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ベトナム建設業界の「伝説的経営者」として知られるグエン・バー・ズオン(Nguyễn Bá Dương)氏のエコシステムに属するリコンズ(Ricons)で、取締役会会長の交代が発表された。コテコンズ(Coteccons、ホーチミン証券取引所上場:CTD)の元副社長であるファム・クアン・ルック(Phạm Quân Lực)氏が、リコンズの新たな取締役会会長に就任する。建設業界の勢力図に関わる人事であり、今後の業界再編を占ううえで注目に値する動きである。
グエン・バー・ズオン氏とは何者か——ベトナム建設業界の「影の巨人」
グエン・バー・ズオン氏は、ベトナム最大級の建設企業コテコンズ(Coteccons Construction Joint Stock Company)を一代で業界トップに押し上げた立役者である。コテコンズは1980年代に設立された国営企業を前身とし、2004年に株式会社化、2010年にホーチミン証券取引所(HOSE)に上場した。ズオン氏は同社の会長兼総社長として長年経営を率い、ランドマーク81(ホーチミン市にある東南アジア有数の超高層ビル)やビンホームズ(Vinhomes)の大規模住宅開発など、ベトナムを代表する建設プロジェクトを次々と手がけてきた。
しかし2020年、シンガポールの建設大手クオンミン(Kusto Group)との経営権争いが激化し、ズオン氏はコテコンズの経営から退くことになった。以降、ズオン氏はリコンズ(Ricons Investment Construction Joint Stock Company)やSOL E&C(旧ユニソン)など、自身が影響力を持つ企業群——いわゆる「ズオン氏エコシステム」——を通じて建設事業を展開してきた。リコンズはもともとコテコンズの傘下企業として設立された経緯があり、コテコンズと袂を分かった後も、ズオン氏のビジネスの中核として位置づけられている。
新会長ファム・クアン・ルック氏の経歴と人事の背景
リコンズの新たな取締役会会長に就任するファム・クアン・ルック氏は、コテコンズの元副社長(Phó Tổng Giám đốc)という経歴を持つ。コテコンズ時代にズオン氏のもとで経営の実務を担ってきた人物であり、2020年のコテコンズ経営権交代の際にズオン氏とともにコテコンズを離れた「ズオン陣営」の中核メンバーの一人と目される。
今回の会長交代は、リコンズがさらなる事業拡大フェーズに入るための体制刷新と見られる。ベトナム建設業界では、不動産市場の回復基調や政府による大型インフラ投資の加速を背景に、ゼネコン各社が受注拡大に向けた経営体制の強化を進めている。ルック氏の就任は、コテコンズ時代に培った大型プロジェクトの管理・遂行能力をリコンズに持ち込み、同社の競争力を一段高めようとする意図がうかがえる。
リコンズの現在の立ち位置
リコンズはベトナムの建設会社としては中堅から大手に位置し、商業施設、高級マンション、オフィスビル、工場建設など幅広い分野で実績を持つ。特にホーチミン市を中心とした南部ベトナムでの存在感が大きい。近年は外資系企業の工場建設案件(FDI関連案件)にも積極的に参画しており、ベトナムへの製造拠点移転(チャイナプラスワン)の恩恵を受けるポジションにある。
なお、リコンズは現時点ではベトナムの証券取引所に上場していないが、過去に上場の検討が報じられたこともあり、今回の経営体制強化が将来的なIPO(新規株式公開)に向けた布石となる可能性もある。
コテコンズとの「因縁」——建設業界の勢力争い
リコンズの動向を語るうえで、コテコンズとの関係は避けて通れない。2020年にズオン氏がコテコンズを去った後、コテコンズの業績は一時大幅に落ち込んだ。技術者や管理職の多くがズオン氏とともにリコンズやSOL E&Cに移籍したためである。コテコンズはその後、新体制のもとで業績回復を進めているが、かつての圧倒的な業界首位の座は揺らいでいる。
一方のリコンズは、ズオン氏の人脈とノウハウを吸収し、着実に業容を拡大してきた。今回のルック氏の会長就任は、コテコンズ時代の経営幹部がリコンズの中枢にさらに深く入り込むことを意味し、両社の人材面での差がさらに広がる可能性がある。ベトナム建設業界におけるコテコンズ対リコンズの構図は、日本で例えるなら、大手ゼネコンの経営陣が独立して競合企業を育てるようなものであり、業界関係者の関心は依然として高い。
投資家・ビジネス視点の考察
ベトナム建設セクターへの影響:今回の人事は非上場企業のトップ交代であるため、ベトナム株式市場への直接的なインパクトは限定的である。ただし、上場企業であるコテコンズ(CTD)にとっては、リコンズの経営体制強化が競争環境の厳しさを意味する。CTDの株価動向を追う投資家は、リコンズの案件受注状況にも注意を払う必要がある。
日系企業への影響:ベトナムに工場進出する日系企業にとって、建設パートナーの選定は極めて重要である。リコンズはFDI関連の工場建設にも実績があり、経営体制の安定化は日系企業にとってもポジティブな材料である。特にベトナム南部(ホーチミン市周辺・ビンズオン省・ドンナイ省など)で工場建設を計画する企業は、リコンズの動向をウォッチしておく価値がある。
FTSE新興市場指数の格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるベトナムのFTSE新興市場指数への格上げが実現すれば、ベトナム株式市場全体への海外資金流入が加速する。建設セクターは不動産・インフラ投資と密接に連動するため、格上げに伴う経済活性化の恩恵を間接的に受ける立場にある。リコンズが将来IPOに踏み切る場合、格上げ後の活況な市場環境が追い風になる可能性もある。
ベトナム経済全体のトレンド:ベトナム政府は2025〜2026年にかけて高速道路・鉄道・空港など大型インフラプロジェクトを相次いで推進しており、建設業界全体の受注環境は良好である。こうした追い風の中で経営体制を強化するリコンズの動きは、業界の成長トレンドを先取りしたものと評価できる。
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