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ベトナム国内で金塊(SJCブランドの延べ棒)の売値と買値の差(スプレッド)が急拡大していることが明らかになった。ある取扱業者では、その差が1両(ルオン)当たり490万ドンにまで広がり、金を売却しようとする消費者にとって極めて不利な状況が生じている。金相場が乱高下する局面において、業者側がリスクヘッジのためにスプレッドを拡大させる動きが表面化した形だ。
売買スプレッド、通常の3百万ドンから4.9百万ドンへ
報道によれば、この日の午前の取引において、SJCブランドの金塊の売買スプレッドは主要業者間でおおむね1両当たり300万ドン程度で推移していた。これはベトナムの金市場において比較的一般的な水準であり、金相場が安定している局面ではこの程度のスプレッドが標準的とされている。
しかし、そのなかで特定の一社については、スプレッドが490万ドンにまで拡大するという異例の事態が発生した。通常の水準と比較して1.6倍以上に広がった計算になり、金相場のボラティリティ(変動率)が高まるなかで、業者が意図的に「買値を低く、売値を高く」設定することで、価格変動リスクを消費者側に転嫁している構図が浮き彫りになっている。
「リスクは買い手側に大きく傾いている」
市場関係者は、このようなスプレッドの急拡大について「リスクが完全に買い手(金を購入する消費者)側に傾いている」と警鐘を鳴らしている。金塊のスプレッドが拡大するということは、消費者が金を購入した直後に売却しようとしても、大きな差損を被ることを意味する。つまり、金価格そのものが上昇しなければ、購入者は理論上、既に490万ドン分のマイナスを抱えた状態からスタートすることになる。
ベトナムでは伝統的に金(特にSJCブランドの金塊)が「安全資産」として個人の間で根強い人気を持ち、婚礼や旧正月(テト)などの節目に金を購入する文化的慣習が今も色濃く残っている。国営企業であるサイゴン宝飾貴金属公社(SJC)が製造する金塊は、事実上ベトナムにおける金の「基準銘柄」としての地位を確立しており、国際金価格の変動に加え、国内特有の需給要因や政策要因も複雑に絡み合って価格が形成される。
金価格変動の背景にあるもの
近年、国際金相場は世界的なインフレ懸念、地政学リスクの高まり、各国中央銀行による金準備の積み増しなどを背景に大きく変動してきた。ベトナム国内においても、この国際相場の影響を強く受けるかたちで金価格が乱高下しており、ベトナム国家銀行(中央銀行に相当)は過去にも金の輸入制限や国内金市場の管理強化など、たびたび介入的な政策を打ち出してきた経緯がある。
スプレッドの拡大は、業者側が今後の価格下落リスクを強く警戒していることの表れとも解釈できる。金価格が急騰した後には、利益確定の売りが出やすく、相場が反転するリスクも高まる。業者はこうした不確実性に備え、買取価格を抑えることで、自らのポジションリスクを軽減しようとしているとみられる。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の金塊スプレッド拡大というニュースは、一見するとベトナム株式市場とは直接関係のない「実物資産市場」の出来事に見えるかもしれない。しかし、これはベトナムの個人投資家心理や資産防衛意識を読み解くうえで重要な示唆を含んでいる。
ベトナムでは株式市場や不動産市場に加え、金が個人資産の「避難先」として選ばれる傾向が強い。今回のようにスプレッドが拡大し、金の実物取引における流動性リスクが顕在化すると、一部の個人投資家の資金が株式市場や投資信託など、より透明性の高い金融商品へとシフトする可能性も指摘できる。特にベトナム証券市場が2026年9月に予定されるFTSEラッセルによる新興市場(エマージング市場)指数への格上げを控えるなか、国内の資金フローがどこに向かうかは、外国人投資家にとっても注視すべきポイントとなる。
また、日本企業やベトナム進出企業にとっても、金価格の乱高下やインフレ懸念の高まりは、ベトナム人従業員の生活防衛意識や消費行動に影響を与える要因となり得る。金価格の不安定化は、間接的に消費財市場や小売業の動向にも波及する可能性があるため、現地でビジネスを展開する日本企業は、こうした「実物資産市場の温度感」にも目を配る必要があるだろう。
総じて、今回のスプレッド急拡大は、ベトナム経済全体における「不確実性への警戒感」を象徴する出来事といえる。金融当局が今後どのような対応を取るのか、また国際金相場の動向次第では、ベトナム国内の資産市場全体に波及する可能性もあり、引き続き注視が必要である。
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