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ベトナムで個人所得税(PIT)における扶養家族(người phụ thuộc)の収入認定基準が大幅に引き上げられる見通しとなった。扶養家族として認定されるための月間収入上限が、現行の100万ドンから300万ドンへと3倍に拡大される。物価上昇が続くなかで長年据え置かれてきた基準がようやく見直されることになり、多くの納税者にとって実質的な減税効果をもたらす重要な制度変更である。
制度変更の詳細——何がどう変わるのか
ベトナムの個人所得税制度では、納税者が扶養する家族(配偶者、子ども、高齢の親など)について「扶養控除」を受けることができる。この制度は日本の扶養控除に類似しており、扶養家族1人あたり月額440万ドンが課税所得から差し引かれる仕組みだ。ただし、扶養家族として認定されるためには、その人物の月間収入が一定の基準額以下であることが条件とされてきた。
これまで、この収入上限は月100万ドンに設定されていた。しかし、ベトナムの最低賃金は過去数年にわたり繰り返し引き上げられており、2024年7月にも地域別最低賃金が約6%引き上げられたばかりである。パートタイムの仕事やちょっとした副収入があるだけで月100万ドンを超えてしまうケースが多発しており、実態と乖離した基準であるとの批判が強まっていた。
今回の改正により、扶養家族の収入上限が月300万ドンに引き上げられる。これは現行基準の3倍にあたる水準であり、たとえば高齢の親がわずかな年金収入を得ている場合や、配偶者が軽いパートタイム労働に従事している場合でも、扶養家族として認定されやすくなる。結果として、納税者が受けられる扶養控除の適用範囲が実質的に拡大し、手取り収入の増加につながることが見込まれる。
背景——長年の据え置きと物価上昇のギャップ
ベトナムの個人所得税法は2007年に制定され、2009年から施行された。その後、基礎控除額(本人分)は月1,100万ドンに引き上げられ、扶養家族1人あたりの控除額も月440万ドンに設定されたが、扶養家族の収入認定基準である月100万ドンという数字は長く据え置かれたままであった。
この間、ベトナムの消費者物価指数(CPI)は着実に上昇を続け、都市部を中心に生活コストは大幅に増大している。ハノイやホーチミン市では月100万ドンではコーヒー代と交通費程度にしかならず、この基準がいかに現実離れしていたかは明らかであった。国会や財務省に対しては、税制全般の見直しを求める声が強く上がっており、今回の措置はその一環として位置づけられる。
なお、ベトナムでは個人所得税の基礎控除額そのものの引き上げについても議論が進行中である。現行の本人控除月額1,100万ドンについても、生活実態に合わないとの指摘が根強く、近い将来さらなる改正が行われる可能性がある。
対象となる「扶養家族」の範囲
ベトナムの税制上、扶養家族として登録できるのは以下のような人物である。
- 18歳未満の子ども(学生の場合は18歳以上でも認められるケースがある)
- 労働能力を失った配偶者
- 退職後の高齢の両親・祖父母
- 障がいを持つ兄弟姉妹など
ベトナム社会では、大家族で同居し、働き手が高齢の親や兄弟の生活を支えるケースが依然として多い。日本と比較しても扶養家族の人数が多くなる傾向があり、今回の基準引き上げは広範な納税者層に恩恵をもたらすと考えられる。特に製造業やサービス業で働く中間所得層にとっては、年間で数十万ドン〜数百万ドン規模の税負担軽減につながる可能性がある。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の個人所得税の扶養基準引き上げは、一見すると税制の技術的な修正に過ぎないように見えるが、ベトナム経済全体にとっていくつかの重要なインプリケーションを持つ。
1. 内需刺激効果:扶養控除の適用範囲拡大により、中間所得層の可処分所得が増加する。ベトナムの個人消費はGDPの約6割を占めるとされ、小売・消費関連セクターにはポジティブな影響が期待できる。ホーチミン証券取引所(HOSE)に上場する小売大手モバイルワールド(MWG)や、食品・飲料セクターの銘柄にとっては追い風となりうる。
2. 外国人駐在員・日系企業への影響:ベトナムに進出している日系企業の現地採用スタッフや、日本人駐在員の税務処理にも影響が及ぶ。ベトナムで個人所得税を納めている日本人にとっても、ベトナム側の扶養家族登録の条件が緩和されることで、税負担が軽減される可能性がある。各企業の人事・経理部門は最新の施行細則を確認すべきである。
3. FTSE新興市場指数への格上げとの関連:2026年9月にも決定が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナム格上げに向けて、ベトナム政府は制度面の近代化・透明化を急いでいる。税制の合理化もその一環として捉えることができ、投資環境の改善シグナルとして海外投資家に好感される可能性がある。
4. 税収への影響と財政バランス:一方で、控除適用の拡大は短期的には税収減をもたらす。ベトナム政府はインフラ投資や公共事業への財政支出を拡大しており、財源確保との両立が課題となる。付加価値税(VAT)の引き上げや、法人税の見直しなど、他の税制改正と合わせて注視する必要がある。
総じて、今回の措置はベトナム政府が国民の税負担軽減と消費刺激を通じた経済成長維持を重視している姿勢の表れである。ベトナム株への投資を検討する日本人投資家にとっても、こうした制度面の動向を継続的にフォローすることが、中長期的な投資判断の精度を高めることにつながるだろう。
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