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2026年5月11日、ベトナムのレ・ミン・フン首相は、科学技術・イノベーション・デジタル転換に関する政府指導委員会の第3回会合を主宰し、戦略技術の開発について「流行を追うのではなく、具体的な成果を出す」方針を打ち出した。分散的な研究から脱却し、大型課題への発注型研究へ転換すること、特別な財政メカニズムの整備、管理されたリスクの受容など、ベトナムのテクノロジー政策における大きな方向転換を示す内容である。
デジタル転換の進捗:数字で見るベトナムの現在地
会合で報告されたベトナムのデジタル化の進捗は目覚ましい。新型IDカードは2,770万枚が発行済みで、電子身分証明(VNeID)アカウントは7,020万件以上が有効化されている。VNeIDプラットフォームでは50の便利機能が提供され、運転免許証2,020万件、車両登録740万件、健康保険証2,640万枚が統合されている。銀行の顧客データベースでは1億5,600万件以上の本人確認が完了した。デジタル識字教育プラットフォーム「ビンザンホックブーソー(平民学務デジタル版)」は160万人以上の受講者を集めている。
通信インフラ面では、3G・4Gが人口の99%以上をカバーし、5Gは91.9%に達している。5Gカバー率は2026年末までに97%に引き上げる計画である。モバイルインターネット速度は世界104カ国中11位、固定回線は154カ国中12位と、東南アジアでもトップクラスの水準にある。
デジタル技術分野の売上高は2026年4月単月で推定240億USDに達した。国際的な学術論文発表数は11.3%増加し、10グループの重点戦略技術と30の戦略技術製品が承認・調整されている。また、2,441件の規格・基準の見直しが実施された。
首相が指摘した課題:制度の分散と遅延
一方で、フン首相は多くの課題が期限を超過していることを率直に認めた。制度・政策が分散的で重複があり、具体的なガイドラインが不足している点を指摘。規制のサンドボックス(管理された試験的制度)や発注メカニズムが未整備または不明確であるとした。
行政手続きの簡素化も遅れており、紙の書類をデータに置き換えた行政手続きは794件中わずか201件(25.31%)にとどまっている。データの構築・接続・共有の進捗も遅く、戦略技術・コア技術の開発、デジタルインフラ、サイバーセキュリティ、高度人材の確保と待遇改善など、多方面で課題が残っている。
首相は、各省庁・地方の長が直接責任を負い、「形だけの対応」を絶対に許さない姿勢を明確にした。2026年からは、科学技術イノベーションに関する決議57号および「提案06号」の実施成果を、トップの任務達成評価の基準とすることを宣言している。
戦略技術開発の新方針:「大型課題への発注」モデルへ
今回の会合で最も注目すべきは、研究開発の方法論そのものの転換である。フン首相は、従来の「分散的な研究」から「大型課題への発注型」へ移行することを明確に指示した。具体的な製品、具体的な市場を見据え、特別な財政メカニズムを設け、管理されたリスクを受け入れるという方針である。
「3者連携(サンニャー)」モデル——すなわち政府・研究機関・企業の三者協力——を実質的に推進し、2026年中に具体的成果を出すことが求められている。
具体的な指示事項として、以下が挙げられる:
- 科学技術省が主導し、財務省と連携して、成果ベースの発注・検収メカニズムを2026年7月までに策定
- 内製ソフトウェア、デジタル技術サービス、デジタルデータに関する経済・技術基準、価格設定・調達メカニズムを2026年6月までに公布
- 公安省が国家データセンターを2026年6月までに本格稼働させ、各省庁・地方にインフラを提供
- 国家デジタル総合アーキテクチャの枠組みを2026年6月中旬までに首相へ報告
- 商工省、国防省が全国の「電波の穴」「電力の穴」を早急に解消
- 商工省、農業環境省、保健省、建設省などが戦略技術製品リストと大型課題を2026年5月中に策定
- 高速鉄道の規格・基準の策定も科学技術省と建設省に特に注意が促された
国会への提出が進められている5つの法律——データ安全保障法、郵政法、無線周波数法改正、計量法改正、電気通信法——も、制度整備の柱として位置づけられている。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の方針は、ベトナムが「デジタル後進国からの脱却」という段階を超え、戦略技術分野での自立的な産業育成に本格的に舵を切ったことを意味する。投資家にとって注目すべきポイントは複数ある。
ベトナム株式市場への影響:デジタル技術分野の月間売上高240億USDという数字は、同セクターの成長力を端的に示している。FPTコーポレーション(ベトナム最大手IT企業、ティッカー:FPT)やViettel傘下の上場企業群、CMCコーポレーション(CMG)など、デジタル関連銘柄への追い風となる可能性が高い。政府の発注型研究への転換は、受注企業にとって安定的な収益源となり得る。
日系企業への影響:高速鉄道の規格・基準策定が明示的に言及された点は、日本の新幹線技術の導入可能性とも絡む重要な動きである。また、サンドボックス制度の整備は、フィンテックやヘルステック分野での日系スタートアップの参入障壁を下げる方向に作用する。行政手続きのデジタル化が進めば、在ベトナム日系企業の事業運営コスト削減にもつながる。
FTSE新興市場指数への格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げにおいて、制度の透明性やデジタルインフラの整備状況は重要な評価要素である。今回のような体系的な制度改革・デジタル化推進は、格上げの追い風となる。国家データセンターの稼働や電子身分証明の普及は、金融市場インフラの信頼性向上に直結する。
リスク要因:ただし、首相自身が認めたように、期限超過の課題が多数存在し、行政手続きのデジタル化率はまだ25%程度にとどまっている。政策の方向性は明確だが、実行のスピードと質が問われる局面である。「管理されたリスクの受容」という新概念が実際にどこまで機能するかも注視が必要である。
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出典: 元記事












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