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ベトナム国家銀行(中央銀行)は、金地金の製造および金原料の輸入に関するライセンスの申請を11の事業体から受理したことを明らかにした。長年にわたりSJC(サイゴン・ジュエリー・カンパニー)ブランドが事実上独占してきたベトナムの金地金市場に、複数の新規参入が実現する可能性が浮上しており、国内の金市場構造を根本から変える転換点となり得る動きである。
11社がライセンス申請——背景にある金市場改革の流れ
ベトナム国家銀行の発表によれば、金地金の製造許可と金原料の輸入許可を求める申請書類(ホーソー)が合計11件提出された。これまでベトナムでは、2012年に制定された政令24号(Nghị định 24)により、金地金の製造はSJCブランドに限定され、国家銀行が独占的に管理する体制が敷かれてきた。SJC(ベトナム最大の金地金ブランド、ホーチミン市に本社を置く国営企業)の刻印が入った金地金のみが公式に流通を認められ、他ブランドの金地金は法的に製造・販売ができない状態が10年以上続いていた。
しかし、この独占体制は長年にわたり深刻な問題を生んできた。最大の弊害は、国内金価格と国際金価格との間に生じる異常なプレミアム(乖離)である。SJC金地金は国際相場に対して1テール(1テール=約37.5グラム)あたり数百万ドンから、時には1,000万ドン以上もの上乗せ価格で取引されることが常態化していた。供給が国家銀行の裁量に完全に依存しているため、需要が高まっても迅速に供給量を増やすことができず、価格の歪みが拡大する構造的欠陥があったのである。
政令24号の改正と市場開放への道筋
こうした問題を受け、ベトナム政府は金市場の規制枠組みを見直す方針を打ち出してきた。2024年以降、政府とベトナム国家銀行はSJC独占体制の段階的な解消に向けた議論を加速させ、複数の企業に金地金の製造ライセンスを付与する方向で法整備を進めてきた。今回の11社による申請は、この政策転換が具体的なアクションとして動き始めたことを示している。
申請を行った11の事業体の詳細な名称はまだ完全には公開されていないが、宝飾品メーカー、銀行系企業、鉱業関連企業など、多様な業種からの参入が見込まれている。金原料の輸入ライセンスについても申請が出されており、これが認可されれば、国際市場から直接金原料を調達し、国内で加工・製造する一貫体制を構築する企業が複数誕生することになる。
SJC独占体制がもたらしてきた歪み
ベトナムの金市場が抱えてきた構造的問題を理解するには、同国における金の文化的・経済的な位置づけを知る必要がある。ベトナムでは伝統的に金が最も信頼される資産保全手段とされ、不動産取引や高額な商取引において金建ての決済が行われることも珍しくない。結婚式の持参金や旧正月(テト)の贈答品としても金が広く用いられ、国民の金に対する需要は根強い。
世界金評議会(World Gold Council)の推計によれば、ベトナム国内には民間で約400〜500トンの金が保有されているとされ、これはGDP比で見ても世界的に高い水準である。にもかかわらず、公式な金地金の供給ルートがSJCブランドに限定されていたため、需給のミスマッチが恒常的に発生し、プレミアムの拡大や闇市場での取引といった問題を引き起こしてきた。
ベトナム国家銀行は2024年に入ってから、入札方式による金地金の市場放出を複数回実施し、SJCプレミアムの縮小を図ってきたが、効果は一時的にとどまる傾向があった。根本的な解決には供給サイドの構造改革——すなわち、複数の企業による金地金製造の解禁——が不可欠であるとの認識が広がり、今回の動きにつながったのである。
今後の審査プロセスと課題
ベトナム国家銀行は申請を受理した段階であり、今後は各事業体の財務基盤、製造設備の品質管理体制、セキュリティ対策、金の純度保証能力などを厳格に審査する見通しである。金地金は通貨に準ずる性格を持つため、偽造防止技術や流通管理システムの整備が許認可の重要な判断基準となる。
また、複数ブランドの金地金が市場に並存することになれば、消費者の信頼をどう確保するかも大きな課題である。長年SJCブランドに慣れ親しんだベトナムの消費者が、新規ブランドの金地金を同等の価値として受け入れるかどうかは未知数であり、政府による品質認証制度の整備や、各ブランドの金地金の互換性(買取価格の均一化など)に関するルール作りが求められる。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の動きは、ベトナムの金融市場の近代化と透明性向上という大きな文脈の中に位置づけられる。以下の観点から、投資家およびビジネス関係者にとって重要な意味を持つ。
■ 金関連銘柄への影響
ホーチミン証券取引所(HOSE)に上場するSJC関連企業や宝飾品関連企業(PNJ=フーニュアン・ジュエリー(ベトナム最大の宝飾品チェーン)など)にとって、市場の開放は競争環境の激変を意味する。PNJ(銘柄コード:PNJ)は金地金の小売でも大きなシェアを持つが、製造ライセンスを取得できれば自社ブランド金地金の展開が可能になり、収益構造が大きく変わる可能性がある。一方、SJCブランドの独占的地位が失われることで、同ブランドのプレミアムは縮小方向に向かうと見られる。
■ 銀行セクターへの波及
金原料の輸入ライセンスが民間企業に付与されれば、外貨需要の増加を通じて為替市場にも影響が及ぶ。ただし、国家銀行が輸入量を管理する仕組みが維持される限り、急激な外貨流出リスクは限定的と見られる。
■ FTSE新興市場指数への格上げとの関連
2026年9月に判定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げに向け、ベトナムは金融市場全般の制度改革を進めている。金市場の自由化・透明化もこの改革パッケージの一環と位置づけることができ、海外投資家に対してベトナム市場の成熟度をアピールする材料となる。市場の制度的な歪みを解消する姿勢は、FTSE格上げの審査においてもプラスに評価される可能性がある。
■ 日本企業への示唆
金の精錬・加工技術で世界的な実績を持つ日本企業にとって、ベトナム金市場の開放は新たなビジネス機会となり得る。品質管理技術や偽造防止ソリューションの提供、合弁事業を通じた市場参入など、技術的優位性を活かした展開が考えられる。
いずれにせよ、10年以上続いたSJC独占体制の終焉は、ベトナムの金市場における歴史的な転換点である。ライセンス審査の結果と、新規参入企業の顔ぶれが明らかになるタイミングで、市場は再び大きく動くことになるだろう。今後の国家銀行の発表に注視が必要である。
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