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ベトナム乳業最大手のビナミルク(Vinamilk、HOSE上場・ティッカー:VNM)のCEOマイ・キエウ・リエン氏が、原材料価格の上昇圧力にもかかわらず、短期的には販売価格の安定を最優先し、消費者の購買力を支援する方針を明言した。ベトナムの消費市場が米中貿易摩擦や世界的なインフレの余波を受ける中、同国最大の食品企業トップの発言は市場関係者の注目を集めている。
マイ・キエウ・リエン氏の発言——「価格安定で消費者を守る」
マイ・キエウ・リエン氏は、ベトナムの実業界において「乳業の女帝」とも称される存在である。1994年からビナミルクの経営トップを務め、同社を地場の国営企業から東南アジア有数の乳業メーカーへと育て上げた実績を持つ。フォーブス誌の「アジアで最も影響力のある女性経営者」にも度々選出されてきた人物だ。
そのマイ・キエウ・リエン氏が今回示した方針の要点は明快である。原材料価格、とりわけ粉乳(スキムミルクパウダーやホエイパウダーなど)に関連する原料群が上昇トレンドにあることを認めた上で、短期的にはビナミルクとして販売価格の引き上げを行わず、安定価格を維持することで消費者の購買力(ベトナム語で「sức mua」)を下支えする考えを示したのである。
背景——なぜ原料価格が上がっているのか
ベトナムの乳業は、国内の生乳生産だけでは需要を賄えず、粉乳や乳原料の多くをニュージーランド、オーストラリア、欧州、米国などから輸入に頼っている。2025年後半から2026年にかけて、世界的な乳製品原料相場は上昇基調にある。主な要因としては、以下が挙げられる。
- ニュージーランドの気候不順:世界最大の乳製品輸出国であるニュージーランドで、干ばつや異常気象の影響により生乳生産量が伸び悩んでいる。
- 世界的な飼料価格の高止まり:穀物相場が依然として高水準にあり、酪農家のコスト負担が増加している。
- 物流コストの上昇:紅海周辺の地政学リスクや海上運賃の上昇が、輸入原料の調達コストを押し上げている。
- 米中貿易摩擦の波及:米国による関税政策がグローバルなサプライチェーンに影響を及ぼし、間接的にベトナムの輸入コストにも波及している。
こうした複合的なコスト上昇圧力の中で、ビナミルクが「値上げをしない」と明言した意味は大きい。ベトナムでは乳製品、特に育児用粉ミルクや学校給食向けの牛乳は生活必需品としての側面が強く、価格引き上げは消費者の家計に直結するためだ。
ビナミルクの企業戦略と市場ポジション
ビナミルク(正式名称:ベトナム乳業株式会社、Vietnam Dairy Products Joint Stock Company)は、ホーチミン証券取引所(HOSE)に上場する時価総額トップクラスの銘柄であり、VN-Index(ベトナムの代表的な株価指数)の構成比でも常に上位に位置する。国内乳製品市場で約50%超のシェアを誇り、牛乳、ヨーグルト、粉ミルク、チーズ、アイスクリームなど幅広い製品ラインナップを展開している。
同社は近年、ベトナム国内にとどまらず、フィリピンやカンボジア、中東、アフリカなど海外市場への進出も積極的に推進しており、輸出比率の拡大が中長期の成長ドライバーとして期待されている。2024年にはオーガニック牛乳ブランドの強化やDtoCチャネルの拡充にも注力してきた。
今回の「価格据え置き」方針は、短期的には利益率の圧迫要因となる可能性がある一方で、消費者ロイヤルティの維持・強化を通じて中長期的な市場シェアの防衛につながる戦略と読むこともできる。ベトナムでは近年、韓国系や日系を含む外資系乳業メーカーの参入が進んでおり、価格競争力の維持は経営上の最重要課題の一つである。
ベトナムの消費市場——購買力への懸念
マイ・キエウ・リエン氏が「購買力の支援」を強調した背景には、ベトナム国内の消費マインドが依然として慎重であるという現実がある。ベトナムの2025年のGDP成長率は政府目標を上回る水準で推移したものの、2026年に入ってからは米国の関税政策変更による輸出減速懸念や、不動産市場の回復の遅れなどが消費者心理に影を落としている。
特に都市部の中間層は、住宅ローン負担や教育費の増加もあって可処分所得に余裕がなく、食品・日用品への支出にもシビアになっている。こうした環境下でビナミルクが「値上げしない」と宣言することは、企業としてのブランドイメージ向上にも寄与するだけでなく、政府の物価安定政策に協力する姿勢としても評価されうる。
投資家・ビジネス視点の考察
VNM株への影響:短期的には、原料コスト上昇を販売価格に転嫁しない方針は粗利益率(グロスマージン)の低下要因となり、株価にはやや慎重な見方が広がる可能性がある。ただし、ビナミルクはベトナム株式市場において「ディフェンシブ銘柄」としての性格が強く、配当利回りも比較的高水準を維持しているため、市場全体が不安定な局面では逆に資金の逃避先として買いが入りやすい側面もある。
日本企業への示唆:ベトナムの食品・消費財市場に進出している日本企業(明治、森永乳業、グリコなど)にとっても、現地最大手の価格政策は無視できない。ビナミルクが価格を据え置く中で日系メーカーが値上げに踏み切れば、価格差が広がりシェア喪失のリスクがある。逆に、品質やブランド力で差別化できている企業にとっては、プレミアム戦略を維持するチャンスでもある。
FTSE新興市場指数格上げとの関連:2026年9月にも決定が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナム格上げが実現すれば、VNMのような時価総額の大きい銘柄には海外機関投資家からの大量の資金流入が期待される。その際、ビナミルクの安定した経営方針と消費者基盤の強さは、外国人投資家にとって大きな安心材料となる。今回の「消費者寄り」の価格政策は、ESG(環境・社会・ガバナンス)の観点からもポジティブに評価されるだろう。
ベトナム経済全体の文脈:ベトナム政府は2026年もGDP成長率8%以上を目標に掲げている。内需拡大は輸出と並ぶ成長の柱であり、消費者の購買力維持は国家経済戦略の根幹でもある。ビナミルクのような業界リーダーが価格安定に協力する姿勢は、マクロ経済政策との整合性も高い。
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