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ベトナムの中小企業(SME)が進めるデジタルトランスフォーメーション(DX)は、実際にはフェイスブック(Facebook)やザロ(Zalo)、ティックトック(TikTok)といったソーシャルメディアを活用したライブ配信販売など、いわば「表面的」な段階にとどまっているとの指摘が専門家から出された。本質的な業務プロセスの変革には至っていないという厳しい見方であり、ベトナム経済の生産性向上を左右する重要な論点として注目される。
専門家が指摘する「上辺だけ」のDXの実態
専門家によれば、ベトナムの中小企業の多くは、フェイスブックやザロ、ティックトックなどのSNSプラットフォームを使ってライブコマース(ライブ配信を通じた商品販売)を行うことをもって「デジタル化した」と認識している傾向が強いという。こうした取り組みは確かに販路拡大や顧客との接点強化には効果があるものの、専門家はこれを「デジタルトランスフォーメーションの“葉”や“枝”の部分」、つまり表面的な活用にすぎないと評している。
真のDXとは、企業の経営管理システム、生産工程、サプライチェーン管理、財務会計といった「根」の部分、すなわち企業経営の根幹に関わるプロセスをデジタル技術によって再構築することを指す。しかし、多くの中小企業では、資金力や人材、技術的知見の不足から、こうした本質的な変革に着手できていないのが実情だ。
なぜベトナムの中小企業はDXの「根」に届かないのか
ベトナムでは登録企業の9割以上を中小企業が占めるとされ、経済の裾野を支える存在として極めて重要な役割を果たしている。しかし多くの中小企業は、限られた予算の中で即効性のある売上向上策を優先せざるを得ない状況にある。SNSを使ったライブ配信販売は、初期投資が比較的少なく、短期間で成果を出しやすいため、多くの経営者にとって「手軽なデジタル化」として選ばれやすい。
一方で、基幹システムの導入やデータ基盤の整備、業務フローのデジタル化には相応の投資と専門人材が必要であり、資金繰りに余裕のない中小企業にとってはハードルが高い。結果として、SNS活用による販売促進が「デジタル化の成功例」として認識される一方、企業の競争力を根本から底上げする変革は後回しにされがちだという構図が浮かび上がる。
ベトナム政府が掲げるDX推進政策との温度差
ベトナム政府は近年、国家全体のデジタル化を重要政策課題と位置づけ、企業のDX支援策を相次いで打ち出してきた。中小企業向けのデジタル化支援プログラムや税制優遇、技術導入補助などがその一例である。しかし、政策の意図と現場の実態の間には依然としてギャップが存在する。専門家の指摘は、政府が目指す「産業全体の生産性向上につながる本質的なDX」と、現場で実際に進んでいる「販売チャネルとしてのSNS活用」との間に大きな乖離があることを浮き彫りにしている。
投資家・ビジネス視点の考察
この指摘は、ベトナム株式市場や日本企業のベトナム進出戦略を考える上でも示唆に富む。まず、ベトナムのSME層の生産性向上が遅れているという事実は、中長期的な経済成長率の押し上げ要因として期待されるDX推進の効果が、想定より緩やかにしか顕在化しない可能性を示唆する。ベトナム政府が目指す高付加価値産業への転換や、製造業のスマート化には、まだ時間がかかると見るべきだろう。
一方で、これは日本企業にとってビジネスチャンスとも言える。会計・ERP(統合基幹業務システム)、クラウドサービス、業務効率化ソフトウェアなど、日本企業が強みを持つ分野でベトナムの中小企業を支援するニーズは今後さらに拡大する可能性が高い。すでに一部の日系IT企業やコンサルティング会社がベトナムのSME向けDX支援に参入しているが、市場としての伸びしろは依然として大きいと言える。
また、2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げとの関連で見れば、ベトナム市場全体の透明性・効率性向上が期待される中で、中小企業レベルでのデジタル化の遅れは、国全体の生産性データや企業統治(コーポレートガバナンス)の質にも間接的に影響を及ぼしかねない。格上げ後に流入が見込まれる海外機関投資家は、上場企業だけでなく、サプライチェーンを構成する中小企業の経営の透明性や効率性にも関心を向ける可能性があり、この構造的課題は中長期的な投資判断材料として注視すべきポイントとなるだろう。
総じて、今回の専門家の指摘は、ベトナム経済の「見た目の華やかさ」と「実体としての底力」のギャップを改めて浮き彫りにするものであり、投資家としてはSNSマーケティングの活況に惑わされず、企業の実質的なデジタル基盤整備の進捗を見極める視点が求められる。
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