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ベトナムを代表する総合インフラ企業REEコーポレーション(ホーチミン証券取引所上場、ティッカー:REE)の取締役会会長(Chủ tịch HĐQT)を長年務めてきたグエン・ティ・マイ・タイン(Nguyễn Thị Mai Thanh)氏が、2025年7月10日付で会長職を辞任すると発表した。息子を総経理(Tổng giám đốc=CEO相当)に就任させるための法令順守が辞任の理由とされており、ベトナム上場企業の世代交代を象徴する動きとして市場の注目を集めている。
グエン・ティ・マイ・タイン氏とは何者か
マイ・タイン氏は、ベトナムのビジネス界で最も著名な女性経営者の一人である。REEコーポレーションの前身は1977年に設立された国営の冷凍機電企業(Công ty Cơ Điện Lạnh)であり、1990年代のドイモイ(刷新)政策に伴う国営企業改革の波の中で株式会社化された。マイ・タイン氏は同社の経営を長期にわたって牽引し、冷凍・空調設備の製造販売会社から、電力・水道などのインフラ事業、不動産開発、オフィスビル賃貸を手がける総合企業へと変貌させた立役者である。
REEは2000年にホーチミン証券取引所(HOSE)が開設された際の最初期の上場銘柄の一つとしても知られ、ベトナム株式市場の歴史とともに歩んできた企業でもある。マイ・タイン氏はベトナムで「女性CEO」の代名詞的存在であり、フォーブス・ベトナムの「最も影響力のある女性」リストにも度々名を連ねてきた。
辞任の背景——ベトナムの法令が求める「兼職制限」
今回の辞任の直接的な理由は、息子を同社の総経理(CEO相当)に就任させるにあたり、ベトナムの企業法(Luật Doanh nghiệp)および関連する上場企業ガバナンス規定を順守する必要があるためである。
ベトナムの企業法では、取締役会会長と総経理の間に一定の独立性を求める条項があり、特に親族関係にある場合には両ポストの兼任・同時就任に制約が課される。具体的には、取締役会会長の子が総経理を務める場合、ガバナンス上の利益相反を回避するために、いずれかが退く必要が生じるケースがある。マイ・タイン氏はこの規定に従い、自ら会長職を辞任する形で息子の総経理就任への道を開いたとみられる。
これはベトナム特有の事情を反映した動きでもある。ベトナムでは近年、コーポレートガバナンス改革が急速に進んでおり、2020年に施行された新企業法や、証券法の改正により、上場企業に対してより厳格な独立性・透明性が求められるようになった。特に2026年9月に予定されるFTSE新興市場指数への格上げ判定を控え、ベトナム当局は市場全体のガバナンス水準の向上を急いでいる。今回のREEの対応も、こうした制度的な潮流の中に位置づけられる。
「ファミリービジネス」の世代交代——ベトナム企業に広がるトレンド
マイ・タイン氏の辞任は、単なる一企業の人事異動にとどまらない。ベトナムでは、ドイモイ以降に台頭した第一世代の経営者たちが70代・80代を迎えつつあり、多くの有力企業で世代交代が本格化している。
例えば、ベトナム最大の民間コングロマリットであるビングループ(Vingroup)でも、ファム・ニャット・ブオン(Phạm Nhật Vượng)会長の後継問題が市場で議論されている。また、水産大手のミンフー(Minh Phú)、不動産のノヴァランド(Novaland)など、創業者から次世代への承継が進行中の企業は少なくない。
ファミリービジネスの世代交代は、日本でも「事業承継」として大きな社会的テーマとなっているが、ベトナムの場合はさらに特殊な背景がある。社会主義体制下でのドイモイ以降、わずか30〜40年で急成長した企業群にとって、今回が初めての本格的な世代交代となるケースが多い。経営のプロフェッショナル化が進む一方で、創業者のカリスマ性への依存度が高い企業も多く、承継の成否が企業価値に直結する局面が増えている。
REEの事業構造と市場でのポジション
REEコーポレーションは現在、大きく分けて以下の事業を展開している。
- 電力・水道インフラ事業:水力発電所や火力発電所への出資・運営、上下水道事業への投資を通じ、安定的なキャッシュフローを生み出すポートフォリオを構築している。ベトナムの経済成長に伴う電力需要の拡大は同社にとって追い風である。
- 不動産・オフィスビル賃貸事業:ホーチミン市中心部に複数のオフィスビルを保有・運営しており、日系企業を含む外資系テナントにも人気が高い。
- M&E(機械・電気設備)事業:創業時の本業である冷凍・空調・電気設備の設計・施工を手がけ、大型商業施設や工場向けに実績を持つ。
REEは「ベトナム版インフラファンド」とも呼ばれる独自のビジネスモデルで、外国人投資家からの評価も高い。時価総額ベースではHOSE上場企業の中で中〜大型株に位置し、VN30指数(ベトナムの主要30銘柄で構成される指数)の構成銘柄としても知られる。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の会長辞任が株価に与える影響について、いくつかの視点から考察する。
短期的な影響:マイ・タイン氏はREEの「顔」であり、同氏の退任は市場にネガティブサプライズとなる可能性がある。カリスマ経営者の退任は一般に、不確実性の増大として短期的な売り圧力を生みやすい。ただし、今回は突然の辞任ではなく、法令順守という明確な理由があり、かつ後継者が親族であることから、経営方針の大幅な転換は想定しにくい。
中長期的な影響:むしろ注目すべきは、次世代経営者のもとで同社がどのような成長戦略を描くかである。ベトナムではグリーンエネルギー転換(エネルギートランジション)が国家的課題となっており、REEの電力インフラポートフォリオの再構成(再生可能エネルギーへのシフト等)が進むかどうかが中長期的な企業価値を左右するだろう。
FTSE新興市場指数との関連:2026年9月に予定されるFTSE格上げ判定に向け、ベトナム上場企業のガバナンス改善は最重要テーマの一つである。今回、REEが法令を厳格に順守する形で経営体制を刷新したことは、市場全体のガバナンス向上の好事例として評価される可能性がある。FTSE格上げが実現すれば、REEのような流動性の高い中〜大型株には海外パッシブ資金の流入が見込まれ、恩恵を受ける銘柄の一つとなり得る。
日本企業・日本人投資家への示唆:REEのオフィスビルには日系企業テナントも多く、同社はベトナムに進出する日本企業にとって身近な存在である。また、ベトナム株に投資する日本の個人投資家にとって、REEは配当利回りの安定性から人気銘柄の一つでもある。今回の経営体制変更が、テナント向けサービスや株主還元方針にどう影響するかは引き続き注視が必要である。
ベトナムの有力企業における世代交代は今後数年間で加速する見通しであり、個別企業の承継リスクと成長機会を見極める目がますます重要になってくる。REEの事例は、その試金石として市場参加者が注目すべきケースである。
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