ハノイ在住13年の現地投資家による、より深い企業分析・投資戦略は👉 メンバーシップで公開中
ベトナムの医療水準が国際的な注目を集めている。機内での緊急対応から脳腫瘍の摘出手術、がん治療まで、ベトナム人医師が外国人患者を次々と救う事例が相次いでおり、医療ツーリズム市場の急拡大が現実味を帯びてきた。2024年に7億ドル規模だった同市場は、年率18%成長で2033年に約40億ドルに達すると予測されている。
機内で外国人乗客を救ったバックマイ病院の教授
2026年5月4日夜、ハノイ発パリ行きのベトナム航空VN19便。離陸から約4時間が経過した巡航高度で、外国籍の男性乗客が突然、耳の痛みを訴え、続いて左側顔面の麻痺症状が出現した。発音や会話にも支障をきたし、機内には緊急アナウンスが繰り返し流された。
偶然同便に搭乗していたのが、マイ・ズイ・トン教授(バックマイ病院脳卒中センター長)である。バックマイ病院(Bệnh viện Bạch Mai)はハノイに位置するベトナム最大級の総合病院で、脳卒中治療では国内トップクラスの実績を誇る。トン教授は直ちに患者を診察し、末梢性第7脳神経(顔面神経)麻痺と診断。急性脳卒中ではないと判断したことが決定的に重要だった。
教授は携行していたコルチコステロイド薬を即座に投与し、機長に対して緊急着陸は不要と助言。結果、便は予定通りパリのシャルル・ド・ゴール空港に着陸し、到着時には患者のバイタルサインは安定していた。機長からは手書きの感謝状が贈られている。
ロシア人女性の巨大脳腫瘍を摘出——K病院の実力
ロシア国籍の女性患者E.L.さん(37歳)は、左半身の脱力、頭痛、倦怠感を抱えてベトナムのK病院(Bệnh viện K、ハノイにあるベトナム最大のがん専門病院)を受診した。MRI検査の結果、右前頭頂葉に大型の脳腫瘍が確認され、深刻な圧迫が生じていた。
同院脳神経外科のグエン・ドゥック・リエン准教授率いるチームは、マイクロサージェリー(微小外科手術)と術中神経ナビゲーションシステムを駆使して手術を実施。腫瘍を全摘出しつつ、運動野を含む機能的脳皮質を温存することに成功した。術後7日目の時点で左半身の運動機能は90%以上回復し、経過は良好である。リエン准教授は「複雑な疾患でもベトナム国内で安心して治療を受けられるという明確なメッセージだ」と語った。
英国から帰国して手術——ベトドゥック病院の脊椎外科
英国で数カ月にわたり治療を受けたものの改善が見られなかった患者が、ベトナムに戻りヴィエト・ドゥック病院(Bệnh viện Hữu nghị Việt Đức、ハノイの主要外科病院)を受診した。診断は多椎間の頸椎脊柱管狭窄症で、脊髄への重度の圧迫により麻痺リスクが高い状態であった。マイクロサージェリーと最新の術中神経モニタリングを組み合わせた手術で病変を根治的に処理し、運動機能の顕著な回復を達成している。
同病院はスポーツ外傷や複雑な骨関節疾患でも外国人患者の受け入れ実績が豊富だ。オーストラリア国籍のアームレスリング選手(自国の全国大会で23位)が長期の手の負傷に苦しんでいたケースでは、上肢外科・スポーツ医学科のルウ・ザイン・フイ医師が執刀。術後わずか24時間でリハビリを開始し、競技復帰への道が開かれた。
インドネシア人のがん患者をホーチミン市で救命
ホーチミン市医科薬科大学病院(Bệnh viện Đại học Y Dược TP.HCM)では、インドネシア国籍の67歳男性患者のケースが注目を集めた。激しい腹痛と腹部膨満で食事がほぼ不可能な状態となり、インドネシアの担当医の紹介でベトナムに渡航した。
診断は上行結腸がんステージIIに腸閉塞を合併した状態。医療チームは結腸間膜全切除術(CME:Complete Mesocolic Excision)を実施した。この最新の術式により腫瘍と対応する間膜を一括切除し、リンパ節郭清も十分に行うことで長期的な治療効果を高める。術後、腸閉塞は完全に解消され、食事摂取と消化機能が回復。根治手術の原則に則った施術と適切な術後補助療法により、5年生存率は比較的良好と見込まれている。
