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ベトナム石油大手ティエンミンドゥック会長、脱税罪での起訴を免れた理由—1,369億ドン超の無申告取引の全容

Lý do Chủ tịch HĐQT Công ty Thiên Minh Đức không bị truy tố tội trốn thuế
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ベトナム中部ゲアン省に拠点を置く石油流通大手ティエンミンドゥック・グループ(Công ty cổ phần Tập đoàn Thiên Minh Đức、以下TMD社)の元取締役会長チュー・ティ・タイン(Chu Thị Thành)被告が、1兆3,690億ドン超に相当するガソリン・軽油の無申告販売を行いながらも、脱税罪での刑事訴追を免れたことが明らかになった。背景には、同社が自主的に税務申告を補正し、530億ドン超を国庫に納付したことで「税務上の損害がなくなった」と判断された事情がある。

目次

事件の全体像——ガソリン価格安定基金(BOG)の不正流用

本件は、ベトナムのガソリン価格安定基金(Quỹ Bình ổn giá xăng dầu、通称BOG基金)をめぐる大規模不正事件の一環である。BOG基金とは、ベトナム政府がガソリン小売価格の急激な変動を抑えるために設けた制度で、石油流通企業が一定額を積み立て、政府の指示に基づいて価格調整に充当する仕組みである。近年、この基金の管理をめぐって複数の石油企業で不正が発覚し、社会的に大きな注目を集めてきた。

公安省捜査警察機関(Cơ quan Cảnh sát điều tra Bộ Công an)の捜査結論によると、2020年から2022年にかけて、タイン被告はTMD社の従業員に指示し、21社に対して7,200万リットル超のガソリン・軽油に関する架空のVAT(付加価値税)インボイス153枚を発行させ、206億ドン超の不正利益を得ていた。さらに、同社はBOG基金から701億ドン超を横領したとされる。

捜査の結果、タイン被告と共犯者10名は「国家予算納付に係るインボイス・証憑の違法売買」の罪で起訴を求められた。また、TMD社から架空インボイスを購入・使用した顧客側の被告人らは「脱税」の罪で起訴が求められている。起訴勧告を受けた被告人は合計23名に上る。

1億712万リットルの無申告販売——なぜ脱税罪が適用されなかったのか

捜査の過程で、TMD社が25社および一般顧客に対し、1億712万リットルのガソリン・軽油(総額1兆3,690億ドン超)をVATインボイスを発行せず、税務申告も行わずに販売していた事実が判明した。2025年6月9日、公安省はゲアン省税務局(旧:地区X税務支局)に税務鑑定を依頼した。

2025年11月6日に出されたゲアン省税務局の鑑定結論では、TMD社の当該行為は「脱税」に該当すると認定された。その上で、未納税額の算定について2つのケースが示された。

ケース1:1億712万リットル全量について未発行・未申告として計算した場合、未納税額は3,870億ドン超(うちVATが1,240億ドン超、環境保護税が2,630億ドン超)。

ケース2:架空インボイスで既に申告済みの税額および追加修正申告分を相殺(控除)した場合、追加納付すべき税額は391億ドン超。

捜査機関は、TMD社が架空インボイスの発行と無申告販売を並行して行っていた実態を踏まえ、「ケース2」が実態に即していると判断した。すなわち、架空インボイスで申告された税額は、実際にはインボイスなしで販売された分の税金を実質的にカバーしていたという構図である。

決定的だったのは、TMD社が自主的に修正申告を行い、530億ドン超を国庫に納付した点である。これは義務額391億ドンを上回っており、税務当局は「損害が完全に回復された」と結論づけた。ベトナムの刑法では、脱税行為であっても損害が完全に補填された場合、刑事責任を問わないとする規定があり、今回はこの条項が適用された形である。

TMD社の財務状況——1,058億ドン超の滞納税と3,232億ドンの銀行債務

ただし、TMD社の経営状況は決して楽観できるものではない。2026年1月31日時点で、同社の滞納税額は合計1兆580億ドン超に達している。2026年3月27日には、ゲアン省税務局がTMD社の銀行口座から9,580億ドン超を強制徴収する措置を発動した。税務当局は、この強制徴収は「滞納税」に関するものであり、「脱税」とは別の問題であると明確に区別している。

さらに、捜査結論によると、TMD社は3つの銀行と信用関係があり、元本残高の合計は3兆2,320億ドン超である。石油流通事業は運転資金の規模が大きく、銀行借入への依存度が高い業種であるが、これほどの債務規模は同社の経営基盤に対する重大なリスク要因といえる。

投資家・ビジネス視点の考察

本件は、ベトナムの石油流通業界におけるガバナンスの脆弱性と、BOG基金制度の構造的な問題を改めて浮き彫りにした事例である。以下、いくつかの観点から考察する。

1. 石油流通セクターへの信頼性リスク:TMD社に限らず、ベトナムでは近年、ソンハイ(Xuyên Việt Oil)事件など石油流通企業の大型不正が相次いでいる。上場・非上場を問わず、同セクターへの投資には企業統治リスクを十分に織り込む必要がある。ホーチミン証券取引所(HOSE)やハノイ証券取引所(HNX)に上場する石油関連銘柄への波及も注視すべきである。

2. 税務コンプライアンスの重要性:今回、TMD社が刑事訴追を免れた最大の理由は「損害の完全回復」であった。これはベトナム刑法の特徴的な規定であり、日本企業がベトナムで事業を行う際にも知っておくべき法制度上のポイントである。ただし、これは脱税を事後的に「許容」する仕組みではなく、行政罰や追徴課税は別途課される点に留意が必要である。

3. FTSE新興市場指数格上げとの関連:ベトナムは2026年9月にもFTSE新興市場指数への格上げが決定される見込みであるが、こうした企業不正事件の頻発は市場の透明性に対する国際投資家の評価に影を落としかねない。ベトナム政府が不正摘発を積極的に進めていること自体は市場浄化の観点からポジティブであるが、制度的な再発防止策が伴わなければ本質的な改善にはつながらない。

4. 日系企業への示唆:ベトナムに進出している日系の石油・エネルギー関連企業や、現地サプライチェーンでガソリン・軽油を大量に調達する製造業企業にとって、取引先の税務コンプライアンス状況は自社リスクに直結する。架空インボイスを受け取った側も脱税罪で起訴されている点は、特に重要な教訓である。


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出典: 元記事

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