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ベトナム証券業界の最大手であるSSI証券(SSI Securities Corporation)の創業者兼会長グエン・ズイ・フン(Nguyễn Duy Hưng)氏が、同社がデジタル資産(暗号資産・トークン化資産など)分野への参入をいまだ実現していない理由を明かした。かつてはデジタル資産取引所の設立を先導する意欲を見せていた同氏だが、「明確な事業機会がまだ見えない」として一時的に計画を凍結している。ベトナムでデジタル資産に関する法整備の議論が活発化するなか、業界のリーダーが慎重姿勢を示したことは注目に値する。
グエン・ズイ・フン氏とは何者か
グエン・ズイ・フン氏は、ベトナム株式市場の黎明期からその発展を牽引してきた象徴的な人物である。2000年のホーチミン証券取引所(HOSE)開設とほぼ同時期にSSI証券を設立し、同社をベトナム最大の証券会社へと育て上げた。SSI証券はホーチミン証券取引所に上場しており、時価総額・取引シェアともにベトナム証券業界でトップクラスを誇る。フン氏はベトナムの金融・投資分野において極めて影響力が大きく、その発言は市場関係者から常に注視されている。
SSIがデジタル資産取引所を構想した背景
フン氏はかつて、SSI証券がベトナム国内で先駆けてデジタル資産の取引プラットフォームを立ち上げることに強い意欲を示していた。世界的に暗号資産やトークン化された証券(セキュリティ・トークン)への関心が高まるなか、ベトナムでも若年層を中心に暗号資産の保有率が東南アジア有数の高さを記録しており、市場ポテンシャルは大きいとみられていた。チェイナリシス(Chainalysis)の調査では、ベトナムは暗号資産の普及度で世界上位にランクインすることも多く、民間レベルでの関心は非常に高い。
こうした状況を受け、証券業界のリーダーであるSSIが取引インフラの構築に乗り出すことは、市場の制度化・健全化に大きく寄与すると期待されていた。
なぜ計画を凍結したのか
しかしフン氏は、現時点ではSSIとしてデジタル資産分野に本格参入するタイミングではないと判断し、計画を一時停止した。その最大の理由として同氏が挙げたのは、「明確なビジネス機会がまだ見えていない」という点である。
この発言の背景には、ベトナムにおけるデジタル資産の法的枠組みがいまだ整備途上にあるという事実がある。ベトナム政府は暗号資産やデジタル資産を全面的に禁止しているわけではないものの、取引所の運営や暗号資産の法的地位、課税ルールなどを包括的に定めた法律はまだ成立していない。2024年以降、政府や国家銀行(ベトナム中央銀行にあたるSBV)がデジタル資産の規制フレームワーク策定に向けた検討を進めているものの、具体的な法制度の施行時期は依然として不透明な状況が続いている。
こうした規制の不確実性のもとで、上場証券会社としてのSSIが大規模な投資を行うことはリスクが高い。フン氏の慎重姿勢は、規制リスクを的確に見極めた経営判断といえるだろう。
ベトナムのデジタル資産規制の現在地
ベトナム政府は2025年にかけて、デジタル資産に関する法的枠組みの策定を加速させてきた。首相府が各省庁にデジタル資産の管理・規制に関する研究を指示し、財務省や情報通信省などが連携して検討を行っている。仮想資産サービスプロバイダー(VASP)に対する登録制度やマネーロンダリング防止(AML)対策の強化も議論されている。
一方で、ベトナムは暗号資産の「法定通貨としての使用」は明確に禁止しており、あくまで投資対象・デジタル資産としての位置づけが模索されている段階である。国際的なFATF(金融活動作業部会)の基準への適合も求められるなか、制度設計には時間がかかるとみられている。
投資家・ビジネス視点の考察
SSI株への影響
今回のフン氏の発言自体は、SSI証券の短期的な業績や株価に直接的な影響を与えるものではない。むしろ、不透明な領域への拙速な投資を避けるという判断は、既存株主にとってはリスク管理として評価されうる。SSI証券(ティッカー:SSI)はベトナム証券セクターの中核銘柄であり、伝統的な証券ブローカレッジ、投資銀行業務、自己勘定取引が引き続き主要な収益源である。
ベトナム株式市場全体への示唆
注目すべきは、ベトナム最大手証券会社の経営者が「まだ機会が見えない」と明言したことが、ベトナムにおけるデジタル資産市場の制度的成熟度を如実に物語っている点である。裏を返せば、法整備が整い明確な事業機会が生まれた段階では、SSIのようなリソースとブランド力を持つ企業が一気に参入し、市場の主導権を握る可能性がある。制度が固まるタイミングは投資家にとって重要なウォッチポイントとなる。
FTSE新興市場指数格上げとの関連
2026年9月に最終判断が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナム格上げは、証券市場のインフラ整備・取引制度の透明性向上が前提条件となっている。デジタル資産取引の制度化は直接的にFTSE格上げの条件とはならないが、金融市場全体の近代化・国際化という文脈では同じ方向にある。ベトナム政府が資本市場の制度整備を加速するなかで、デジタル資産規制もその延長線上に位置づけられる可能性がある。
日本企業への示唆
日本のフィンテック企業や暗号資産交換業者にとって、ベトナム市場は人口約1億人・若年層比率が高いという魅力的な市場である。しかし、現時点では法制度が未整備であるため、本格的な事業展開には慎重な姿勢が求められる。SSIのような現地最大手でさえ参入を見合わせている状況は、外国企業にとっても重要なシグナルといえるだろう。法整備の進展を注視しつつ、パートナーシップの構築や市場調査を進める段階と考えられる。
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ハノイ在住13年日本語で毎日配信。
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出典: 元記事












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