ベトナム文具大手ティエンロンが資本撤退中でも会長がフーンナム書店の取締役候補に—その狙いとは

Ông Cô Gia Thọ muốn vào Hội đồng quản trị Nhà sách Phương Nam
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ベトナムの文具・事務用品最大手ティエンロン・グループ(Thiên Long Group、HOSE上場:TLG)が、傘下のフーンナム書店(Nhà sách Phương Nam=PNC)からの資本撤退(ディベストメント)を進めている最中にもかかわらず、同グループ会長のコー・ザー・トー(Cô Gia Thọ)氏がフーンナム書店の取締役会(Hội đồng quản trị)候補者リストに名を連ねていることが明らかになった。この一見矛盾するような動きの背景には何があるのか。ベトナムのビジネス・ガバナンスの実態と合わせて読み解く。

目次

コー・ザー・トー氏とは何者か

コー・ザー・トー氏は、ベトナムで「ティエンロン(Thiên Long)」ブランドを国民的文具メーカーへと育て上げた立役者として広く知られる経営者である。ティエンロン・グループはボールペンやマーカーなどの筆記具を中心に、ベトナム国内で圧倒的なシェアを誇り、東南アジア諸国への輸出も積極的に展開している。ホーチミン証券取引所(HOSE)に上場するTLG銘柄は、安定的な配当と堅実な経営で知られ、ベトナム株投資家の間でもディフェンシブ銘柄として一定の人気がある。

同氏は長年にわたりティエンロンの会長(Chủ tịch HĐQT)を務めており、ベトナムのビジネス界では「文具王」とも称される存在である。

フーンナム書店(PNC)とティエンロンの関係

フーンナム書店(Phương Nam=「南方」の意味)は、ベトナム南部を中心に書籍・文具・教育関連商品を販売する大手書店チェーンである。ホーチミン市を拠点に複数の店舗を展開し、出版事業にも携わっている。同社はHOSE上場銘柄PNCとして取引されており、ベトナムの書籍・出版業界を代表する企業の一つである。

ティエンロン・グループはかねてよりフーンナム書店に対して出資を行い、文具メーカーと書店チェーンという事業上のシナジーを追求してきた。書店は文具の重要な販路であり、両社の提携は合理的なものであった。しかし近年、ティエンロンは経営戦略の見直しの一環として、フーンナム書店からの資本撤退(thoái vốn)を進めている。フーンナム書店の業績が必ずしも好調とは言えない状況が続いていたことや、ティエンロン自体がコア事業への集中を志向していることが背景にあるとみられる。

撤退しながら取締役候補に——矛盾の真相

今回注目されているのは、ティエンロンが組織として資本を引き揚げる方針を示しているにもかかわらず、コー・ザー・トー会長個人がフーンナム書店の取締役会メンバーの候補者リストに掲載されている点である。

ベトナムの上場企業のガバナンス慣行においては、大株主が取締役候補を推薦する権利を持ち、資本関係が残存している限りは取締役会への参加が制度上可能である。ティエンロンの持ち株売却プロセスが完了するまでの「移行期間」において、既存の取締役候補リストにコー氏の名前が残っている可能性がある。また、別の解釈として、ティエンロンとしての法人出資は減らしつつも、コー氏個人として、あるいは別の関連会社を通じてフーンナム書店への影響力を維持しようとしている可能性も考えられる。

ベトナムでは、企業グループのオーナー経営者が法人としての出資関係とは別に、個人的なネットワークや影響力を通じて関連企業のガバナンスに関与し続けるケースは珍しくない。同族経営や人的つながりが企業統治に大きな役割を果たすベトナムのビジネス文化を理解するうえで、今回の事例は典型的なものと言えるだろう。

フーンナム書店の経営課題

ベトナムの書店業界は、日本と同様にオンライン書籍販売やデジタルコンテンツの普及により、実店舗型ビジネスモデルが構造的な変革を迫られている。フーンナム書店もこの例外ではなく、近年は収益面で苦戦が続いている。一方で、ベトナムは人口の中位年齢が約30歳と若く、教育熱が非常に高い国でもあるため、教科書・参考書・児童書の需要は依然として底堅い。フーンナム書店にとっては、この教育需要をいかに取り込むかが今後の成長の鍵となる。

コー・ザー・トー氏のような文具・教育関連業界に精通した経営者が取締役会に加わることは、仮に実現すれば、フーンナム書店の経営再建や新たな事業戦略の策定にプラスに働く可能性がある。

投資家・ビジネス視点の考察

今回のニュースは、ベトナム株式市場における個別銘柄の動きとして、以下の観点から注目に値する。

①TLG(ティエンロン)への影響:フーンナム書店からの資本撤退が順調に進めば、ティエンロンにとっては非中核資産の整理による財務体質の改善につながる。売却益が発生すれば短期的な利益押し上げ要因にもなり得る。一方で、会長個人が取締役に残ることで「本当に撤退するのか」という市場の疑念が生じる可能性もあり、IR(投資家向け広報)の透明性が問われる局面である。

②PNC(フーンナム書店)への影響:PNCは時価総額が小さい小型株であり、流動性も限られている。取締役会の構成変更は経営方針に直結するため、コー氏のような実績ある経営者の参画が確定すれば、一定のポジティブ材料となり得る。ただし、同社の業績回復にはより構造的な改革が必要である。

③ベトナムのコーポレートガバナンス:ベトナムは2026年9月にFTSE新興市場指数への格上げが決定見込みとなっており、海外機関投資家の関心が急速に高まっている。こうした中、企業統治の透明性や少数株主の権利保護は、ベトナム市場全体の評価に直結するテーマである。今回のような「法人は撤退するが、オーナー個人は取締役に残る」という構図が、国際的な投資家にどう映るかは注視すべきポイントだ。

④日本企業への示唆:ベトナムに進出している日本の文具・教育関連企業(コクヨ、パイロットなど)にとって、ティエンロンは競合であると同時に潜在的なパートナーでもある。ティエンロンの事業ポートフォリオの変化は、日本企業のベトナム市場戦略にも間接的な影響を与える可能性がある。


いかがでしたでしょうか。今回のニュースについて、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。

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出典: 元記事

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