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ベトナム個人所得税改正案、扶養家族の収入上限を月300万ドンに据え置き──インフレ連動なしの判断が波紋

Bộ Tài chính giữ ngưỡng xác định thu nhập người phụ thuộc 3 triệu đồng
📘 この記事は「ベトナム経済研究会」が提供するベトナム最新ニュース解説です。
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ベトナム財務省(Bộ Tài chính)は、個人所得税(PIT)の改正案において、扶養家族(người phụ thuộc)と認定するための収入上限を月額300万ドンに引き上げる提案を維持しつつ、インフレ率に連動した自動調整メカニズムの導入は見送る方針を示した。この判断は、物価上昇が続くベトナムにおいて、給与所得者の税負担のあり方を巡る議論を再燃させている。

目次

扶養家族の収入基準とは何か

ベトナムの個人所得税制度では、納税者が扶養している家族(高齢の両親、配偶者、子どもなど)の人数に応じて所得控除が認められている。ただし、扶養家族として認められるには、その家族自身の月収が一定の水準を下回っている必要がある。現行制度では、この「扶養家族の収入上限」が長年にわたって据え置かれてきたため、物価や賃金水準の上昇に追いつかず、実態とかけ離れているとの批判が強かった。

今回の改正案では、この上限を月額300万ドンに引き上げることが提案されている。財務省は、この水準が現在の経済実態により適合しているとの立場を取っている。

インフレ連動を見送った理由

改正議論のなかで、国会議員や専門家の一部からは、扶養家族の収入上限を消費者物価指数(CPI)に連動させ、自動的に調整する仕組みの導入を求める声が上がっていた。物価が上昇するたびに法改正を待つのでは、制度が現実の生活費に追いつかないという合理的な指摘である。

しかし財務省は、この自動調整メカニズムの導入を今回は見送った。背景には、税制の安定性を重視する行政側のスタンスがある。インフレ連動を導入すれば、毎年の基準額が変動し、税務当局の事務負担が増大するほか、税収見通しの予測が困難になるという実務上の懸念が影響したとみられる。

ベトナムの個人所得税をめぐる構造的課題

ベトナムの個人所得税制度は、2007年に制定された個人所得税法(Luật Thuế thu nhập cá nhân)を基盤としており、その後数度の改正を経ているものの、基礎控除額や扶養控除額の見直しは経済成長のスピードに比して遅れがちであった。とりわけ、基礎控除額(mức giảm trừ gia cảnh)は本人分が月額1,100万ドン、扶養家族1人あたり月額440万ドンとされているが、ハノイやホーチミン市といった大都市部では生活費が急上昇しており、この控除水準では実際の生活実態を反映しきれていないとの不満が根強い。

ベトナムは過去10年以上にわたり年平均6〜7%の経済成長を続けてきた。2025年のGDP成長率は8%超を記録し、2026年もチャン・ホン・ハー首相(Thủ tướng Trần Hồng Hà、2025年5月就任)の下で高成長路線が継続している。一方で、都市部を中心に食品価格、住居費、教育費などが上昇を続けており、名目所得の増加が実質的な購買力向上に直結しないケースも増えている。こうした環境下で、税制が物価上昇に自動対応しない仕組みのままでは、実質的な増税と同じ効果をもたらす「ブラケット・クリープ」(bracket creep)が進行するリスクがある。

給与所得者への影響

今回の改正案が最終的に国会で承認された場合、扶養家族の収入上限は月額300万ドンとなる。これにより、わずかなパートタイム収入や年金収入がある高齢の両親などが扶養家族の対象外になるケースが一定程度緩和される見込みである。ただし、インフレ連動が導入されないため、今後さらに物価が上昇した場合には、再び同様の問題が生じる可能性が高い。

ベトナムでは、工場労働者から都市部のホワイトカラーまで、扶養家族を抱える世帯が多い。儒教文化の影響もあり、親世代との同居率が高く、高齢の両親を扶養するケースは日本以上に一般的である。このため、扶養控除の基準は多くの納税者にとって極めて身近な問題であり、改正の行方は社会的な注目を集めている。

投資家・ビジネス視点の考察

個人所得税改正の議論は、一見すると株式市場とは無関係に映るかもしれないが、中長期的な視点ではいくつかの重要な示唆を含んでいる。

1. 内需・消費セクターへの影響:扶養控除や基礎控除の引き上げ幅が限定的にとどまれば、給与所得者の可処分所得の伸びが抑制され、内需セクターの成長にブレーキがかかる可能性がある。小売大手のモバイルワールド(MWG)やマサングループ(MSN)など消費関連銘柄にとっては、中間層の購買力動向が業績を左右する重要なファクターである。

2. 外国人人材の確保と日系企業への影響:ベトナムの個人所得税は累進課税で最高税率35%と、ASEAN域内では比較的高い水準にある。控除額が実態に追いつかない場合、高度人材の手取り収入が圧迫され、日系企業を含む外資系企業にとって人材確保コストの上昇要因となり得る。ベトナムに進出している日系製造業やIT企業は、現地スタッフの報酬設計において税制変更を注視する必要がある。

3. FTSE新興市場指数格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げは、ベトナム株式市場にとって最大級のカタリストである。格上げが実現すれば、数十億ドル規模の受動的な資金流入が期待される。税制改革は格上げの直接的な判断基準ではないものの、透明性の高い制度設計や投資家にとって予測可能な政策運営は、市場全体の信頼性を高める要素となる。インフレ連動メカニズムの不採用は、制度の簡素さを維持する一方で、政策の機動性に疑問符を付ける見方もある。

4. 財政健全性の観点:インフレ連動を導入しないことは、税収の安定確保という点では財務省にとってプラスに働く。ベトナム政府は大規模なインフラ投資(南北高速鉄道、高速道路網整備など)を推進しており、安定した税収基盤は財政運営上の重要課題である。この点は、公共投資関連銘柄(建設、セメント、鉄鋼など)にとって間接的なポジティブ材料となり得る。

総じて、今回の財務省の判断は「大胆な改革」というよりも「現実的な微調整」にとどまった印象である。ベトナム経済が高成長を続ける中、個人所得税制度の抜本的な見直しは中長期的に避けられない課題であり、今後の国会審議の動向を引き続き注視する必要がある。


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出典: 元記事

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