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ベトナム政府は、2030年までに年間売上高10億USD以上の大規模テクノロジー企業を少なくとも10社育成するという野心的な目標を打ち出した。政府が策定した「戦略的テクノロジー企業育成計画(đề án)」の中で明示されたもので、ベトナムのデジタル経済・ハイテク産業政策が新たなフェーズに入ったことを示す重要な動きである。
政府計画の概要—「戦略的テクノロジー企業」とは何か
今回公表された計画によれば、ベトナム政府は2030年を期限として、少なくとも10社の「戦略的テクノロジー企業(doanh nghiệp công nghệ chiến lược)」を大規模に育成することを目指す。ここで言う「大規模」とは、各企業が年間10億USD以上の売上高を達成する水準を指す。
ベトナムにおける「戦略的テクノロジー企業」とは、単なるIT企業にとどまらず、国家の安全保障、経済の独立性、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進、そして国際競争力の確保において中核的な役割を果たす企業群を意味する。半導体、AI(人工知能)、クラウドコンピューティング、サイバーセキュリティ、5G・6G通信インフラなど、政府が「戦略的分野」と位置づける技術領域で事業を展開する企業が対象になると考えられる。
この計画には、対象企業に対する包括的な優遇措置が盛り込まれる見通しである。税制優遇、研究開発(R&D)補助、人材育成支援、土地使用権の優先的な付与、そして政府調達における優先的な取り扱いなどが含まれるとみられる。
背景—なぜ今、ベトナムが「テック大国」を目指すのか
ベトナムがこうした大胆な産業政策を打ち出す背景には、複数の構造的要因がある。
第一に、ベトナムは近年、世界的なサプライチェーン再編の恩恵を最も受けている国の一つである。米中貿易摩擦やCOVID-19後の「チャイナ・プラスワン」戦略により、サムスン(韓国)、インテル(米国)、アップル(米国)のサプライヤー群など、多くのグローバル企業がベトナムに生産拠点を移転・拡大してきた。しかし、こうした外資依存型の「組立工場モデル」だけでは、ベトナムが中所得国の罠を脱することは難しい。自国発の大規模テクノロジー企業を育成することで、バリューチェーンの上流に食い込む必要があるのだ。
第二に、ベトナムには既にいくつかの有力テクノロジー企業が存在する。軍事通信グループであるヴィッテル(Viettel、ベトナム最大の通信事業者であり、アフリカ・東南アジアなど海外10カ国以上で事業を展開)は、既に年間売上高が数十億USD規模に達している。FPTグループ(FPT Corporation、ベトナム最大のIT企業でソフトウェア開発・ITサービスを世界30カ国以上に提供)も近年急成長を遂げ、2024年の売上高は約70兆ドンを超える水準に到達した。こうした「先行者」の成功体験が、政府の自信を後押ししている。
第三に、トー・ラム(Tô Lâm)書記長が率いる現在のベトナム共産党指導部は、「デジタル国家」「イノベーション駆動型経済」を国家ビジョンの中核に据えている。2025年に入り、政府は行政のデジタル化、電子政府の推進、デジタルIDの普及などを急ピッチで進めており、今回の戦略的テクノロジー企業育成計画もその一環として位置づけられる。
候補となりうる企業群
現時点で年間売上高10億USD以上の水準に到達している、あるいは到達が視野に入るベトナムのテクノロジー企業としては、以下のような名前が挙がる。
ヴィッテル(Viettel)—ベトナム国防省傘下の国有企業で、通信・IT・軍事技術・デジタルサービスを幅広く手がける。既に売上高は10億USDを大幅に超えており、自社開発の5G基地局や通信機器の輸出にも乗り出している。
FPTグループ(FPT Corporation、HOSE上場・ティッカー:FPT)—日本市場を含むグローバルなITアウトソーシング、デジタルトランスフォーメーション支援が主力。AI・半導体設計分野にも積極投資しており、日本企業との協業も多い。ホーチミン証券取引所(HOSE)に上場しており、時価総額でもベトナム市場トップクラスの銘柄である。
