ハノイ在住13年の現地投資家による、より深い企業分析・投資戦略は👉 メンバーシップで公開中
ベトナムで建設資材価格の高騰が深刻化している。2026年3月単月でセメントが7%超、砂・砕石・レンガが13.5%〜23.3%も上昇し、不動産プロジェクト全体のコスト構造を大きく揺るがしている。すでに高止まりが続くハノイのマンション価格にさらなる上昇圧力がかかる構図であり、デベロッパーから地方政府まで対応に追われている状況である。
ハノイのマンション価格は1平米あたり1億200万ドン超——ホーチミン市を上回る水準が定着
不動産大手調査会社CBRE(世界最大級の商業用不動産サービス会社)の2026年第1四半期レポートによると、ハノイ市内およびザーラム(Gia Lâm)、ドンアイン(Đông Anh)といった近郊エリアにおける新築分譲マンションの一次販売価格は、平均約1億200万ドン/平方メートルに達した。これは前四半期とほぼ同水準だが、前年同期比では29%もの上昇である。注目すべきは、この価格水準がホーチミン市(旧名サイゴン、ベトナム最大の商業都市)の同期平均9,100万ドン/平方メートルを大幅に上回っている点である。ハノイでは2025年第3四半期以降、一次販売価格が1億ドン/平方メートルの大台を超える状態が継続しており、住宅取得のハードルが一段と高まっている。
セメント7%超、砂は最大23.3%上昇——建設コスト全体を1.91%〜8.09%押し上げ
ベトナム不動産仲介協会(VARS)によれば、商業住宅であれ社会住宅(低所得者向け公的住宅)であれ、あらゆる不動産プロジェクトは土地取得費、資本コスト、建設費など複数のコスト要素から成り立っている。このうち建設費は最も予測困難な変数であり、足元で建設資材価格が激しく変動していることがその主因である。
ベトナムセメント協会が明らかにしたデータによると、2026年3月の主要建設資材の価格動向は以下の通りである。
- セメント:7%超の上昇
- 鉄鋼:2%超の上昇
- タイル(床材):約5%の上昇
- 砂・砕石・レンガ:13.5%〜23.3%の大幅上昇
これらの資材価格上昇により、建設工事全体のコストは推定で1.91%〜8.09%上昇したとされる。燃料コストの高騰が直接的な要因だが、問題はそれだけにとどまらない。
建設用砂が「最大のボトルネック」——現場実勢価格は公示価格の5%〜35%増
ベトナムセメント協会は、燃料コストに加えて資材の需給ミスマッチが深刻な圧力要因になっていると指摘する。とりわけ建設用砂の不足は極めて深刻であり、実際の工事現場における取引価格は地方政府が公表する価格を5%〜35%も上回っている状況である。これは財務リスクの増大と工期の長期化を同時にもたらし、砂が建設資材市場における「最大のボトルネック」と化していると同協会は警鐘を鳴らしている。
背景には、河川からの砂採取に対する環境規制の強化がある。ベトナム政府はここ数年、違法採砂の取り締まりを強化しており、合法的な供給量が需要に追いつかない構造的問題が顕在化している。加えて、新たな規制により多くの石灰�ite(石灰石)鉱山が採掘停止や許可取り消しとなっており、セメント原料の供給にも制約がかかっている。
同協会は「投入コストの上昇と供給制約の相乗効果により、建設資材市場は今後も価格上昇と大きな変動が続く見通しだ」との見解を示している。
企業の89.5%が「資材価格変動が最大の困難」と回答
企業サイドへの影響も甚大である。ベトナムレポート(Vietnam Report、ベトナムの企業評価・調査会社)のデータによれば、実に89.5%の企業が資材価格の変動を「最大の経営上の困難」として挙げている。都市化が急速に進む地域では埋め立て用砂をはじめとする資材の価格変動が特に激しく、コスト管理が一段と難しくなっている。
さらに外部環境の不透明さも圧力を増幅させている。2026年初頭から続く中東の地政学的緊張が燃料価格を押し上げ、建設現場の機械稼働コスト、資材の輸送費、製造コストが軒並み上昇している。ベトナムの建設業界はエネルギー輸入依存度が高いため、国際的な原油・ガス価格の動向がダイレクトに波及する構造にある。
各地方政府が価格安定策を矢継ぎ早に展開
こうした事態を受け、ハノイ、ハイフォン(北部の主要港湾都市)、ゲアン省(中部)、カントー市(メコンデルタ最大の都市)に加え、直近ではバクニン省(ハノイ近郊の工業集積地)やザライ省(中部高原地帯)も積極的な対策に乗り出している。
