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ベトナムの二大配車プラットフォームであるGrab(グラブ)とBe(ビー)が、2025年4月末から5月初旬にかけて相次いでバイクタクシー(ベトナムで「xe ôm công nghệ(テクノロジー・バイタク)」と呼ばれるサービス)の料金を引き上げた。燃料費の上昇と運営コストの改善を理由に掲げており、日常的にこれらのサービスを利用する市民や在住外国人、さらにはベトナムのデジタル経済全体に影響を及ぼす動きとして注目される。
Grab:プラットフォーム手数料を引き上げ
東南アジア最大級のスーパーアプリであるGrab(本社:シンガポール)は、4月末にベトナム国内でのプラットフォーム手数料(phí nền tảng)の引き上げを通知した。プラットフォーム手数料とは、利用者が乗車料金とは別に支払うサービス利用料であり、Grabがアプリの開発・保守やカスタマーサポート、保険制度の維持などに充てるとしている費用である。Grabは近年、ベトナム市場において手数料体系を段階的に見直してきたが、今回の引き上げはガソリン価格の上昇や人件費の増加を背景としたものとされている。
ベトナムにおけるGrabのバイクタクシーサービス「GrabBike」は、ホーチミン市やハノイ市を中心に数百万人が日常的に利用する都市交通の柱である。渋滞が慢性化するベトナムの大都市では、バイクタクシーは通勤・通学・ちょっとした移動に欠かせない存在であり、料金の変動は市民生活への直接的な影響が大きい。
Be:運賃そのものを値上げ
一方、ベトナム発のローカル配車アプリBe(ビーグループ傘下)は、運賃(giá cước)そのものの引き上げを実施した。Beは2018年のサービス開始以来、「国産アプリ」としてGrab一強体制に風穴を開ける存在として成長してきた。特にハノイ市ではGrabと肩を並べるほどのシェアを持つとされる。Beも値上げの理由として、燃料コストの上昇と運行品質・運営体制の改善を挙げている。
Beが「運賃本体」の値上げに踏み切ったのに対し、Grabは「プラットフォーム手数料」の引き上げという手法を採った点は興味深い。いずれにせよ、利用者が最終的に支払う金額が増えることに変わりはなく、実質的な一斉値上げと言える。
背景:燃料価格の上昇とインフレ圧力
ベトナムでは2025年に入り、国際原油価格の変動や国内の燃料税制の調整を受けて、ガソリン小売価格がじわじわと上昇している。ベトナム政府は燃料価格安定基金を通じて急激な値上がりを抑制してきたものの、配車ドライバーの燃料負担は増大しており、プラットフォーム側が価格転嫁に動くのは時間の問題であった。
ベトナムの消費者物価指数(CPI)も2025年前半はやや上昇基調にあり、政府が掲げるインフレ目標(4〜4.5%程度)の範囲内ではあるものの、交通・食料品を中心に生活コストの上昇を市民が体感しやすい状況にある。バイクタクシー料金の値上げは、都市部の物価上昇感を一層強める要因となりうる。
ドライバー側の事情と労働環境
値上げの背景には、ドライバーの確保・定着という課題もある。ベトナムではGrabやBeのドライバーは個人事業主として扱われ、社会保険や有給休暇などの保障がない「ギグワーカー」が大半を占める。燃料費が上がっても運賃が据え置かれれば、手取りが減少しドライバー離れが進む。実際、コロナ禍以降、ドライバーの供給不足がたびたび問題となっており、ピーク時間帯の配車待ち時間が長くなる現象はハノイやホーチミンで日常的に見られる。プラットフォーム各社にとって、適正な運賃水準の維持はドライバーの労働環境改善とサービス品質の向上に直結する問題である。
ベトナムの配車市場の競争構図
ベトナムの配車市場は、Grab、Be、そしてインドネシア発のGojek(ゴジェック、現在はGoToグループ傘下)の三つ巴の構図が続いてきた。ただしGojekは2023年にベトナム市場から撤退しており、現在は実質的にGrabとBeの二強体制となっている。このほか、中国系のInDriver(インドライバー)や地場の小規模プラットフォームも存在するが、シェアは限定的である。
二社が同時期に値上げに踏み切ったことは、競争環境が「価格競争」から「収益性重視」へと移行しつつあることを示唆している。かつてのように赤字覚悟のプロモーションで利用者を奪い合うフェーズは終わり、持続可能なビジネスモデルの構築が優先されるようになった。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の値上げは、ベトナムのデジタル経済・プラットフォーム経済の成熟を象徴する出来事である。投資家やベトナム進出企業にとって、以下のポイントが注目に値する。
①関連銘柄への影響:Grabはナスダック上場(ティッカー:GRAB)であり、ベトナム単体の値上げが株価に与えるインパクトは限定的だが、東南アジア全体での収益改善トレンドの一環として評価される可能性がある。一方、Beの親会社であるビーグループ(Be Group)はベトナム国内での上場は現時点では実現しておらず、間接的な投資対象としてはベトナムのIT・フィンテック関連銘柄(FPT〈ベトナム最大手IT企業〉など)の動向と合わせて注視すべきである。
②日系企業・駐在員への影響:ベトナムに拠点を持つ日系企業にとって、従業員の通勤手段としてGrabBikeやBeは広く利用されている。運賃上昇は福利厚生費や出張交通費の増加につながるため、コスト管理の観点で留意が必要である。
③インフレ・消費動向との関係:配車料金の上昇は都市部の消費マインドにじわりと影響する。ベトナム中央銀行(SBV)の金融政策やベトナムドンの為替動向とも絡む論点であり、内需関連銘柄(小売・消費財セクター)の業績見通しを考える上で一つの材料となる。
④FTSE新興市場指数格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナム格上げは、ベトナム株式市場全体への資金流入を促す歴史的イベントである。格上げに向けては市場の透明性やガバナンスが問われるが、配車プラットフォームの料金体系が合理的かつ持続可能な方向に向かうことは、ベトナムのデジタル経済の成熟度を示すシグナルとして、海外投資家にポジティブに受け止められうる。
⑤ベトナム経済全体のトレンド:ベトナムは2025年もGDP成長率6〜7%台を目指す高成長経済であるが、成長の果実が物価上昇として国民生活に跳ね返る局面も増えている。「安くて便利」が売りだったテック配車サービスの値上げは、ベトナム経済が「低コスト」から「適正コスト」へ構造的に移行しつつある象徴的な事例と言えるだろう。
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