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ベトナム電力公社EVN(Tập đoàn Điện lực Việt Nam)が、2025年末時点で連結ベースの累積未分配利益を5,533億ドンの黒字に転換させたことが明らかになった。2024年末にはマイナス3兆8,688億ドンという巨額の累積赤字を抱えていたことを考えると、わずか1年で約4.4兆ドン規模の劇的な財務改善を遂げたことになる。ベトナムのエネルギー政策と国民生活の根幹を担うEVNの黒字転換は、同国の電力セクター全体にとって極めて重要なニュースである。
EVNとは何か——ベトナム電力の「巨人」
EVNはベトナム政府が100%出資する国有企業グループであり、発電・送電・配電・電力小売をほぼ独占的に担う同国最大の電力事業者である。傘下には複数の発電子会社や送配電会社を抱え、ベトナム全土の約3,000万世帯以上に電力を供給している。上場企業ではないものの、その経営状況はベトナム経済全体、とりわけエネルギー関連銘柄や産業用電力コストに直結するため、投資家にとっても注視すべき存在である。
なぜ巨額赤字に陥っていたのか
EVNが累積赤字を積み上げた最大の要因は、2022年から2023年にかけての燃料費高騰と、それに見合わない電力小売価格の抑制にあった。ベトナム政府はインフレ抑制と国民生活の安定を優先し、電気料金の引き上げを長らく抑制してきた。一方で、石炭やLNG(液化天然ガス)の国際価格が急騰したことで、EVNの発電コストは大幅に膨れ上がった。この「コスト増」と「売価据え置き」の板挟みにより、EVNは2022年単体で約2兆6,000億ドン、2023年にはさらに大きな赤字を計上し、累積赤字は一時期4兆ドンを超える水準にまで拡大していた。
こうした状況は、ベトナム国内で大きな議論を呼んだ。電力の安定供給のためにはEVNの財務健全化が不可欠であるが、電気料金の値上げは国民負担の増大を意味する。政府は慎重にバランスを取りながら、段階的な料金改定を進めてきた経緯がある。
黒字転換を実現した要因
2025年末時点で連結累積利益が5,533億ドンのプラスに転じた背景には、複数の要因が重なっている。
第一に、ベトナム政府が2023年後半以降、段階的に電力小売価格の引き上げを実施してきたことが挙げられる。2024年にも複数回の料金改定が行われ、EVNの売上高は着実に改善した。第二に、国際燃料価格が2022〜2023年のピークから徐々に落ち着きを見せたことで、発電コストの圧縮が進んだ。第三に、再生可能エネルギー(特に太陽光・風力)の発電比率が上昇し、燃料費への依存度が相対的に低下したことも寄与していると考えられる。
さらに、EVN自身もコスト削減や業務効率化に取り組んでおり、送配電ロスの低減や設備投資の最適化が進んでいる。これらの施策が複合的に作用した結果、わずか1年で約4.4兆ドンもの収支改善が実現したと見られる。
2024年末のマイナス3兆8,688億ドンから5,533億ドンへ
改めて数字を整理すると、2024年末時点の連結累積未分配利益はマイナス3兆8,688億ドンであった。これが2025年末にはプラス5,533億ドンへと転じている。単純計算で2025年の1年間に約4兆4,221億ドンの利益を積み上げたことになり、EVNの収益力が劇的に回復したことを示している。
ただし、これは「累積赤字が解消された」段階であり、EVNが潤沢な財務余力を持つに至ったわけではない点には留意が必要である。今後の設備投資需要や再エネ拡大に伴う系統整備コスト、さらには老朽化した発電所の更新費用などを考えると、引き続き安定的な収益確保が求められる。
投資家・ビジネス視点の考察
ベトナム電力関連銘柄への影響:EVN自体は非上場であるが、EVN傘下の上場子会社は複数存在する。代表的なものとして、PPC(ファーライ火力発電、ホーチミン証券取引所上場)、NT2(ニョンチャック2火力発電)、POW(ペトロベトナム・パワー)などが挙げられる。EVNの財務改善は、これら子会社への支払い条件の改善や、新規プロジェクトへの投資余力拡大につながる可能性がある。電力セクター全体にとってポジティブなシグナルと言えるだろう。
日本企業・ベトナム進出企業への影響:EVNの財務安定化は、ベトナムにおける電力供給の信頼性向上にもつながる。近年、ベトナムでは急速な工業化とデータセンター需要の拡大により電力需要が急増しており、2023年には一部地域で計画停電が発生するなど供給不安が表面化していた。EVNの収益基盤が安定すれば、発電・送電設備への投資が加速し、中長期的な電力安定供給に寄与する。これは、ベトナムに工場を持つ日系製造業や、今後進出を検討する企業にとっても安心材料となる。
FTSE新興市場指数格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナム格上げに関しては、電力インフラの安定はマクロ経済の健全性を示す重要な指標の一つである。EVNの財務改善は、ベトナム政府の国有企業改革能力を示す好例であり、海外機関投資家からの評価にも間接的にプラスに働く可能性がある。
ベトナム経済全体のトレンドにおける位置づけ:ベトナムは2025年もGDP成長率7%前後を維持しており、製造業の集積やFDI(外国直接投資)の流入が続いている。こうした経済成長を支えるためには、電力供給の安定と拡大が不可欠であり、EVNの黒字化はその基盤づくりにおける重要なマイルストーンと位置づけられる。今後は、電力料金のさらなる市場化や、民間参入の拡大(PPAモデルの普及など)が進むかどうかが、次の注目点となるだろう。
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