地方病院でも——米国人患者がベトナムで眼科手術を選択
注目すべきは、こうした事例が首都ハノイやホーチミン市の大規模病院に限らない点である。中部クアンビン省のベトナム・キューバ友好ドンホイ病院(Bệnh viện Hữu nghị Việt Nam – Cu Ba Đồng Hới)では、米国人患者が自国での治療を見送り、ベトナムでの眼科手術を選択した。その理由は、大幅に低いコスト、短い待機時間、そして専門技術の質の高さであった。
医療ツーリズム連盟VMTAが始動——2030年に最大200万人の医療観光客を目標
こうした個別の成功事例を国家戦略として束ねる動きも加速している。2026年4月7日、ベトナム医療ツーリズム連盟(VMTA:Vietnam Medical Tourism Alliance)がハノイで正式に発足した。医療と観光の両分野を国レベルで連携させる専門組織としてはベトナム初の試みである。
VMTAが掲げる2030年までの主要目標は以下の通りである。
- 医療ツーリズム客を年間100万〜200万人追加
- 平均滞在期間を現行の7〜8泊から15〜30泊に延伸
- 年間売上30億〜50億ドルの創出
ベトナム保健省によれば、同国の医療ツーリズム市場は2024年時点で7億ドル。これが年率18%で成長し、2033年には約40億ドル規模に拡大する見通しである。「治療と保養の組み合わせ」というトレンドが追い風となり、ASEAN域内での医療ハブとしてのポジション確立が視野に入ってきた。
投資家・ビジネス視点の考察
医療ツーリズムの拡大は、ベトナム経済にとって複数の側面でインパクトがある。
関連銘柄への影響:ベトナム株式市場においては、病院運営企業や医療機器関連銘柄が恩恵を受ける可能性がある。上場している民間病院グループや製薬企業にとって、外国人患者の増加は単価の高い収益源の拡大を意味する。また、観光セクター(ホテル、航空)も滞在期間の延伸により恩恵を受けやすい。
日本企業への示唆:日本は高齢化に伴う医療費の増大が課題であり、ベトナムでの医療サービスは価格競争力が極めて高い。日系の医療機器メーカーや製薬会社にとっては、ベトナムの病院インフラ整備に伴う需要拡大が商機となる。また、日本の医療法人やヘルスケア企業がベトナムの病院と提携し、日本人患者向け医療ツーリズムのパッケージを構築する動きも今後増加するだろう。
FTSE新興市場指数への格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるベトナムのFTSE新興市場指数への格上げが実現すれば、海外からの機関投資家マネーが大量に流入する。医療・ヘルスケアセクターはディフェンシブ銘柄として注目されやすく、格上げによるバリュエーション再評価の恩恵を受ける可能性がある。
マクロ経済における位置づけ:ベトナム政府は製造業依存の成長モデルからサービス産業の高度化へ舵を切りつつある。医療ツーリズムはまさにその象徴的セクターであり、年率18%という成長率は製造業の輸出成長率を上回るペースである。30億〜50億ドルという2030年目標が実現すれば、観光収入全体の中でも大きなシェアを占めることになり、経常収支の改善にも寄与するだろう。
ベトナムの医療が「安かろう悪かろう」から「安くて高品質」へと認知が変わる転換点に、いまベトナムは立っている。投資家としては、この構造変化の初期段階を見逃さないことが重要である。
いかがでしたでしょうか。今回のニュースについて、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。
この記事が参考になったら、ぜひXでシェアしていただけると嬉しいです。より多くの方にベトナム投資の魅力を伝えたいと思っています。
ハノイ在住13年日本語で毎日配信。
✅ 個別銘柄の詳細分析 ✅ FTSE格上げ関連速報 ✅ 現地だからわかるリアルタイム情報
👉 月額980円でメンバーシップに参加する
出典: 元記事












コメント