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ベトナム全土を襲う猛暑により、北部地域を中心に電力需要が急増している。国家電力システムは需要に対応するため、中部・南部から北部への送電量を大幅に引き上げる措置を取った。毎年繰り返されるこの構造的な電力逼迫は、ベトナムの産業基盤と投資環境に直結する重要な問題である。
猛暑が引き起こす電力需要の急増
ベトナムでは例年、5月から7月にかけて北部地域が激しい猛暑に見舞われる。特にハノイをはじめとする紅河デルタ地域では、気温が40度を超える日が続くことも珍しくない。家庭や商業施設でのエアコン使用が一気に増加するほか、工業団地での冷却設備の稼働率も上昇するため、電力消費量はピーク時に通常期の1.5倍以上に達することもある。
今年も猛暑の影響で電力需要が急激に伸び、国家電力システムに大きな負荷がかかっている状況だ。ベトナム電力公社(EVN=Electricity of Vietnam、ベトナム最大の国営電力会社)は、北部単独の発電能力では需要をまかないきれないと判断し、中部および南部地域から北部への送電量を増やす対応に踏み切った。
南北の電力構造と送電の課題
ベトナムの電力供給構造には、地域ごとの大きな特徴がある。北部は水力発電への依存度が高く、雨季には豊富な水量を活かして大量の電力を生み出す一方、乾季から猛暑期にかけてはダムの貯水量が減少し、発電能力が低下しやすい。対照的に、南部にはホーチミン市(旧サイゴン)周辺を中心にガス火力発電所が集中しており、比較的安定した電力供給が可能である。中部地域は近年、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーの導入が急速に進んでおり、供給余力が生まれている。
しかし、問題は送電インフラにある。ベトナムの国土は南北に約1,650キロメートルと細長く延びており、北部と南部を結ぶ500kV(キロボルト)基幹送電線は長年にわたり容量不足が指摘されてきた。1994年に開通したベトナム初の500kV送電線(プレイク〜ホアビン間、約1,500キロメートル)は、当時「世紀の工事」と称された国家的プロジェクトであったが、経済成長に伴い需要が当初想定を大きく上回るペースで拡大してきた。
現在は第3回線の整備が進められているものの、送電容量にはなお限界がある。中南部から北部へ大量に電力を送ると、送電ロス(電力が送電線上で熱として失われる現象)が発生するうえ、過負荷による停電リスクも高まる。今回の送電量引き上げは、そうしたリスクを承知のうえでの緊急的な対応と見られる。
2023年の大規模電力不足の教訓
ベトナムの電力問題が世界的に注目を集めたのは、2023年6月のことである。この年、北部を中心に記録的な猛暑が続き、計画停電が広範囲で実施された。ハノイ市内でも1日数時間の停電が繰り返され、工業団地に入居する外資系企業の生産ラインにも深刻な影響が及んだ。サムスン電子やキヤノン、パナソニックなど日系・韓国系の製造拠点が集中する北部地域での停電は、グローバルサプライチェーンの寸断リスクとして国際的にも報じられた。
この経験を踏まえ、ベトナム政府は電源開発計画の見直しを加速させた。2023年5月に承認された「第8次国家電力開発計画(PDP8)」では、2030年までにLNG(液化天然ガス)火力発電所の新設や、洋上風力発電の大規模導入が盛り込まれている。しかし、大型発電所の建設には数年単位の時間がかかるため、当面は既存インフラでの需給調整を続けるほかないのが実情である。
再生可能エネルギーの余剰と「南から北へ」の構造変化
興味深いのは、かつてベトナムの電力は「北から南へ」送られていた時期もあったという点である。北部の水力発電が潤沢な雨季には、余剰電力を南部に融通するのが一般的であった。しかし近年、中部・南部でのメガソーラー(大規模太陽光発電所)の急増により、日中の電力供給が需要を上回る「逆転現象」が起きている。
特にニントゥアン省やビントゥアン省(いずれもベトナム中南部沿岸、年間日照時間が国内最長の地域)では、太陽光発電の設備容量が急拡大した。一時期はFIT(固定価格買取制度)の優遇措置を狙った投資が殺到し、送電網への接続が追いつかないほどの「太陽光バブル」が発生したことも記憶に新しい。現在はこうした再エネの余剰電力を北部へ融通する形が定着しつつあるが、送電インフラのボトルネックが解消されない限り、猛暑期の電力逼迫は毎年繰り返されるリスクがある。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の電力逼迫ニュースは、ベトナム株式市場および同国への投資を検討する際に、複数の重要な示唆を含んでいる。
■ 電力関連銘柄への注目
EVNは非上場の国営企業であるが、傘下の発電子会社や関連企業は上場している。代表的な銘柄として、PV Power(POW=ペトロベトナム・パワー、ガス火力発電大手)、Pha Lai Thermal Power(PPC=ファーライ火力発電)、REE Corporation(REE=発電・空調事業を手掛ける複合企業)などが挙げられる。猛暑期には発電量の増加に伴い売上が拡大する一方、燃料費の高騰や政府からの電力価格統制がマージンを圧迫する可能性もあり、業績への影響は一概にプラスとは言い切れない。
■ 送電・変電インフラ関連
送電網の増強が急務となっていることから、送電線・変圧器・電力設備の製造・施工を手掛ける企業にも商機が広がる。CADIVI(CAV=ベトナム最大手の電線メーカー)やThibidi(TBD=変圧器メーカー)などは、インフラ投資拡大の恩恵を受けやすいセクターである。
■ 日系企業への影響
北部の工業団地に生産拠点を置く日系製造業にとって、電力供給の安定性は投資判断の根幹に関わる問題である。2023年の停電を経験した企業の中には、自家発電設備の導入やバックアップ電源の確保を進めた例も多い。今回の送電強化によって大規模な計画停電が回避されれば、ベトナム北部の投資先としての信頼回復に寄与するが、逆に停電が再発すれば、「チャイナ・プラス・ワン」の受け皿としてのベトナムの競争力に疑問符がつく可能性もある。
■ FTSE新興市場指数格上げとの関連
2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナムの格上げは、同国への資金流入を大きく加速させると期待されている。格上げが実現すれば、外国機関投資家によるベトナム株の組み入れが進むが、電力インフラの脆弱性は長期的なリスク要因として認識されている。ベトナム政府がPDP8の実行を着実に進め、電力供給の安定化を示せるかどうかは、投資家の信頼醸成にとって極めて重要なテーマである。
■ ベトナム経済全体の文脈
ベトナムは2025年にGDP成長率8%超を達成し、2026年も高成長の持続が見込まれている。製造業のFDI(外国直接投資)誘致は引き続き好調であり、半導体・電子部品分野での新規投資案件も相次いでいる。しかし、こうした成長の前提条件として、電力の安定供給は不可欠である。猛暑期の電力問題は単なる季節的な現象ではなく、ベトナムの産業高度化と持続的成長を左右する構造的課題として捉えるべきである。
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出典: 元記事












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