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ベトナム共産党の理論的支柱であるグエン・スアン・タン(Nguyễn Xuân Thắng)中央理論評議会議長が、科学技術・イノベーション・デジタルトランスフォーメーション(DX)を基盤とする新たな国家発展モデルの確立を強く訴えた。第14回党大会の方針を具体化する重要な政策シグナルであり、ベトナム経済の構造転換の方向性を読み解くうえで見逃せない発言である。
約40年の「ドイモイ」から次のステージへ
グエン・スアン・タン氏は、ハイフォン市で開催されたシンポジウム「科学技術・イノベーション・DXに基づく国家発展モデルの刷新」において基調講演を行った。同シンポジウムは、中央政策戦略委員会、ハイフォン市党委員会・人民評議会・人民委員会、ホーチミン国家政治学院、中央理論評議会が共催し、共産党機関誌『タップチー・コンサン(Tạp chí Cộng sản)』、国家政治出版社、ベトナム経済科学会、ベトナム経済誌が専門面で協力した大規模な政策討議の場である。
タン氏は、1986年のドイモイ(刷新)政策開始から約40年を経て、ベトナムは「人間を中心に据え、包摂的かつ持続可能な発展を目指し、誰一人取り残さない」という独自の発展モデルを段階的に形成してきたと総括した。国民は発展に参加する主体であると同時に、その成果を享受する対象でもあるという位置づけである。
資本・資源・低技能労働依存からの脱却
一方で、タン氏はベトナムの成長モデルが長期にわたり資本投入、天然資源、低技能労働力に依存してきた構造的問題を率直に指摘した。この認識を踏まえ、第14回党大会では、科学技術、イノベーション、DX、人材の質、そして近代的ガバナンス能力を主要な成長エンジンとする新モデルへの転換を明確に打ち出している。
タン氏によれば、新たな成長モデルは「経済がどのように成長するか」だけでなく、「何のために成長するのか」「誰のための成長か」「どのような社会的価値体系に基づくのか」という問いに答えるものでなければならない。最終目標はGDPや成長率の数字ではなく、国民の生活の質、幸福度、そして発展の機会であるとした。
「三つの同心円」——成長・発展・社会主義モデルの一体的刷新
特に注目すべきは、タン氏が成長モデル、発展モデル、ベトナム型社会主義モデルの三者を「三つの同心円(ba vòng tròn đồng tâm)」として捉えるべきだと提唱した点である。発展モデルの刷新は経済改革にとどまらず、発展思考、指導方式、国家ガバナンス、社会組織、そして資源の動員・配分の仕組み全体の総合的な刷新を意味するとした。
人材面では、21世紀の「新しい人間像」として、愛国心、市民意識、イノベーション思考、デジタルスキル、生涯学習能力を備えた人材の育成を求めた。人間は目標であると同時に、内発的な発展の原動力でもあるという二重の位置づけである。
グリーン転換と社会的公正の両立
タン氏はグリーン発展について、もはや政策の選択肢ではなく、気候変動対応とグリーン転換の文脈における必然的要請であると断じた。ただし、転換コストが貧困層、中小企業、社会的弱者に集中しないよう、社会的公正を確保しながら進めなければならないと釘を刺した。
この点は、ベトナムが2050年までのカーボンニュートラル達成を国際公約として掲げていることとも整合する。再生可能エネルギー、電気自動車(EV)、グリーンファイナンスといった分野への政策的追い風が今後も続くことを示唆している。
「発展によって安定を、安定によって持続的発展を」
タン氏は第14回党大会文書の新たな命題——「発展をもって安定を図り、安定をもって迅速かつ持続可能な発展を推進する」——を引用し、これをベトナム的発展方式の弁証法的特徴として高く評価した。従来の「安定を最優先し、その上で発展を図る」という順序から、発展と安定を相互に強化し合う動的関係として再定義した点が新しい。
戦略的自主性の確立——孤立ではなく深い統合の上に
世界の分断と激しい競争が進む中、タン氏は戦略的自主能力の構築を強調した。ただし、戦略的自主は孤立主義を意味しない。制度、技術、データ、エネルギー、食糧、国防・安全保障、外交の各領域で主体性を確保しつつ、深い国際統合と強化された内発的能力を基盤とするものであるとした。
国家の役割については、行政管理型の思考から「発展を創造する国家ガバナンス(quản trị quốc gia kiến tạo phát triển)」への転換を求めた。国家は市場に代わって行動するのではなく、制度の整備、インフラ・データ基盤の構築、公正な競争環境の創出を主導し、同時に市場の失敗を是正し社会的公正を保障する役割を担うべきだとした。
シンポジウムで提起された三つの論点
タン氏はシンポジウムに対し、以下の三つの大テーマに集中して議論するよう要請した。
第一に、科学技術・イノベーション・DXがもたらす機会と課題の識別。特に技術吸収能力、制度の質、デジタルインフラ、サイバーセキュリティ、人材、そして急速なDXの中での後れを取るリスクに注意を払うべきだとした。
第二に、発展モデルに関する国際的な経験の研究。
第三に、成長モデル・発展モデル・ベトナム型社会主義モデルの三者の関係性の明確化。
さらにタン氏は、発展の評価指標(KPI)を経済規模や労働生産性だけでなく、生活の質、公共サービスの質、社会的公正、文化的力、国家の自立能力を含む総合的な体系として構築すべきだと提言した。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の発言は、党の最高理論機関トップによるものであり、政策の方向性を先取りするシグナルとして極めて重要である。以下の観点から、投資家やベトナム進出企業への示唆を整理する。
1. テクノロジー・DX関連銘柄への追い風:科学技術とDXを成長の主エンジンに据える方針は、FPT(ベトナム最大手IT企業、HOSE上場)をはじめとするテクノロジーセクターにとってポジティブである。デジタルインフラ、サイバーセキュリティ、AI関連の政策需要拡大が期待される。
2. グリーン関連投資の拡大:グリーン転換の「必然化」は、再生可能エネルギー、EV関連(ビンファスト等)、グリーンボンド市場の成長を後押しする。日本企業にとっても、環境技術やグリーンファイナンス分野での協業機会が広がる可能性がある。
3. 制度改革と「創造する国家」への転換:行政管理型からガバナンス型への転換が実現すれば、ビジネス環境の透明性・予見可能性が向上し、外国直接投資(FDI)の質的改善につながる。これは2026年9月に判断が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げ(現在はフロンティア市場に分類)にとっても追い風材料となりうる。市場アクセスの改善、制度の近代化、デジタル化の進展は、FTSE格上げの評価基準と直接的に合致するためである。
4. 人材育成と日本企業の関わり:デジタルスキルと生涯学習能力を備えた人材育成の強調は、日本企業がベトナムで展開する技能実習・特定技能制度、あるいは現地での高度人材採用にも関連する。人材の質的向上はベトナム製造業の付加価値向上に直結し、「チャイナ+1」戦略の受け皿としてのベトナムの競争力をさらに高めるだろう。
5. 「発展で安定、安定で発展」の含意:この命題は、成長率を落としてでも安定を優先するという従来型の保守的アプローチからの脱却を意味する。経済成長を積極的に追求する姿勢が明確になったことで、2025〜2030年の高成長シナリオ(年率7〜8%)の実現可能性に対する市場の信頼感が高まる可能性がある。
総じて、今回のシンポジウムでの発言は、ベトナムが「低コスト生産拠点」から「イノベーション主導型経済」へと本格的に舵を切ろうとしていることを改めて確認するものである。政策の実行力が問われる段階に入っており、今後の具体的な法制度整備や予算配分の動きを注視する必要がある。
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出典: 元記事












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