ハノイ在住13年の現地投資家による、より深い企業分析・投資戦略は👉 メンバーシップで公開中
「Cash is King(現金は王様)」——金融の世界で繰り返し語られてきたこの格言は、果たして常に正しいのか。ベトナムの大手メディアVnExpressが改めてこのテーマに切り込んだ。低金利環境の長期化、インフレによる購買力の毀損、そして株式・不動産など代替資産の台頭が進むベトナムにおいて、「現金至上主義」の限界と、資産をどう守るべきかという問いが投資家の間で再燃している。
「現金は王様」とはそもそも何か
「Cash is King」という表現は、企業経営においてはキャッシュフローの重要性を説く文脈で、また個人投資においては流動性の確保や暴落時の買い場を待つ姿勢を肯定する文脈で、古くから使われてきた。特に2008年のリーマンショックや2020年のコロナショックのような市場混乱期には、手元に現金を持っていた投資家が暴落後の底値で資産を拾い、大きなリターンを得たという「成功体験」がこの格言を強化してきた。
ベトナムでもこの考え方は根強い。ベトナム人の貯蓄文化は東南アジアの中でも際立っており、銀行預金に資産を集中させる傾向がある。かつては年利10%を超える預金金利が提供されていた時代もあり、「現金を銀行に預けておけば安心」という心理は世代を超えて共有されてきた。
低金利時代が変えた常識
しかし、近年のベトナムでは状況が大きく変わっている。ベトナム国家銀行(中央銀行)は景気刺激を目的に段階的な利下げを実施し、預金金利は大幅に低下した。かつて年7〜8%が一般的だった12カ月定期預金の金利は、現在では年4〜5%台にまで下がっている銀行も少なくない。
一方でインフレ率は依然として一定の水準を維持している。仮に預金金利が年5%でインフレ率が4%であれば、実質リターンはわずか1%程度にとどまる。物価上昇が金利を上回る局面では、現金を持っているだけで資産の実質価値が目減りしていく。つまり「現金は王様」どころか、「現金は緩やかに溶けていく資産」となりかねないのである。
ベトナムにおける代替投資先の拡大
こうした環境の中、ベトナムでは現金以外の資産クラスへの関心が急速に高まっている。
株式市場:ホーチミン証券取引所(HOSE)を中心としたベトナム株式市場は、2020年以降に個人投資家の参入が急増し、証券口座数は急速に拡大した。VN指数(ベトナムの代表的な株価指数)は短期的には変動が大きいものの、長期的には経済成長率(GDP成長率6〜7%台)を反映した上昇トレンドを描いてきた。
不動産:ベトナムでは伝統的に不動産が最も信頼される資産とされてきた。特にハノイやホーチミン市の都市部では、人口増加と都市化の進展により地価・住宅価格が長期的に上昇してきた。ただし流動性の低さや法制度の不透明さなど、リスクも大きい。
金(ゴールド):ベトナム人にとって金は文化的にも馴染み深い資産である。SJC金地金(国家ブランドの金地金)は国内で独自のプレミアムが付くことでも知られ、近年は国際金価格の高騰を受けて注目度が再び高まっている。
社債・投資信託:ベトナムでは社債市場が拡大と規制強化を繰り返しながら成長過程にある。また、証券会社や資産運用会社が提供するファンド商品への関心も徐々に高まっている。
「現金が王様」となる局面は確かに存在する
もちろん、現金保有が合理的な局面がないわけではない。市場全体が過熱し、バリュエーションが割高な水準にある時期には、無理に投資せず現金比率を高めておくことで、調整局面での買い場を確保できる。2022年にベトナムで不動産・社債市場の混乱が起きた際、手元に現金を持っていた投資家は、割安になった優良資産を拾う好機を得た。
また、企業経営においてはキャッシュフローの健全性が倒産リスクを左右する。ベトナムの中小企業にとって、手元資金の確保は景気後退期の生命線であり、この文脈での「Cash is King」は依然として有効である。
要するに、「現金は王様」は常に正しいわけではなく、「適切なタイミングで現金を持ち、適切なタイミングで資産に転換する」という動的な資産配分こそが重要だという結論に行き着く。
投資家・ビジネス視点の考察
本テーマは一見すると「投資の一般論」に見えるが、現在のベトナム市場を取り巻く環境を踏まえると、極めてタイムリーな議論である。以下にいくつかの視点を整理する。
1. 低金利継続とベトナム株への資金流入:ベトナム国家銀行が緩和的な金融政策を維持する限り、預金から株式・不動産への資金シフトは構造的に続く可能性が高い。これはVN指数の中長期的な支援材料となる。特に銀行株、証券株、不動産株といった金利感応度の高いセクターは、この文脈で注目に値する。
2. FTSE新興市場指数への格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSEラッセルによるベトナムの「フロンティア市場」から「新興市場」への格上げは、海外からの大規模な資金流入を呼び込む可能性がある。格上げが実現すれば、ベトナム株式市場に数十億ドル規模のパッシブ資金が流入すると試算されており、その時に「現金のまま持っていた投資家」と「事前にポジションを構築していた投資家」との間で、リターンに大きな差が生じることは想像に難くない。
3. 日本企業・日本人投資家への示唆:日本もまた超低金利環境が長く続き、「貯蓄から投資へ」の議論が活発化してきた。ベトナムと日本は金融環境こそ異なるが、「現金を持ちすぎることの機会損失」という問題意識は共通している。ベトナムに進出している日系企業にとっても、現地法人の余剰資金をどう運用するか——銀行預金に留めるか、短期社債やMMF的な商品を活用するか——は実務上の重要課題である。
4. リスク管理の重要性:ベトナム市場は先進国市場と比較して流動性が限定的であり、規制変更リスクや情報の非対称性も大きい。「現金は王様ではない」という議論に引きずられて過度にリスク資産に傾斜することは危険である。特にベトナム社債市場では2022年に大規模な信用不安が発生した前例があり、分散投資と流動性管理の両立が求められる。
結論として、「Cash is King」は状況次第で真にもなり偽にもなる。重要なのは、マクロ経済環境、金利サイクル、自身の投資期間とリスク許容度を総合的に判断し、現金と投資資産の最適な配分を動的に調整し続けることである。ベトナム市場がFTSE格上げという歴史的な転換点を控えた今、この問いに向き合う意義は大きい。
いかがでしたでしょうか。今回のニュースについて、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。
この記事が参考になったら、ぜひXでシェアしていただけると嬉しいです。より多くの方にベトナム投資の魅力を伝えたいと思っています。
ハノイ在住13年日本語で毎日配信。
✅ 個別銘柄の詳細分析 ✅ FTSE格上げ関連速報 ✅ 現地だからわかるリアルタイム情報
👉 月額980円でメンバーシップに参加する
出典: 元記事












コメント