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2025年7月2日より、シンガポールからベトナムを訪れる旅行者が、現地の店舗やサービスでQRコード決済を利用できるようになった。ベトナムの国家決済ネットワーク運営機関であるNAPAS(ナパス)が主導するこの取り組みは、ASEAN域内のキャッシュレス決済インフラの相互接続という大きな潮流の中で、極めて重要な一歩となる。
シンガポール→ベトナム方向がまず開通
本日から運用が開始されたのは、シンガポールの旅行者がベトナム国内でQRコード決済を行える「シンガポール→ベトナム」方向のサービスである。シンガポール側の決済アプリ(PayNow対応アプリなど)でベトナムの加盟店に表示されたQRコードを読み取り、そのまま支払いが完了する仕組みだ。為替変換は決済ネットワーク間で自動的に処理されるため、利用者は両替所に立ち寄る必要がなく、現金を持ち歩くリスクも軽減される。
一方、逆方向、すなわちベトナムの旅行者がシンガポールでQRコード決済を利用できる「ベトナム→シンガポール」方向については、NAPASが現在展開を進めている段階であり、2025年末までの開通を目指しているとされる。双方向の完全運用が実現すれば、両国間の旅行者・ビジネスパーソンにとって決済の利便性が飛躍的に向上することになる。
NAPASとは何か——ベトナム決済インフラの中核
NAPAS(National Payment Corporation of Vietnam/ベトナム国家決済株式会社)は、ベトナム国家銀行(中央銀行)の傘下にある決済インフラ企業であり、国内の銀行間送金ネットワークやデビットカードの統一ブランド「NAPAS」カードの運営を担っている。近年はQRコード決済の標準規格策定にも中心的な役割を果たしており、ベトナム国内では銀行アプリや電子ウォレットを通じたQR決済が急速に普及している。
NAPASは既にタイとの間でもQRコード決済の相互接続を実現しており、今回のシンガポールとの接続はその延長線上にある。ASEAN加盟国間では、中央銀行レベルでリテール決済の相互運用性を高める取り組みが進んでおり、NAPASはベトナム側の「ハブ」としての機能を強化し続けている。
背景——ASEANにおけるQR決済相互接続の潮流
ASEAN諸国では、域内の経済統合を後押しする手段として、リテール決済インフラの相互接続が重要なアジェンダとなっている。2022年にはタイとシンガポール間で「PromptPay-PayNow」の即時送金・QR決済の相互接続が開始され、大きな注目を集めた。その後、マレーシア(DuitNow)、インドネシア(QRIS)、フィリピン(InstaPay)などとも順次接続が進んでおり、ベトナムのNAPASもこのネットワークに参画する形だ。
シンガポールはASEAN域内でも特にフィンテック先進国として知られ、政府主導でキャッシュレス社会への移行を推進してきた。一方、ベトナムも近年キャッシュレス化が急速に進展しており、ベトナム国家銀行のデータによれば、QRコード決済の取引件数は前年比で数倍のペースで増加している。両国の決済インフラが直結することで、観光客のみならず、越境EC(電子商取引)や小規模貿易における決済コストの低減も期待される。
ベトナムの観光産業への追い風
シンガポールはベトナムにとって主要な観光客送出国の一つである。ベトナム政府が2023年にビザ免除期間を45日間に延長して以降、シンガポールからの訪問者数は増加傾向にあり、ホーチミン市やダナン、ハノイといった主要都市への直行便も充実している。QRコード決済の相互接続は、シンガポール人旅行者にとって「財布を持たずにベトナムを旅行できる」環境を整えるものであり、旅行体験の向上を通じて観光需要のさらなる拡大に寄与する可能性がある。
また、ベトナム側の加盟店にとっても、外国人観光客の取りこぼし防止というメリットがある。現金しか使えない店舗では購買機会を逃すケースが少なくなかったが、QR決済であれば端末導入コストも低く、個人商店やストリートフードの屋台でも導入が容易だ。
投資家・ビジネス視点の考察
今回のニュースは、ベトナム株式市場において複数のセクターにポジティブな影響をもたらす可能性がある。
1. フィンテック・決済関連銘柄への注目
NAPASは非上場企業であるが、ベトナム国内でQR決済のエコシステムを支える商業銀行や電子ウォレット事業者は上場企業に多い。たとえば、VietcomBank(VCB)、TechcomBank(TCB)、MB Bank(MBB)といった大手行はモバイルバンキング・QR決済の普及を積極的に推進しており、クロスボーダー決済の拡大は取引手数料収入の増加につながる。また、電子ウォレット「MoMo」を運営するM_Service社や、VNPay(ベトナム最大級のQR決済プラットフォーム)など、未上場ながらIPO観測がある企業の動向にも注目すべきである。
2. 観光・サービス関連への波及
外国人観光客の決済利便性が向上すれば、観光・小売・飲食セクターにも恩恵が及ぶ。ベトナムの空港運営を担うACV(Airports Corporation of Vietnam、上場コード:ACV)や、ホテル・リゾート運営のVinpearl(ビングループ傘下)など、インバウンド需要に連動する銘柄は中長期的にポジティブだ。
3. FTSE新興市場指数への格上げとの関連性
ベトナムは2026年9月にFTSE新興市場指数(セカンダリー・エマージング)への格上げ可否が判断される見込みであり、その評価基準の一つに「市場インフラの整備度」がある。決済インフラのクロスボーダー相互運用は、直接的にはFTSEの評価項目には含まれないものの、ベトナムの金融インフラ全体の近代化を示すシグナルとして、海外投資家の信認を高める効果がある。資本市場の透明性や外国人投資家のアクセス改善と並んで、決済インフラの高度化はベトナム経済の「制度的成熟」を対外的にアピールする材料となる。
4. 日本企業・日本人投資家への示唆
日本とベトナム間でも同様のQRコード決済相互接続が実現する可能性は十分にある。日本ではJPQR(統一QR規格)の普及が進んでおり、NAPASとの技術的な接続は理論上可能だ。仮に日越間でQR決済が相互利用可能となれば、年間100万人を超える日本人ベトナム渡航者やベトナムに進出する日系企業にとって大きな利便性向上となる。ベトナムでの事業展開を検討する日本企業にとっても、決済手段の多様化はビジネス環境の改善として歓迎されるだろう。
総じて、今回のシンガポール・ベトナム間QR決済相互接続は、単なる旅行者の利便性向上にとどまらず、ベトナムのデジタル経済・金融インフラの国際化を象徴する動きである。ASEAN域内のシームレスな経済圏構築が進む中、ベトナムがその「接続ノード」としての存在感を高めていることは、投資先としてのベトナムの魅力をさらに底上げする要因と言えるだろう。
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ハノイ在住13年日本語で毎日配信。
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出典: 元記事












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