バクニン省では、ファム・バン・ティン副省長が省建設局に対し、価格関連法令の遵守状況の検査・監督を主導するよう指示した。具体的には、資材の買い占め・投機・不正な価格つり上げや、市場を混乱させる虚偽情報の流布を絶対に許さないという方針を明確に打ち出している。並行して、建設資材の需要を精査し、供給バランスを確保した上で重点プロジェクトや緊急の民生工事に優先的に資材を配分する体制を構築。さらに鉱山の埋蔵量を見直し、採掘許可の迅速化と生産能力の引き上げを推進する。価格および建設価格指数の公表については、実態に即した迅速な更新を求めており、燃料価格の影響で異常な変動が見られる資材については月次またはそれ以上の頻度での公表を義務付けている。
ザライ省でも省人民委員会主席が建設局に対し、建設資材分野の企業が直面する困難を解消するための方策を検討するよう指示。財務局には、ハイテク技術を活用した環境配慮型の建設資材製造プロジェクトを優先投資リストに追加し、投資家誘致と地域の経済社会発展計画への統合を推進するよう求めた。さらに末端の行政単位である社(xã)・坊(phường)レベルの人民委員会に対しても、管轄区域内の建設資材の採掘・輸送・製造・販売に関する定期的な検査と違反の厳格な処分を命じている。
国会でも議論——「戦略的備蓄」や「循環経済モデル」の導入を提言
この問題は国会の場でも取り上げられている。4月21日の本会議において、ダナン市選出のグエン・ズイ・ミン国会議員は、鉱物資源(建設資材の鉱山を含む)の国土計画は策定済みであるものの、実際のアクセスが受動的になっていると指摘した。その上で、建設資材に対する価格調整メカニズムまたは戦略的備蓄の導入、採掘許可手続きの簡素化、そして建設資材分野における循環経済モデルの推進という三つの提言を行った。これはリサイクル骨材や産業廃棄物由来の代替資材の活用を促す方向性であり、中長期的な供給安定策として注目に値する。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の建設資材価格高騰は、ベトナム株式市場において複数のセクターに影響を及ぼす。
不動産デベロッパーにとっては明確なコスト増要因であり、特に社会住宅など価格転嫁が困難なセグメントを手掛ける企業の利益率が圧迫される可能性が高い。ビンホームズ(Vinhomes、ティッカー:VHM)やノバランド(Novaland、NVL)など大手デベロッパーは価格転嫁力が相対的に高いが、中小デベロッパーは厳しい局面に立たされる。
建設資材メーカー、とりわけセメント大手のハイフォン・セメント(HPC)やブットソン・セメント(BTS)、鉄鋼大手のホアファット(Hoa Phat、HPG)にとっては、販売価格の上昇が売上・利益の押し上げ要因となり得る。ただし燃料コスト増が利益を相殺するリスクもあり、個別企業のコスト管理能力が銘柄選別の鍵となる。
日本企業への影響としては、ベトナムで工場建設や物流倉庫の開発を計画する企業にとって建設コストの上振れが直接的なリスクとなる。進出スケジュールの見直しや、建設契約における価格変動条項(エスカレーション条項)の精緻化が求められよう。
2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げを控え、ベトナム市場には海外資金の流入期待が高まっている。しかし、建設コストの上昇が不動産セクター全体の収益見通しを曇らせれば、時価総額で大きなウェイトを占める不動産・建設関連銘柄のバリュエーションに下押し圧力がかかる可能性もある。一方で、政府の価格安定策やインフラ投資の加速は建設需要の下支え要因であり、資材価格の上昇が一巡した後の反動にも注意が必要である。
マクロの視点では、建設資材の価格上昇は消費者物価指数(CPI)への波及経路でもあり、ベトナム国家銀行(中央銀行)の金融政策判断にも影響し得る。インフレ圧力が高まれば利下げ余地が狭まり、不動産市場の回復シナリオに水を差すリスクがある。投資家としては、建設資材価格の動向を不動産セクターだけでなくマクロ経済全体の先行指標として注視すべき局面である。
いかがでしたでしょうか。今回のニュースについて、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。
この記事が参考になったら、ぜひXでシェアしていただけると嬉しいです。より多くの方にベトナム投資の魅力を伝えたいと思っています。
ハノイ在住13年日本語で毎日配信。
✅ 個別銘柄の詳細分析 ✅ FTSE格上げ関連速報 ✅ 現地だからわかるリアルタイム情報
👉 月額980円でメンバーシップに参加する
出典: 元記事












コメント