VNPT(ベトナム郵便通信グループ)—国有の通信大手。ブロードバンド、クラウド、スマートシティソリューションなどを展開する。
CMCグループ(CMC Corporation、HOSE上場・ティッカー:CMG)—IT インフラ、クラウド、サイバーセキュリティを手がける中堅テック企業。サムスンSDS(韓国)が大株主として出資している。
これらに加え、ビングループ(Vingroup、ベトナム最大手のコングロマリット)傘下のVinAI(AI研究)やVinBigData(ビッグデータ)、さらにはフィンテック分野のスタートアップなども、今後の成長次第では候補に入る可能性がある。
国際的な文脈—ASEAN域内の「テック覇権」競争
ベトナムの今回の動きは、ASEAN域内のテクノロジー覇権競争という文脈でも注目に値する。シンガポールは従来からアジアのテックハブとしての地位を確立しているが、インドネシアもGoTo(ゴートゥー)やTokopedia(トコペディア)などのテック・ユニコーンを輩出し、デジタル経済の規模ではASEAN最大である。タイやマレーシアもEV(電気自動車)やデータセンター誘致で攻勢をかけている。
ベトナムの強みは、約1億人という人口規模、平均年齢30代前半という若い労働力、そしてSTEM(科学・技術・工学・数学)教育に強い人材プールにある。特にソフトウェアエンジニアの質の高さは国際的にも評価が高く、FPTをはじめとするIT企業が日本・米国・欧州市場で存在感を増している背景でもある。
投資家・ビジネス視点の考察
ベトナム株式市場への影響:今回の計画は、テクノロジーセクターに対する政府の強い支援姿勢を改めて示すものであり、関連銘柄への中長期的な追い風となる。特にFPT(FPT)は、ベトナムを代表するテック銘柄として海外投資家の注目度が高く、今回の政策方針は同社のバリュエーション(株価評価)の下支え材料となろう。CMG(CMCグループ)なども恩恵を受ける可能性がある。ただし、具体的な優遇措置の詳細や、対象企業の選定基準が明らかになるまでは、市場が即座に大きく反応する局面ではないかもしれない。
日本企業への影響:日本はベトナムにとって最大級のODA(政府開発援助)供与国であると同時に、IT分野での協業パートナーでもある。FPTは日本国内に数千人規模のエンジニアを擁し、NTTデータ、パナソニック、トヨタなど大手企業との取引実績を持つ。今回の政策により、ベトナム側のテック企業が規模と技術力を拡大すれば、日本企業にとっては「委託先」から「共創パートナー」へとベトナム企業の位置づけが変わる可能性がある。また、半導体やAI分野でのベトナムへの投資機会も広がるだろう。
FTSE新興市場指数への格上げとの関連:ベトナム株式市場は、2025年9月にもFTSE(英FTSE Russell)によるフロンティア市場から新興市場(Secondary Emerging Market)への格上げが決定される見込みである(実際の組み入れは2026年9月頃)。今回のような国家レベルでのテクノロジー産業育成策は、ベトナム経済の成長ストーリーをさらに強化し、格上げ後に流入が見込まれるグローバル資金にとってのベトナムの「投資テーマ」をより明確にする効果がある。テクノロジーセクターの上場企業の時価総額・流動性が拡大すれば、VN-Index(ベトナム株価指数)全体の底上げにもつながる。
ベトナム経済全体のトレンドにおける位置づけ:ベトナムは2024年のGDP成長率が7%超を達成し、2025年も高成長を維持する見通しである。従来の成長ドライバーであった製造業・輸出に加え、デジタル経済・テクノロジー産業を「第二のエンジン」として育成することは、中長期的な経済構造の高度化に不可欠である。今回の「10社・10億USD」という明確な数値目標は、ベトナム政府が「中所得国の罠」を強く意識し、産業の高付加価値化に本腰を入れている証左と言えるだろう。
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出典: 元記事












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