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ベトナムで女性が経営する企業の資金需要のうち、約50〜60億ドルが未充足のまま残されている——オーストラリアの研究機関がこのような調査結果を公表した。ベトナムでは中小企業の約4分の1を女性が経営しているとされるが、金融アクセスにおけるジェンダーギャップは依然として大きく、経済成長のボトルネックとなっている可能性がある。
50〜60億ドルの「資金の空白」とは何か
オーストラリアの開発・研究機関の調査によると、ベトナムにおける女性経営企業(女性が所有・経営の主導権を持つ企業)は、銀行融資や投資資金へのアクセスにおいて男性経営企業と比較して著しく不利な状況に置かれている。その結果、満たされていない資金需要の総額は約50〜60億ドルに達するとされる。
この「資金ギャップ(khoảng trống vốn)」は、単に融資が拒否されるケースだけでなく、そもそも申請を行わない「自己選別」の問題や、担保要件を満たせないために借入規模が制限されるケースなども含んでいる。ベトナムでは不動産を担保とする融資慣行が根強いが、土地使用権証書(いわゆる「レッドブック」)が夫名義で登録されているケースが多く、女性経営者が自身の名義で十分な担保を提示できないという構造的な問題がある。
ベトナムにおける女性起業の現状
ベトナムは東南アジア地域の中でも女性の経済参画が比較的高い国として知られている。世界銀行のデータによると、ベトナムの女性労働参加率は約70%前後で推移しており、ASEAN諸国の中でも上位に位置する。また、ベトナム商工会議所(VCCI)などの統計では、登録企業全体のうち女性が代表を務める企業は約20〜26%程度とされ、この比率はアジア太平洋地域では比較的高い水準にある。
しかし、女性経営企業の多くはサービス業や小売業といった小規模事業に集中しており、製造業やテクノロジー分野への進出は限定的である。さらに、企業規模が拡大するにつれて女性経営者の比率は急速に低下する傾向があり、上場企業レベルでは女性CEOの割合は極めて限られている。こうした「規模の壁」の背景にあるのが、まさに今回指摘された資金アクセスの問題である。
なぜオーストラリアが調査を行ったのか
オーストラリアはベトナムにとって重要な開発パートナーであり、ODA(政府開発援助)や技術協力を通じてベトナムの経済発展を支援してきた歴史がある。2024年には両国関係が「包括的戦略パートナーシップ」に格上げされており、経済・貿易面での連携は一層深まっている。特にジェンダー平等や中小企業支援はオーストラリアの開発援助における重点分野であり、今回の調査もそうした文脈の中で実施されたものとみられる。
オーストラリア側は、この資金ギャップを埋めるためにジェンダーレンズ投資(Gender Lens Investing)の促進や、ベトナムの金融機関における女性向け融資商品の開発支援などを提案している可能性がある。ジェンダーレンズ投資とは、投資判断においてジェンダー平等の観点を組み込むアプローチであり、国際金融公社(IFC)や世界銀行グループなども積極的に推進している手法である。
ベトナム政府の対応と政策動向
ベトナム政府もこの問題に対して無策ではない。近年、中小企業支援法の改正や、女性経営企業向けの優遇融資プログラムの整備が進められている。ベトナム国家銀行(中央銀行)も金融包摂(フィナンシャル・インクルージョン)の推進を政策目標に掲げており、デジタル金融サービスの普及を通じて、従来の銀行融資にアクセスしにくかった層へのサービス提供を拡充しようとしている。
一方で、制度面の改善だけでは根本的な解決には至らないとの指摘もある。担保に依存しない信用評価モデルの構築や、女性起業家向けのメンタリング・ネットワークの拡充、さらにはフィンテック企業によるマイクロファイナンスサービスの発展など、多角的なアプローチが求められている。
投資家・ビジネス視点の考察
今回のニュースは、ベトナム株式市場に直接的なインパクトを与えるものではないが、中長期的な視点では複数の示唆を含んでいる。
金融セクターへの影響:50〜60億ドルという「満たされていない資金需要」は、裏を返せば金融機関にとって未開拓の巨大市場が存在することを意味する。ベトナムの商業銀行の中で、女性経営企業向けの専門融資商品を開発・展開できる銀行は先行者利益を享受できる可能性がある。IFCなどの国際機関から女性向け融資のための資金供与を受ける銀行も増えており、この分野は注目に値する。
日本企業への示唆:ベトナムに進出している日系企業にとって、現地サプライチェーンの中で女性が経営する中小企業との取引は珍しくない。これらの企業が資金不足で事業拡大や品質改善に投資できないことは、日系企業のサプライチェーンの安定性にも間接的に影響し得る。また、日本の金融機関やフィンテック企業にとっては、ベトナムの女性起業家向け金融サービスという新たなビジネス機会が存在する可能性がある。
FTSE新興市場指数への格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナムの格上げにおいて、ESG(環境・社会・ガバナンス)要素は直接的な昇格基準ではないものの、海外機関投資家がベトナム市場を評価する際の定性的な判断材料となる。ジェンダー平等や金融包摂の改善は、ベトナム市場全体の「投資適格性」を底上げする要因として機能し得る。
マクロ経済への影響:ベトナムはGDP成長率7〜8%を目標に掲げる高成長路線を走っているが、女性経営企業という経済主体が十分な資金にアクセスできないことは、潜在的な経済成長力の損失を意味する。50〜60億ドルの資金ギャップが解消されれば、雇用創出、生産性向上、税収増加など、ベトナム経済全体に波及効果をもたらす可能性がある。この点は、ベトナムの持続的成長に賭ける長期投資家にとって注視すべきテーマである。
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出典: 元記事












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