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ベトナムを代表する金宝飾小売チェーン「バオティン・マインハイ(Bảo Tín Mạnh Hải)」が、2026年第4四半期にIPO(新規株式公開)を実施する方針を明らかにした。5月18日付の米ブルームバーグが報じたもので、2025年度のEPS(1株当たり利益)は2万5,813ドンとHOSE(ホーチミン証券取引所)上場銘柄中で最高水準を記録しており、ベトナム株式市場における今年最大級の注目IPO案件となる可能性がある。
IPOの概要——SSI証券が主幹事、HOSE上場を目指す
同社のヴー・フン・ソン(Vũ Hùng Sơn)会長がブルームバーグに語ったところによると、現在プレIPO段階にあり、6月から投資家向けロードショーを開始する予定である。具体的な調達目標額は未公表だが、最低でも発行済み株式の15%を公開する計画だ。
アドバイザリーには、ベトナム最大手証券会社であるSSI証券(SSI)が参画し、バリュエーション算定と上場準備を進めている。IPOと同じ四半期中にHOSEへの上場を目指す方針で、スピード感のあるスケジュールが設定されている。
創業34年のハノイの「金ブランド遺産」
バオティン・マインハイは、職人ヴー・マインハイ氏と実業家グエン・ティ・タインヴァン氏が創業した、ハノイで34年の歴史を持つ老舗金宝飾企業である。ハノイの旧市街には「バオティン」の名を冠した金店が軒を連ねており、地元住民にとっては結婚式の金アクセサリーや資産保全手段としての金購入に欠かせない存在だ。
2023年、二代目となるヴー・フン・ソン会長の下で大きな転換を遂げた。従来の「監視型ガバナンス」から「創造型ガバナンス」へと経営思想を切り替え、実は2021年から2026年の上場を見据えた内部体制の整備を進めてきたという。
驚異的な2025年度業績——ROE110%超
グラントソントン(Grant Thornton)による監査済みの2025年度財務報告によれば、主要な業績数値は以下の通りである。
- 純売上高:2兆7,891億ドン(計画比19.2%超過達成)
- 税引後利益:774億ドン(計画比約88%超過達成)
- ROE(自己資本利益率):110%超
- EPS:2万5,813ドン/株(HOSE上場企業中最高水準)
特筆すべきは、これらの数字がわずか12店舗の直営体制で達成されている点である。1店舗あたりの売上効率が極めて高いことを示しており、今後の多店舗展開による業績拡大ポテンシャルの大きさを物語っている。
24K金ジュエリー特化戦略——「国民的金ブランド」へ
同社の戦略は明確だ。24K(純金)の金製品に特化し、ライフスタイル型のギフト商品やジュエリー、さらには0.1チー(0.375グラム)単位の小口金地金商品「ティウ・キム・カット(Tiểu Kim Cát)」「ヴァン・ソン・ダットヴィエット(Vàng Son Đất Việt)」などを展開する。
この小口金地金は、従来「富裕層の資産防衛手段」とされてきた金投資を、一般の中低所得層にまで広げる画期的なアプローチである。国際基準の品質を維持しながら購入ハードルを下げることで、ベトナム全土の幅広い消費者層を取り込む狙いがある。
2026年3月の株主総会では「ベトナム最大の24K金小売チェーンになる」という戦略目標が正式に承認され、2026年中に68店舗以上を新規出店し、合計80店舗体制を構築する計画だ。2026年度の売上高は前年比2.5倍以上を目指すとしている。
金市場の規制緩和が追い風——独占体制の終焉
この急拡大計画を後押しするのが、ベトナム政府の金市場規制改革である。2025年10月10日に施行された政令232号(Nghị định 232/2025/NĐ-CP)により、それまで国家が独占していた金地金の製造、金原料の輸出入が民間企業にも開放された。
2026年4月時点で11社が金地金製造の許可申請を提出しており、バオティン・マインハイもその一社である。同社はロンドン貴金属市場協会(LBMA)関連のパートナーとMOU(覚書)を締結済みで、許可取得後は即座に金原料の輸入・製造を開始できる体制が整っているとソン会長は強調する。
ベトキャップ証券(Vietcap Securities)のシニアアナリスト、ガン・リー氏はブルームバーグの取材に対し、「今回の政策変更により金原料の供給不足が大幅に緩和され、加工業者・小売業者双方の売上成長を力強く後押しする」との見方を示している。
投資家・ビジネス視点の考察
ベトナム株式市場への影響:VN-Indexは2025年に約41%上昇し、2026年も年初来7%超の上昇を記録している。この市場環境下でのバオティン・マインハイのIPOは、ベトナムのプライマリー市場(新規発行市場)に新たな活力を注入する可能性が高い。EPS2万5,813ドンという数字はHOSE最高水準であり、バリュエーション次第では機関投資家の強い関心を集めるだろう。
FTSE新興市場指数格上げとの関連:2026年9月にFTSEラッセルによるベトナムの新興市場への格上げ判断が見込まれている。大型IPOによる市場の流動性向上と上場企業の質的向上は、格上げ審査においてプラス材料となる。バオティン・マインハイがHOSEに上場し、一定の時価総額と流動性を確保すれば、将来的にFTSE指数の構成銘柄候補にもなり得る。
日本企業への示唆:ベトナムの金市場は年間消費量で世界上位に位置し、文化的にも金は結婚式・旧正月の贈答品として根強い需要がある。政令232号による市場開放は、金の精錬技術や品質管理ノウハウを持つ日本企業にとっても、技術提携や合弁事業の新たな機会を開く可能性がある。
リスク要因:一方で、年間68店舗という急速な出店ペースには、人材育成・在庫管理・品質統制の面でオペレーショナルリスクが伴う。また、金価格の国際相場変動リスク、許認可取得の時期の不透明性にも注意が必要である。ROE110%超という数字は資本効率の高さを示す一方、自己資本の薄さを意味する可能性もあり、IPO後の資本構成の変化を見極める必要がある。
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