巨大な余地でもある。
一方、中小企業側も段階的にガバナンス能力を高め、情報の透明化を進め、財務基準に近づいていく努力が求められる。実際、業務の標準化、テクノロジーの活用、ブランド構築、さらには環境配慮に取り組む中小企業は増えている。しかし、その変革コストは小さくない。多くの中小企業は依然として家族経営モデルで、独自の経理部門すら持たず外部の会計サービスに頼っている。会計システムは税務対応が中心で、銀行基準や経営管理の要件を同時に満たすには程遠い状況である。
また、DX推進には会計ソフト、管理システム、内部統制人材、請求書・証憑の標準化など多くの要素が同時に必要であり、大企業にとっては当然のコストでも、中小企業にとっては大きな負担となる。加えて、一部の企業には税負担への懸念から透明化を躊躇する心理もある。透明化による融資アクセスや市場拡大といった長期的メリットが実感されにくい一方、税務負担は即座に発生するためである。
こうした背景から、中小企業の変革を企業の自助努力だけに委ねることはできない。DX推進の方向付け、適切な技術ソリューションの提供、データ連携、コンプライアンスコストの支援を含む統合的なエコシステムの構築が不可欠であるとナム副会長は訴えている。
機能不全に陥る信用保証基金──4つの構造的課題
ベトナムには中小企業の融資アクセスを支援するための信用保証基金が設立されているが、ナム副会長によれば、その役割は期待に遠く及んでいない。基金・銀行・企業の三者関係を分析した結果、4つの根本的な問題が浮かび上がった。
第一に、基金の資源が限られている。財政面でも人材面でも脆弱であり、薄い資本基盤のもとで資本保全を最優先せざるを得ない。その結果、リスクを分担して企業を支援するという本来の役割ではなく、「守り」の運営に終始している。
第二に、基金と銀行の連携メカニズムが統一されていない。基金が保証を出した案件であっても、銀行が改めて一から審査をやり直すケースが多い。これでは保証の意味が薄れ、企業の融資アクセスに要する時間とコストが増大するだけである。
第三に、保証を受けるための手続きが煩雑である。銀行融資の障壁を取り除くことが基金の目的であるはずだが、実際には基金自体の手続きが銀行と同等、あるいはそれ以上に複雑な場合もある。
第四に、運営上の信頼関係が不足している。一部の銀行は基金の保証を実効性あるリスク軽減手段とみなしておらず、基金側も責任を負うことへの心理的抵抗がある。結果として、基金・銀行・企業の三者が緊密に連携できず、一貫性のある運営メカニズムが欠如している。
最大のボトルネックは資金の不足ではなく、基金の使命にふさわしい効果的な運営メカニズムの欠如にあると、ナム副会長は結論づけている。
求められる政策転換──担保主義からデータ・キャッシュフロー主義へ
ナム副会長が提言する改革の方向性は明確である。担保資産や保証の安全性を重視する従来型の融資判断から、キャッシュフローと事業活動データに基づく評価への転換である。これは、担保力は弱いが柔軟なキャッシュフロー創出力を持つ中小企業の特性に、より適合したアプローチである。
具体的には、金融機関法(Luật Các tổ chức tín dụng)を含む法的枠組みの早期見直しが必要であり、超小規模企業を含む中小企業セクターに適した規定への改正が求められる。法整備は融資アクセスの拡大のみならず、金融機関が中小企業融資に踏み出す際の「責任回避心理」の解消にも寄与する。
また、データを中核に据えた中小企業支援エコシステムの構築が不可欠である。機関間で連携・照会可能な共有データシステムを構築することで、評価の効率性向上、情報コストの削減、融資判断の高度化が実現する。信用保証基金についても、「防衛的」運営から脱却し、企業と銀行の橋渡し役として実質的に機能するよう再設計する必要がある。
そして最も重要なのは、中小企業の信用リスクに対する認識そのものの転換である。感覚や伝統的基準ではなく、実データに基づくアプローチに切り替えることで、融資規模の小ささ、高い柔軟性、迅速な市場適応力、そして実際には想定ほど高くない不良債権比率といった中小企業セクターの強みを正当に評価できるようになる。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の報道は、ベトナム経済の根幹に関わる構造的課題を浮き彫りにしている。ベトナムの登録企業の約97%を占める中小企業セクターへの融資が滞っている現状は、マクロ経済の成長ポテンシャルが十分に活かされていないことを意味する。
銀行セクターへの影響:中小企業向け融資の拡大は、ベトナムの上場銀行にとって巨大な成長余地である。データ駆動型の融資審査モデルへの移行に先行投資する銀行は、競争優位を築ける可能性が高い。VPBank(VPB)、TPBank(TPB)、MB Bank(MBB)など、デジタルバンキングやリテール・中小企業融資に積極的な銀行の動向は注目に値する。
フィンテック・DX関連:中小企業の会計・財務データの標準化ニーズは、会計ソフト、ERP、電子請求書、信用スコアリングなどのフィンテック企業にとって巨大な市場機会を意味する。FPTコーポレーション(FPT)をはじめとするIT企業にも波及効果が期待される。
FTSE新興市場指数格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるベトナムのFTSE新興市場指数への格上げにおいて、市場の透明性や企業ガバナンスの向上は重要な評価ポイントである。中小企業セクター全体の透明化・標準化が進めば、経済全体の信頼性向上につながり、格上げに向けたプラス材料となり得る。
日系企業への示唆:ベトナムに進出している日系製造業のサプライチェーン上には多くのベトナム中小企業が存在する。取引先の財務基盤強化や融資環境の改善は、サプライチェーンの安定性向上に直結する。また、中小企業向け経営管理ツールやコンサルティングサービスを提供する日系企業にとっては、新たなビジネスチャンスともなり得る。
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出典: VnEconomy












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