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ベトナムの国営金取扱企業であるSJC(サイゴン・ジュエリー・カンパニー)が、2024年度の業績を公表した。売上高は過去10年間で最も低い水準に沈んだにもかかわらず、税引後利益は前年比9%増の4,255億ドンと過去最高を更新した。金市場が世界的に激動する中、「売上減・利益増」という一見矛盾する決算の裏側には、ベトナム特有の金流通構造と政策環境が深く関わっている。
SJCとは何か——ベトナム金市場の「独占的存在」
SJCは正式名称をSaigon Jewelry Company Limited(サイゴン宝飾公司)といい、ホーチミン市人民委員会が100%出資する国有企業である。1988年の設立以来、ベトナム国内の金地金(ゴールドバー)市場で圧倒的なシェアを握ってきた。特に「SJCブランド」の金地金は、2012年にベトナム国家銀行(中央銀行)が金地金の製造・流通を事実上SJC1社に限定する政策を打ち出して以降、国内でほぼ独占的な地位を確立している。
ベトナムでは伝統的に金が「安全資産」として国民に深く浸透しており、結婚式の贈答品、不動産取引の決済手段、そして個人の資産防衛手段として広く利用されてきた。SJCの金地金は国際金価格に対して大幅なプレミアム(上乗せ価格)が付くことでも知られ、そのプレミアムは時に1テール(約37.5グラム)あたり数百万ドンから1,000万ドン以上に達することもある。このプレミアム構造こそが、SJCの収益モデルを理解する鍵となる。
売上高10年来最低の背景——取引量の縮小
SJCの売上高が過去10年で最低水準に落ち込んだ背景には、複数の要因が絡み合っている。
第一に、ベトナム国家銀行による金市場の管理強化がある。2024年にかけて当局は国内金価格と国際金価格の乖離(プレミアム)を縮小させるため、金地金の入札販売を繰り返し実施した。これにより市場の流動性が一時的に制約され、民間での取引量が減少したとみられる。
第二に、国際金価格の急騰そのものが取引量を抑制した側面がある。金価格が1オンス2,000ドルを大きく超える水準で推移する中、一般消費者にとって金地金の購入ハードルが上がり、小口取引が減少した可能性が高い。売上高は「販売数量×単価」で決まるが、単価上昇を上回る数量減少が売上高を押し下げた構図である。
それでも利益が過去最高となった理由
売上高が低迷する中で純利益が過去最高を記録した要因は、主に利益率(マージン)の大幅な改善にある。
SJCの収益は、金地金の売買スプレッド(買値と売値の差額)と加工手数料、そしてブランドプレミアムに依存している。国際金価格が上昇基調を続ける局面では、在庫として保有する金の評価益が膨らむほか、買取価格と販売価格のスプレッドが拡大しやすい。特にベトナムでは、国内価格と国際価格の乖離が大きい時期に取引を行うと、SJCにとっては1件あたりの利益が大きくなる傾向がある。
また、国有企業としてSJCは販売管理費や人件費の上昇を比較的抑制しやすい立場にあり、コスト構造が大きく変わらない中でマージンが拡大すれば、売上高の減少を補って余りある利益成長が実現する。税引後利益4,255億ドン、前年比9%増という数字は、まさにこの構造的な恩恵を反映したものである。
ベトナム金市場の制度的特殊性
ベトナムの金市場は、他のアジア諸国と比較しても極めて特殊な規制環境にある。2012年の政令24号(Decree 24)により、金地金の製造はSJCブランドに一本化され、商業銀行や民間企業は独自ブランドの金地金を新規製造できなくなった。これは事実上の国家独占であり、SJCに強力な価格決定力をもたらしている。
一方で、この独占体制はベトナム国内で長年批判の対象にもなってきた。国内金価格が国際価格を大幅に上回る「SJCプレミアム」は、消費者にとっては不利益であり、国会でもたびたび議論されている。2024年にはベトナム国家銀行が金市場改革に動く姿勢を見せ、将来的にSJCブランドの独占を見直す可能性も取り沙汰されている。こうした政策リスクは、SJCの将来的な収益構造に影響を与え得る重要な論点である。
投資家・ビジネス視点の考察
SJC自体は非上場の国有企業であるため、直接的に株式を購入することはできない。しかし、同社の業績動向はベトナムの金市場全体、さらにはベトナム経済のマクロ環境を読み解く上で重要なシグナルとなる。
金関連銘柄への波及:ベトナム株式市場(HOSE・HNX)には、宝飾品関連企業やゴールド販売チェーンを展開する上場企業が複数存在する。SJCの高利益率は、金市場全体のマージン環境が良好であることを示しており、PNJ(フーニュアン・ジュエリー、ベトナム最大手の宝飾品上場企業)などの関連銘柄にもポジティブな示唆を与える。PNJは加工宝飾品が主力だが、金地金価格動向の恩恵を間接的に受ける銘柄として注目に値する。
ベトナムドンと金の関係:ベトナムでは、ドン安局面で金需要が高まる傾向がある。米FRBの金融政策やベトナム国家銀行の為替管理政策と合わせて、金市場の動向を見ることで、ベトナム通貨の先行きを読む手がかりにもなる。
FTSE新興市場指数格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナム格上げは、主にベトナム株式市場全体への資金流入を促すものであり、SJCのような非上場国有企業に直接的な影響は限定的である。ただし、格上げによってベトナム経済全体への国際的な注目度が高まれば、金市場の制度改革(SJC独占の見直しなど)が加速する可能性もあり、間接的な影響は無視できない。
日本企業への示唆:ベトナムに進出する日本の金融機関や商社にとって、ベトナムの金市場規制は参入障壁であると同時に、制度改革が進めばビジネスチャンスにもなり得る。金関連ビジネスへの規制緩和は、ベトナム政府が金融市場の自由化をどこまで進めるかを測る「リトマス試験紙」とも言える。
総じて、SJCの「売上減・利益増」という決算は、ベトナム金市場の構造的な歪みと国有企業の独占的地位が生み出した結果であり、今後の政策変更リスクを含めて注視すべきテーマである。
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出典: 元記事(VnExpress)












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