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中東地域での武力衝突が激化する中、世界のファストファッション産業が原材料コストの急騰という深刻な課題に直面している。とりわけ、石油由来のポリエステル繊維に大きく依存するファストファッション各社にとって、原油価格の上昇は製造コストを直撃する要因となっており、ベトナムの繊維・アパレル産業にも大きな波紋が広がっている。
なぜファストファッションが中東紛争の影響を受けるのか
ファストファッションの衣料品に使用される生地の多くは、ポリエステル(polyester)をはじめとする合成繊維で構成されている。ポリエステルは石油精製の過程で得られるパラキシレン(paraxylene)やテレフタル酸(PTA)などを原料としており、その価格は原油市況と密接に連動する。ZARA(スペイン発祥の世界的ファストファッションブランド)やH&M(スウェーデン発)、SHEIN(中国発のオンラインファストファッション)といったグローバルプレーヤーのサプライチェーンは、安価なポリエステル繊維の大量調達を前提にビジネスモデルが設計されているため、原料価格の変動に対して極めて脆弱な構造を持つ。
中東地域は世界の原油供給の約3分の1を担っており、同地域での紛争が長期化・拡大すれば、原油の供給不安から国際価格がさらに押し上げられる可能性がある。2026年に入ってからも、紛争に起因する地政学リスクが原油先物市場に影響を及ぼし続けており、ポリエステル原料のコストは上昇傾向にある。
ベトナム繊維・アパレル産業への影響
ベトナムは世界有数の繊維・アパレル輸出国であり、中国に次ぐ「世界の縫製工場」としての地位を確立してきた。ベトナム繊維協会(VITAS)のデータによれば、繊維・アパレル産業は同国の主要輸出品目の一つであり、全体の雇用にも大きく貢献している。特にファストファッション向けの大量生産を請け負う縫製工場が北部のハノイ周辺や南部のホーチミン市近郊に集積しており、グローバルブランドからの受注に支えられてきた。
しかし、ポリエステル原料の価格が上昇すると、ベトナムの縫製企業は二重の苦境に立たされる。第一に、原料コストの上昇分を発注元のブランド側に転嫁することが難しい点である。ファストファッションのビジネスモデルは「低価格・大量販売」が前提であり、ブランド側は単価引き上げに極めて慎重だ。第二に、ベトナムの繊維企業の多くは原料を輸入に頼っているため、国際市況の変動がダイレクトに仕入れコストに反映される。ポリエステル繊維やその原料となるPTAは、中国や韓国、台湾などからの輸入が大半を占めており、これらの国々でも原油高の影響で製品価格が上がっている。
サプライチェーンの脆弱性が改めて露呈
今回の事態は、コロナ禍やスエズ運河の座礁事故(2021年)、ロシア・ウクライナ紛争(2022年〜)に続き、グローバルなファッションサプライチェーンの脆弱性を改めて浮き彫りにした形である。ファストファッション業界はこれまでも、短納期・低コスト・大量生産という構造の中で、地政学リスクや物流の混乱に翻弄されてきた。
近年、欧米を中心に「サステナブルファッション」への移行が叫ばれ、リサイクルポリエステルや天然繊維への代替が進められてきたが、依然として業界全体の繊維使用量に占めるバージン・ポリエステルの割合は圧倒的に高い。国際繊維連盟(ITMF)の推計によれば、世界の繊維生産量の過半数をポリエステルが占めており、この構造が一朝一夕に変わることは考えにくい。つまり、原油価格の高止まりが続く限り、ファストファッション産業のコスト圧力は継続することになる。
投資家・ビジネス視点の考察
ベトナム繊維関連銘柄への影響:ホーチミン証券取引所(HOSE)やハノイ証券取引所(HNX)に上場する繊維・アパレル関連企業——たとえばビナテックス(VGT、ベトナム繊維公団)、タンデー・ガーメント(TDT)、フォンフー・コーポレーション(PPH)などは、原材料コストの上昇と受注単価の圧迫という板挟みに直面する可能性が高い。特にポリエステル製品の比率が高い企業ほど利益率への悪影響が大きくなる。短期的には繊維セクター全体の業績見通しに対して慎重な見方が広がりやすい局面である。
日本企業・ベトナム進出企業への影響:ベトナムに生産拠点を持つ日系アパレル企業(ユニクロを展開するファーストリテイリングなど)も、同様のコスト上昇圧力を受ける。ユニクロはベトナムを主要な生産国の一つとしており、ポリエステルを多用する機能性素材(ヒートテック、エアリズムなど)のコスト構造に影響が及ぶ可能性がある。また、伊藤忠商事や東レなどベトナムの繊維バリューチェーンに参画する日本の商社・素材メーカーにとっても、原料調達戦略の見直しが迫られる局面となり得る。
FTSE新興市場指数への格上げとの関連:ベトナムは2025年9月のFTSE(フッツィー)の定期見直しでセカンダリー・エマージング(新興市場)への格上げが決定し、2026年9月の正式組み入れに向けた準備が進んでいる。格上げに伴い、海外からの資金流入が期待される一方で、繊維・アパレルセクターのように外部ショックに弱いセクターが市場全体の足を引っ張るリスクには注意が必要である。投資家としては、ベトナム市場全体のポジティブなトレンドを享受しつつも、セクター選別を一層慎重に行う姿勢が求められる。
中長期的な視点:今回の原油高による影響は、ベトナム繊維産業が「脱・ポリエステル依存」や「高付加価値製品へのシフト」を加速させる契機ともなり得る。綿花やリサイクル繊維への切り替え、あるいはODM(委託者ブランドによる設計・製造)やOBM(自社ブランド)への進化を果たせる企業が、中長期的には競争力を高めるだろう。ベトナム政府も繊維産業の高度化を重点政策に掲げており、今後の産業構造の変化を注視したい。
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