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2025年7月3日午前、ベトナムの金小売大手ゴックタム(Ngọc Thẩm)が提示した9999純金リング(nhẫn vàng 9999)の価格が、国営ブランドであるSJC金塊(vàng miếng SJC)と比較して、買取価格で約1,290万ドン/ルオン、販売価格で約1,240万ドン/ルオンもの差が生じていることが明らかになった。金の純度は同じ9999(99.99%)でありながら、形状とブランドの違いだけでここまでの価格差が生まれる構造は、ベトナム金市場の特異性を如実に示している。
SJC金塊と純金リング——なぜ同じ純度で価格差が生まれるのか
ベトナムの金市場を理解するうえで不可欠なのが、SJC金塊の特殊な位置づけである。SJCはベトナム国家銀行(中央銀行)が独占的にブランド管理を行う金塊で、事実上の「国家公認ブランド」として流通している。2012年以降、政府は金塊の製造・流通をSJCブランドに一元化し、新規の金塊ブランド参入を禁止した。この供給制限政策により、SJC金塊は国際金価格に対して恒常的にプレミアムが上乗せされる構造が固定化されてきた。
一方、純金リング(指輪型の金製品)は宝飾品扱いとなるため、各社が自由に製造・販売できる。したがって国際金価格により連動しやすく、結果としてSJC金塊との間に大きな価格乖離が生じるのである。今回ゴックタムが提示した価格差は最大約1,300万ドン/ルオン(1ルオン=約37.5グラム)に達しており、これは近年でも目立つ水準といえる。
ゴックタム(Ngọc Thẩm)とは
ゴックタムはホーチミン市を拠点とする金・宝飾品の上場企業で、ベトナム南部を中心に店舗を展開している。上場企業として金価格を公開しているため、市場の透明性指標として注目される存在である。同社が提示するリング価格は、他の大手であるDOJI(ドジ)やPNJ(フーニュアンジュエリー)の価格帯とも概ね連動しており、業界全体のトレンドを反映していると考えてよい。
価格差拡大の背景
今回の価格差拡大にはいくつかの要因が絡んでいる。第一に、国際金価格が高水準で推移するなか、SJC金塊の供給量が限定的であるため、国内プレミアムがさらに膨らんでいる点がある。ベトナム国家銀行は2024年以降、SJC金塊の入札販売を通じて価格安定を図ってきたが、需要に対して供給が追いつかない状況が続いている。
第二に、ベトナムドンの対米ドル相場が不安定ななか、国民のインフレヘッジ需要が金に向かいやすい環境がある。特にベトナムでは伝統的に金を資産保全手段として重視する文化が根強く、婚礼や旧正月(テト)を含む各種行事での金購入需要も底堅い。
第三に、政府が金塊と金リングの制度的扱いを分けていることで、同一純度にもかかわらず「制度的プレミアム」が発生している。この歪みは長年指摘されているが、抜本的な制度改革には至っていない。
投資家・ビジネス視点の考察
この価格差構造は、ベトナム金市場への投資を検討する際の重要なリスク要因である。SJC金塊は流動性が高い反面、国際価格からの乖離リスクを常に内包しており、出口戦略を誤ると大きな損失につながりかねない。一方、純金リングは国際価格に近い水準で取引されるため、グローバル視点では合理的な選択肢となりうる。
ベトナム株式市場との関連では、PNJ(ティッカー:PNJ、ホーチミン証券取引所上場)が最も直接的な関連銘柄である。PNJはベトナム最大手の宝飾品チェーンであり、金価格の変動は同社の売上高・粗利益率に直結する。金価格高騰局面では「買い控え」による販売数量減少と「在庫評価益」の二面性に注意が必要である。
また、2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げに向けて、ベトナム政府は資本市場の透明性・効率性向上を推進している。金市場の制度的歪みの是正もその文脈で議論される可能性があり、中長期的にはSJCプレミアムの縮小につながる政策変更がありうる点も注視すべきである。
日本企業やベトナム進出企業にとっては、従業員への報酬・福利厚生で金を活用するベトナム特有の商慣行を理解するうえで、この価格差の存在は実務的にも重要な知識といえるだろう。
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