ハノイ在住13年の現地投資家による、より深い企業分析・投資戦略は👉 メンバーシップで公開中
株式、不動産、金、暗号資産——ベトナムの主要な投資先がそろって逆風に直面する中、投資家の間で「現金を手元に置いておく」というシンプルな選択肢が急速に存在感を増している。リスク資産全般の不透明感が強まる局面で、いわば「現金が王座に就きつつある」という状況が、ベトナムの投資コミュニティで広く意識され始めた。
主要資産クラスが軒並み苦戦する異例の局面
ベトナムでは通常、株式市場が低迷すれば資金が不動産や金に流れ、あるいはその逆が起きるという「資産間のローテーション」が機能してきた。しかし足元では、こうした逃避先がほぼ同時に機能不全を起こしている点が特筆に値する。
まず株式市場について見ると、VN指数(ホーチミン証券取引所の代表的指数)は2025年後半から調整局面が続き、海外資金のネット売り越しが断続的に発生している。米中貿易摩擦の再燃や世界的な利上げサイクルの長期化懸念が、新興市場全体のリスクオフを加速させており、ベトナム市場もその波に飲まれている格好である。
不動産市場もまた厳しい。2022年後半に表面化した社債デフォルト問題の余波は、大手デベロッパーの資金繰り改善が進む一方で、地方部を中心に在庫の滞留が依然として解消されていない。さらに、政府が推進する土地法改正や不動産事業法の施行に伴う過渡期の混乱もあり、「買い時が読めない」と感じる個人投資家が少なくない。
金(ゴールド)についても、国際金価格が一時の高値圏から調整を見せる中、ベトナム国内金価格は国際価格との乖離が依然として大きく、中央銀行であるベトナム国家銀行(SBV)が金市場安定化のための入札を繰り返してきた経緯がある。国内金価格の不透明さが投資妙味を削いでいるのが現状である。
暗号資産(仮想通貨)に関しても、ベトナムは世界有数の暗号資産普及率を誇る国でありながら、規制の枠組みが未整備であること、また2025年に入ってからのビットコイン価格の乱高下が個人投資家の心理を冷やしている。
なぜ「現金」が選ばれるのか
こうした環境下で現金志向が広がる背景には、いくつかの構造的な要因がある。
第一に、ベトナムの銀行預金金利が一定の魅力を取り戻していることが挙げられる。ベトナム国家銀行は2023年から2024年にかけて大幅な利下げを実施したが、2025年後半以降はインフレ圧力や為替防衛の観点から金利の下げ止まりないし微調整が意識されるようになった。12カ月定期預金で年5〜6%前後の金利が得られるベトナムの銀行預金は、リスク資産のボラティリティを考慮すると、相対的に「確実なリターン」として再評価されている。
第二に、為替リスクの意識が高まっていることだ。米ドル高・ドン安圧力が断続的に生じる中、外貨建て資産を持たない一般のベトナム人投資家にとっては、ドン建ての預金で元本を守るという選択が合理的に映る。
第三に、投資家心理の根本的な変化がある。2022年の社債・不動産ショックで大きな損失を被った個人投資家は少なくなく、「次の上昇相場まで無理にポジションを取らない」という慎重姿勢が、特に個人投資家層に根強く残っている。ベトナムの証券口座保有者は約900万口座に達しているが、実際にアクティブに取引している比率は限定的であり、「口座はあるが休眠状態」という投資家が増加していることが、市場の薄商いにも反映されている。
「キャッシュ・イズ・キング」はいつまで続くのか
投資の世界では「Cash is King(現金は王様)」というフレーズがしばしば使われるが、これは通常、景気後退期や不確実性が高い局面で一時的に現れる現象である。問題は、この現金志向がどの程度長期化するかだ。
ベトナム経済のファンダメンタルズ自体は依然として堅調であり、2025年のGDP成長率は政府目標で8%以上が掲げられている。製造業への海外直接投資(FDI)は引き続き旺盛で、サムスン、LGなど韓国系企業をはじめ、中国からの生産移管(チャイナ・プラスワン)の流れも衰えていない。長期的にはこうした実体経済の成長が資産価格に反映されるはずであり、永続的な現金志向は合理的とは言いがたい。
ただし、短期的には世界経済の減速リスク、米大統領選後の通商政策の不確実性、そしてベトナム国内の不動産・金融セクターの構造調整が続く限り、投資家がリスクテイクに積極的になるきっかけは見出しにくい状況が続く可能性がある。
投資家・ビジネス視点の考察
ベトナム株式市場への影響:現金志向の拡大は、市場全体の流動性低下に直結する。VN指数の1日あたり売買代金が低調に推移すれば、外国人投資家にとっても売買執行リスクが高まり、短期的にはバリュエーションの押し下げ要因となる。一方で、流動性が枯渇した局面は中長期投資家にとっての「仕込み時」でもあり、銀行株やインフラ関連株など配当利回りの高い銘柄への選別的な資金流入は続く可能性がある。
FTSE新興市場指数への格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナムの格上げは、成功すれば数十億ドル規模のパッシブ資金流入をもたらすと試算されている。現在の現金志向は、この歴史的イベントを前にした「嵐の前の静けさ」とも解釈できる。格上げが実現すれば、海外マネーの流入が国内投資家のリスク選好を刺激し、現金からリスク資産への大規模な回帰が起きるシナリオも十分に考えられる。
日本企業・ベトナム進出企業への影響:ベトナム国内の投資マインドが冷え込んでいることは、現地消費や不動産需要にも間接的に影響を与える。ただし、製造業のFDI主導の成長トレンドは健在であり、日系企業にとってはベトナムの生産拠点としての魅力は変わらない。むしろ、不動産価格や人件費上昇圧力が一服している現局面は、新規進出やオフィス・工場の拡張にとって好機となり得る。
ベトナム経済全体のトレンド:現金志向の拡大は、裏を返せば「投資先不足」の問題を示唆している。ベトナム政府が進める資本市場改革——KRXシステム(韓国取引所技術に基づく新取引システム)の本格稼働、T+0決済の導入、デリバティブ市場の拡充——が実現すれば、投資商品の多様化が進み、現金に滞留している資金を市場に呼び戻す原動力になるだろう。
いかがでしたでしょうか。今回のニュースについて、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。
この記事が参考になったら、ぜひXでシェアしていただけると嬉しいです。より多くの方にベトナム投資の魅力を伝えたいと思っています。
ハノイ在住13年日本語で毎日配信。
✅ 個別銘柄の詳細分析 ✅ FTSE格上げ関連速報 ✅ 現地だからわかるリアルタイム情報
👉 月額980円でメンバーシップに参加する
出典: 元記事












コメント