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ベトナム鉄道総公社(VNR)が、AI(人工知能)を活用した「フレキシブル運賃(Giá vé linh hoạt)」機能を2026年5月1日から電子発券システム全体に正式導入する。試験運用では座席稼働率が前年同期比9ポイント増の79%に達し、当初予定より2週間前倒しでの全面展開となった。ベトナムの交通インフラにおけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の象徴的な事例として注目に値する。
試験運用1週間で約20億ドンの売上を記録
VNRによると、2026年4月22日から29日までの1週間の試験運用期間中、AIフレキシブル運賃システムを通じて9,376枚のチケットが販売され、売上高は約20億ドンに達した。このうち、旅客に対する直接的な値引き総額は5億2,300万ドンに上る。
特筆すべきは座席稼働率の改善である。試験期間中の座席使用係数(ヘス・ス・ズン・チョー)は79%を記録し、前年同期比で9ポイント増、前月比では12ポイント増という大幅な改善を見せた。フレキシブル運賃の恩恵を受けた旅客の割合は、試験対象列車の全旅客数の10.36%であった。
AIの仕組み—長距離席販売後の短距離区間を自動最適化
このシステムの運用メカニズムは、航空業界で広く採用されているイールドマネジメント(収益管理)の鉄道版といえる。ある列車の座席の一部が長距離区間の旅客に販売された後、AIが残りの短距離区間の空席データを自動的にスキャン・分析し、購入タイミングに応じて15%から最大35%の割引率を算出・適用する仕組みである。
ベトナムの鉄道は南北統一鉄道(ハノイ〜ホーチミン市間、約1,726km)を幹線とし、長距離旅客と中短距離旅客が同一列車に混在する。従来は一律の運賃体系であったため、長距離旅客が下車した後の区間で空席が生じやすいという構造的課題を抱えていた。AIによる動的価格設定は、この「死に席」を収益化する合理的なアプローチである。
5月1日から全列車に適用、複数チャネルで購入可能
5月1日以降、フレキシブル運賃は全列車(全列車番号)に適用される。旅客は公式ウェブサイト(dsvn.vn、vetau.com.vn)、スマートフォンの発券アプリ、電子ウォレットなど複数のチャネルから割引運賃のチケットを購入できる。
透明性の確保にも配慮されており、割引対象の座席はシステム上で薄い青色(水色)で表示され、割引後の価格と値引き額が明示される。旅客は視覚的に割引座席を識別し、選択できる設計となっている。
祝日輸送体制—182本の定期便に加え47本を増発
フレキシブル運賃の全面導入と時期を同じくする4月30日(南部解放記念日)・5月1日(メーデー)の大型連休に合わせ、ベトナム鉄道は182本の定期列車(約9万席)に加え、47本の臨時列車を増発し、2万2,000席以上を追加供給する。増発対象の主要路線は以下の通りである。
- ハノイ〜ハイフォン(北部の主要港湾都市)
- ハノイ〜ラオカイ(サパ観光の玄関口、中国国境方面)
- ハノイ〜ヴィン(中部ゲアン省の省都)
- ハノイ〜ドンホイ(フォンニャ・ケバン国立公園の最寄り)
- ハノイ〜ダナン(中部の商業都市)
- サイゴン(ホーチミン市)〜ファンティエット(ムイネーリゾートの玄関口)
- サイゴン〜ニャチャン(南中部の人気観光地)
- サイゴン〜クイニョン(ビンディン省)
- サイゴン〜クアンガイ
これらの路線はいずれも観光需要が高く、連休中の需要急増に対応するものである。フレキシブル運賃と増発の組み合わせにより、鉄道の価格競争力と輸送力の両面が強化される形だ。
投資家・ビジネス視点の考察
今回のニュースは、ベトナムの国有インフラ企業におけるAI・DX活用の具体的成功事例として、複数の観点から注目すべきである。
1. 鉄道関連銘柄への影響:VNR自体は非上場の国有総公社であるが、傘下の鉄道運輸会社であるハノイ鉄道運輸(HRT)やサイゴン鉄道運輸(SRT)は上場企業である。座席稼働率の改善と収益最適化が進めば、これら子会社の業績にも好影響が波及する可能性がある。ただし、これらの銘柄は流動性が低く、投資判断には慎重さが求められる。
2. IT・フィンテック関連への波及:電子ウォレットやオンライン発券プラットフォームとの連携拡大は、ベトナムのフィンテック企業にとっても追い風である。MoMo、ZaloPay、VNPayといった電子決済プラットフォームの取引量増加に寄与する可能性がある。
3. 交通インフラDXの文脈:ベトナム政府は2025〜2030年にかけて南北高速鉄道構想を推進しており、既存鉄道網のデジタル化はその前段階として位置づけられる。AIによる収益管理の実績は、将来の高速鉄道事業における運営ノウハウの蓄積という意味でも重要である。日本はベトナムの鉄道インフラ整備において長年ODAを通じた協力関係にあり、JICAや日本の鉄道技術コンサルタント企業にとっても、ベトナム鉄道のDX進展は事業機会の拡大につながりうる。
4. FTSE新興市場指数格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げに向け、ベトナムは市場インフラの近代化と透明性向上を加速させている。交通インフラにおけるAI活用の成功事例は、ベトナム経済全体のデジタル成熟度を示す一つのシグナルとして、海外投資家の信認向上に間接的に寄与するものと考えられる。
航空業界では当たり前のダイナミックプライシングが、ベトナムの鉄道という「レガシーインフラ」に導入され、わずか1週間で目に見える成果を上げたという事実は、この国のデジタル適応力の高さを改めて証明している。今後、バスや都市交通など他の公共交通機関への横展開も注視すべきである。
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