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ベトナム電力公社(EVN=Electricity of Vietnam)が、太陽光発電にバッテリー蓄電システム(BESS=Battery Energy Storage System)を組み合わせたモデルの実効性について、関係当局に対し明確化を求めた。EVNは、この方式が電力の買取価格を押し上げる一方、電力系統全体にとっての便益が不明瞭であると指摘しており、ベトナムの再生可能エネルギー政策の根幹に関わる重要な問題提起として注目を集めている。
EVNが問題視する「太陽光+BESS」モデルとは
近年、ベトナムでは再生可能エネルギーの導入が急速に進んでおり、特に太陽光発電の設備容量は東南アジアでもトップクラスに達している。しかし、太陽光発電は日照条件に左右される「間欠性電源」であるため、発電量が集中する昼間に電力が余剰となり、夕方以降の需要ピーク時には供給が不足するという構造的な課題を抱えている。この課題を解消する手段として注目されてきたのが、太陽光発電設備にリチウムイオン電池などの蓄電池(BESS)を併設し、昼間の余剰電力を貯めて夜間やピーク時に放電するモデルである。
ベトナム政府もこの方式を推進する姿勢を見せてきたが、EVNは今回、こうしたプロジェクトの経済合理性と、電力系統全体に対する実質的なメリットについて疑問を呈した形である。EVNの主張の核心は、「BESSの導入コストが電力買取価格(FIT=Feed-in Tariff、もしくは新たな入札方式による価格)に上乗せされることで、最終的に電気料金が上昇する」という点にある。蓄電池はまだ設備投資コストが高く、充放電のロス(ラウンドトリップ効率)も考慮すると、経済的に見合うかどうかは慎重な検証が必要だというのがEVNの立場である。
背景にあるベトナムの電力事情
ベトナムは2020年前後に太陽光発電のブームを経験した。政府が設定した優遇買取価格(FIT)が投資家にとって魅力的だったため、南部のニントゥアン省やビントゥアン省を中心に大規模太陽光発電所の建設が相次いだ。その結果、電力系統の送電容量を超える太陽光発電設備が接続され、出力制限(カーテイルメント)を余儀なくされる事態が発生。数多くの太陽光発電事業者が売電できないまま投資回収に苦しむという深刻な問題が生じた。
こうした経緯を踏まえ、ベトナム政府は新たな電力開発計画「PDP8(第8次国家電力開発計画)」において、蓄電池を活用した再エネの安定化を重要テーマとして位置づけている。BESSの導入は系統の安定性を高め、太陽光発電の出力制限を減らす効果が期待されるが、EVNが指摘するように、そのコストをどう負担するか、そして系統全体でどれだけの便益が得られるかは、まだ十分に整理されていない状況にある。
EVNの懸念と制度設計上の論点
EVNが今回の問題提起で特に重視しているのは、以下の点である。
第一に、BESS併設型太陽光発電プロジェクトの電力買取価格が、通常の太陽光発電と比較して大幅に高くなる可能性がある点である。蓄電池の設備投資や運転維持費が加算されるため、kWhあたりの発電コストが上昇し、その負担は最終的に電力消費者に転嫁される構図となる。
第二に、BESSが電力系統にもたらす具体的な便益——たとえば周波数調整、ピークカット、送電混雑の緩和、再エネ出力変動の平滑化など——がどの程度のものかが定量的に評価されていない点である。便益が明確でなければ、コスト増を正当化する根拠が薄くなる。
第三に、ベトナムでは電力の小売価格が政府の規制下にあり、EVNは事実上の独占的買い手(シングルバイヤー)として全国の発電事業者から電力を購入している。このため、BESSのコスト増はEVNの財務に直結し、ひいては消費者向け電気料金の値上げ圧力となる。EVNは長年にわたり電気料金と発電コストの逆ザヤに苦しんできた経緯があり、新たなコスト増要因には慎重にならざるを得ない事情がある。
国際的な潮流とベトナムの立ち位置
世界的に見れば、蓄電池の導入コストは年々低下傾向にある。中国製リチウムイオン電池の価格下落が最大の要因であり、米国やオーストラリア、欧州などでは大規模BESS(ユーティリティスケール)の導入が加速している。国際エネルギー機関(IEA)も、蓄電池は再生可能エネルギーの大量導入に不可欠な技術として重要性を強調している。
ベトナムにおいても、中長期的にはBESSの導入コストが低下し、経済性が改善される可能性は十分にある。しかし、現時点ではベトナムの電力市場が完全に自由化されておらず、コストの適正な配分や便益の評価を行う制度的な枠組みが未成熟であることが、EVNの懸念の根底にあると言えるだろう。
投資家・ビジネス視点の考察
今回のEVNの問題提起は、ベトナムの再生可能エネルギー関連銘柄および電力セクター全体の投資判断に対していくつかの示唆を与える。
1. 再エネ関連銘柄への影響:BESSを組み合わせた太陽光発電プロジェクトの経済性が疑問視されることで、関連プロジェクトの許認可や価格交渉が長期化するリスクがある。ベトナムの上場企業の中で再エネ事業を手がけるバンブー・キャピタル(BCG)やハドンエナジー(HDG)などの銘柄にとっては、政策の不透明感がネガティブに作用する可能性がある。
2. EVNと電気料金改定:EVNは上場企業ではないが、その財務状況はベトナム経済全体に影響を及ぼす。電気料金の段階的な引き上げは既定路線だが、BESSコストの上乗せが加速要因となれば、製造業を中心とした産業コストの増加につながる。これは日系を含む外資系製造企業のベトナム拠点運営にも影響を与え得る要素である。
3. 日本企業の商機:一方で、BESSの効率評価や制度設計が進めば、蓄電池技術や電力系統管理のノウハウを持つ日本企業にとっては新たなビジネスチャンスとなり得る。住友電気工業やパナソニック、あるいは電力系コンサルティング企業がベトナム市場での存在感を高める余地はある。
4. FTSE新興市場指数との関連:2026年9月に決定が見込まれるベトナムのFTSE新興市場指数への格上げに際し、電力インフラの安定性と制度の透明性は海外投資家が注視するポイントである。今回の議論が建設的に進み、合理的な制度設計がなされれば、ベトナムのエネルギーガバナンスに対する評価の向上につながる。逆に、政策が不透明なまま放置されれば、投資環境の不確実性として意識されるリスクもある。
5. 中長期的なトレンド:ベトナムは2050年カーボンニュートラル目標を掲げており、再生可能エネルギーの拡大と系統安定化は避けて通れない課題である。BESSを巡る今回の議論は、単なる個別技術の問題ではなく、ベトナムのエネルギー転換全体の制度設計が問われている象徴的な出来事と捉えるべきだろう。
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出典: 元記事(VnExpress)












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