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ベトナムの銀行業界で、預金獲得を巡る「金利競争」が再び熱を帯びている。複数の銀行が、個別交渉によって適用される「協議金利(ラーイ・スアット・トア・トゥアン)」を年8.5〜9%まで引き上げていることが明らかになった。対象となるのは数億ドン規模の預金からで、通常の店頭金利表には表示されない「特別枠」として、大口顧客向けに水面下で提示されているのが実情だ。
「協議金利」とは何か
ベトナムの銀行では、公式に公表される預金金利表とは別に、支店長や本部の裁量で個別に決定される「協議金利」という制度が存在する。これは主に、まとまった資金を持つ個人や法人顧客を他行から奪う(あるいは自行に引き留める)ための手段として使われてきた。今回報じられたのは、この協議金利が数百万ドン程度ではなく、数億ドン単位の預金に対して適用され、しかも水準が年9%という高水準に達しているという点だ。
公表されている通常の預金金利は、多くの銀行で12カ月物でも年5〜6%台にとどまっており、これと比較すると協議金利がいかに突出した水準にあるかが分かる。銀行側が公式金利を大きく動かさずに、裏側で選別的に高金利を提示しているという構図は、市場全体の資金需給が逼迫していることを示唆している。
なぜ銀行は資金集めを急いでいるのか
背景には、年後半にかけての融資需要の拡大がある。ベトナム政府はインフラ投資や不動産市場のてこ入れ、輸出企業向けの運転資金支援などを通じて、経済成長率目標の達成を目指しており、銀行に対しても積極的な融資拡大を求めてきた経緯がある。融資を伸ばすためには原資となる預金の確保が不可欠であり、特に中小規模の銀行を中心に、預金の奪い合いが激しくなっている。
また、年末・年度末にかけては例年、企業の決算資金需要や個人の消費資金需要が高まる時期でもあり、季節的な資金繰り圧力も金利上昇を後押ししている一因と考えられる。加えて、一部の銀行では自己資本比率(CAR)規制への対応や、中長期の安定資金比率を高める必要から、あえて高い金利を払ってでも長期の大口預金を確保しようとする動きも見られる。
公式金利には表れない「静かな利上げ」
注目すべきは、この動きが公式の預金金利表の引き上げという形では表面化していない点だ。ベトナム国家銀行(SBV、中央銀行に相当)は、市中金利の急激な上昇がインフレ再燃や為替(ドン安)圧力につながることを警戒しており、表向きの金利を大きく動かすことには慎重な姿勢を保っている。そのため銀行各行は、規制当局の目が届きにくい「協議金利」という形を使って、実質的な利上げを進めているとみられる。これは市場関係者の間で「静かな利上げ」とも呼ばれる現象であり、統計上の公表金利だけを見ていると、実際の資金コスト上昇を見誤るリスクがある。
投資家・ビジネス視点の考察
この動きは、ベトナム株式市場、とりわけ銀行株(VPBank〈ベトナム最大手クラスの民間商業銀行〉、Techcombank、ACBなど)の収益性に直結する話題である。預金金利の上昇は銀行にとって調達コストの増加を意味し、貸出金利を追随して引き上げられなければ、純金利マージン(NIM)の圧縮につながる可能性がある。一方で、これまで低金利環境の恩恵を受けてきた不動産デベロッパーや個人ローン利用者にとっては、実質的な借入コストの上昇として跳ね返ってくることも想定される。
また、ベトナムに進出する日本企業にとっても無関係ではない。現地法人の運転資金調達や、現地従業員向けの財形貯蓄的な金融商品の設計を行う上で、預金金利の実勢水準は重要な参考指標となる。表向きの公式金利だけでなく、こうした「協議金利」の動向にも目を配ることが、より正確な資金計画につながるだろう。
マクロ的には、2026年9月に予定されるFTSE新興市場指数への格上げ判断を控え、ベトナム市場への海外資金流入期待が高まる中、国内の資金逼迫と金利上昇が同時進行している点は興味深い。海外からの株式投資マネー流入と、国内銀行間の預金争奪戦という二つの資金フローが、今後どのようにベトナム経済全体の流動性バランスに影響するか、引き続き注視する必要がある。金利上昇が行き過ぎればインフレ抑制や通貨安定には資するものの、企業の資金調達コスト増を通じて成長率目標の達成に水を差す可能性もあり、中央銀行のかじ取りが今後の焦点となるだろう。
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