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ベトナム国家観光局が、海外ツアーを扱う旅行会社に対し、ツアー客の出国前・旅行中・帰国後にわたる管理強化を求める通達を発出した。観光を名目とした不法出国・不法滞在・不法就労を防止する狙いであり、韓国やタイでも同様の規制強化が進む中、国際的な潮流と軌を一にした動きである。
通達の背景——「観光偽装」による不法滞在問題
ベトナム国家観光局(Cục Du lịch Quốc gia Việt Nam)は文書番号1217/CDLQGVN-QQLLHにおいて、国際旅行業を営む企業に対し、海外ツアーの管理体制を抜本的に強化するよう指示した。
同局によれば、ベトナム国民の海外旅行は近年急速に拡大し、国際交流や国民の見聞を広げる上で大きな役割を果たしている。しかしその一方で、観光ツアーを利用して出国した後、現地に不法滞在したり不法就労したりするケースが散見されるようになった。こうした事態はツアー参加者自身の権利を損なうだけでなく、旅行会社の信用やベトナム観光全体のイメージにも深刻なダメージを与えている。
旅行会社に求められる具体的な義務
通達で求められている主な内容は以下の通りである。
- 許可範囲の厳守:ツアーの実施は付与された営業許可の範囲内で行い、登録済みの旅行プログラムに沿った目的で催行すること。
- 旅行前・中・後の一貫管理:顧客情報の精査、契約・行程の管理を厳格かつ透明に行い、不審な兆候や「観光偽装出国」のリスクを早期に察知すること。
- 違法行為への加担禁止:不法滞在・不法就労の組織、仲介、幇助、隠蔽を絶対に行わないこと。
- 事故発生時の対応:海外でベトナム国民に関わるトラブルが発生した場合、在外ベトナム代表機関や現地当局と速やかに連携し、国家観光局にも報告すること。
- 法令遵守の啓発:ツアー客に対し、ベトナム法および渡航先国の法令(出入国、滞在、治安、文化的マナー等)の遵守を徹底的に周知すること。
同局は旅行会社に対し、法的責任と職業倫理の意識を高め、国際社会におけるベトナム観光の信頼とイメージを守るよう強く求めている。
国際的な潮流——韓国・タイでも規制強化
「観光偽装」による不法滞在はベトナムに限った問題ではない。米国ではコロンビア、ベネズエラ、エクアドル、ハイチなどの国民がビザ超過滞在の上位を占めており、政治不安や経済困難がその背景にある。人口大国の中国やインドでも、観光名目で出国後にそのまま就労目的で滞在するケースが多く報告されている。
韓国では先週、国会が「観光振興法」の大幅改正を可決した。長年問題となってきた「ゼロドルツアー」(いわゆる0ドンツアー=格安ツアーの一種)や、ツアー客が団体から離脱して不法滞在・不法就労する事態への対処が主な狙いである。新法では、韓国と二国間観光協定を結んだ国からの大型団体を専門に受け入れる「指定旅行会社」制度を設け、ツアー客が無断離脱して不法滞在した場合、当該旅行会社が法的責任を負うことになる。韓国文化体育観光部のトップは「『失踪』率の高い企業は厳しく処分する」と明言しており、省庁横断の監視体制も構築される。
タイでは、内閣が外国人旅行者向けの60日間ビザ免除プログラムの終了を決定した。この制度はコロナ禍後の観光回復を目的に導入されたが、免除期間を悪用して不法に滞在し、違法ビジネスや犯罪に関与する外国人が急増するという副作用をもたらした。スラサック観光スポーツ大臣(Surasak Phancharoenworakul)によれば、観光客の約90%は1〜30日以内に出国しており、60日という期間は実態に合わないと判断された。30日間のビザ免除対象国は57カ国から54カ国に縮小され、ベトナムは引き続き対象に含まれるものの、3カ国が除外される。一部の国には15日間の免除やアライバルビザの簡素化が適用される見込みである。スラサック大臣は「量より質」への転換を強調し、「本物の質の高い観光客」だけを受け入れる方針を示している。
ただし、ビザ規制の強化だけで問題が解決するかについては議論がある。「質の高い観光客」の誘致はビザ政策だけでなく、法執行能力や観光地としての体験の質にも大きく左右されるという指摘も多い。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の通達は直接的には旅行業界への規制強化であるが、より広い文脈で捉えると、ベトナム政府が国際社会における自国のガバナンス・法治の信頼性向上を重視していることの表れである。この点は、2026年9月に判断が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げ審査においてもプラスに作用し得る。FTSE格上げの評価項目には市場インフラだけでなく、法制度や規制の透明性・予見可能性も含まれており、政府が各分野で「ルールの厳格な運用」を示す姿勢は間接的に市場の評価を支える。
ベトナム株式市場で旅行関連銘柄としては、ベトナム航空(HVN)やビエトジェット(VJC)、サイゴンツーリスト系の上場企業などが挙げられるが、今回の規制は主にアウトバウンド旅行業者への管理強化であり、短期的な業績へのインパクトは限定的と見られる。むしろ、悪質業者の排除が進めば、大手・上場企業にとっては競争環境の健全化というメリットもある。
日本企業やベトナム進出企業の観点では、ベトナム人技能実習生・特定技能人材の送出しルートの健全化と間接的に関連する。観光ビザを悪用した不法就労ルートが規制されることで、正規の労働移動チャネルの相対的な価値が高まり、合法的な人材派遣ビジネスにはプラスに働く可能性がある。
韓国やタイの規制動向も注視すべきである。韓国の「指定旅行会社」制度はベトナムからの訪韓ツアーにも直接影響し、タイの60日ビザ免除終了はベトナム人旅行者のタイ渡航にも影響を与える。ベトナムの旅行業界にとっては、送出し先各国の規制環境が同時に厳格化する「逆風」の局面であり、コンプライアンス体制の整備が経営課題としていっそう重要になるだろう。
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