ハノイ在住13年の現地投資家による、より深い企業分析・投資戦略は👉 メンバーシップで公開中
中国への依存脱却を目指す西側諸国によるレアアース(希土類)開発競争が激化するなか、その環境リスクが深刻な問題として浮上している。マダガスカル、ミャンマー、マレーシア、ブラジル、そして米国に至るまで、世界各地で住民の健康被害や生態系破壊が報告されており、ベトナムを含む東南アジアのレアアース関連国にとっても他人事ではない。英フィナンシャル・タイムズ紙の報道をもとに、この問題の全貌を解説する。
マダガスカルで6,000人超が被害を訴え——リオ・ティントに訴訟の可能性
マダガスカルでは、世界的鉱業大手リオ・ティント(Rio Tinto、英豪系資源メジャー)の子会社であるQITマダガスカル・ミネラルズ(QIT Madagascar Minerals)が運営する鉱山の周辺に住む6,000人以上の住民が、深刻な環境被害に直面している。住民らは、同社がイルメナイト(チタン鉄鉱)およびモナザイト(レアアースを含む鉱物)の採掘過程で、地域の水源にウランを含む有害物質を流出させたと訴えている。
モナザイトはレアアース鉱物の一種であるが、ウランやトリウムなどの放射性元素を含有しており、住民の健康に対する懸念は大きい。地元農民のクローダン氏は鉱山からの粉塵が大量に発生していると証言し、漁師のドネ氏は河川の魚が著しく減少したと訴えている。
英国の法律事務所リー・デイ(Leigh Day)が住民側の代理人を務めており、年内に和解が成立しなければ正式に訴訟を提起する方針を表明している。一方、リオ・ティント側はこれらの告発を否定し、モナザイトの処理は現地法および国際規制に準拠しており、自社の調査では放射線レベルは規制値以下であると主張している。
最も物議を醸す採掘法「インシチュ・リーチング」——ミャンマーでの環境破壊
レアアース採掘手法のなかで最も環境リスクが高いとされるのが、「インシチュ・リーチング(in-situ leaching)」と呼ばれる原位置浸出法である。この手法はミャンマーで広く用いられており、山の斜面に化学薬品を注入して粘土からレアアースを分離するというものである。
複数の環境団体がこの手法と水系の酸性化との関連を指摘しており、大量の魚類や動物の死滅、農地や植生への深刻な被害が報告されている。業界の専門家であるコンスタンティン・カラヤンノプロス氏は、この手法を「レアアース産業最大の汚点」と断じている。
西側の投資家はインシチュ・リーチングに対して消極的な姿勢を示しているものの、そのコストが極めて低いため、代替手法では価格競争力を維持することが困難であるという構造的なジレンマが存在する。
ブラジル・セラヴェルデの代替手法と米国の戦略的買収
ブラジルのレアアース開発企業セラヴェルデ(Serra Verde)は、山に化学薬品を注入するのではなく、鉱石を採掘したうえで地上の精錬工場で化学処理を行うという、より環境負荷の低い手法を採用している。しかし同社のスラス・モライティスCEOは、このコスト差が「競争上の大きな障壁」であると認めている。
モライティスCEOはさらに、中国やミャンマー産レアアースに代わる供給源が不足しているため、多くの購入者はレアアースの製造過程について「疑問を持たない」のが実情であると指摘している。
こうしたなか、米国政府の支援を受けるUSAレアアース(USA Rare Earth)は2024年4月、セラヴェルデを28億ドルで買収する計画を発表した。セラヴェルデはまた、米政府機関が支援する事業体と15年間の供給契約を締結しており、初期生産分の大部分を最低保証価格で購入する取り決めとなっている。これは西側諸国がレアアースのサプライチェーン確保に本腰を入れている証左である。
硬岩採掘に伴う放射性廃棄物リスク
専門家によれば、硬岩(ハードロック)からのレアアース採掘は、粘土系の採掘と比較して放射性廃棄物のリスクが高い傾向にある。岩石にはウランやトリウムなどの放射性元素が含まれており、採掘・分離の過程でこれらがレアアースとともに濃縮される可能性がある。
調査会社プロジェクト・ブルー(Project Blue)によると、低レベル放射性物質が採掘・分離の廃棄物に蓄積し、廃棄物管理が不適切な地域では「がん発症率の上昇やその他の健康問題」との関連が指摘されている。
米国でも、現在MPマテリアルズ(MP Materials)が運営するレアアース鉱山の過去の所有者が、1980年代から1990年代にかけて数十万ガロンの有害廃棄物を環境中に流出させた責任を問われた前例がある。
規制当局の能力不足という構造的課題
英国地質調査所(BGS)のクリティカル・ミネラル・インテリジェンス・センター所長であるギャビン・マッド氏は、各国の規制当局が必ずしもレアアース採掘に伴うリスクを監視するための十分な専門知識を持ち合わせていないと警鐘を鳴らしている。「問題の一端は、鉱業の規制当局が必要なレベルで対応する態勢を整えていないことにある」と同氏は述べている。
カラヤンノプロス氏はレアアースの採掘・加工による環境影響は「他の資源と比較して特別に悪いわけではない」としつつも、「慎重さと、実効性のある規則の執行がなければ、その影響は甚大なものになる」と警告している。
投資家・ビジネス視点の考察
このレアアース争奪戦は、ベトナムにとって極めて重要な意味を持つ。ベトナムは中国に次ぐ世界第2位のレアアース埋蔵量(推定約2,200万トン)を有するとされ、西側諸国の「脱中国」戦略において最も注目される供給候補国の一つである。
ベトナム株式市場においては、国営鉱業企業であるビナコミン(Vinacomin、ベトナム石炭鉱産グループ)傘下の企業や、レアアース関連事業に関与する企業群が潜在的な恩恵を受ける可能性がある。ただし、今回の報道が示すように、環境リスクへの対処が不十分であれば、訴訟リスクやレピュテーションリスクが顕在化し、株価にネガティブな影響を及ぼす可能性も否定できない。
日本企業にとっても示唆は大きい。日本はレアアースの大口需要国であり、住友金属鉱山やトヨタ通商などがベトナムを含む東南アジアでのレアアース確保を模索している。環境基準を満たした調達先の確保は、ESG投資が主流化する中でますます重要性を増しており、「安さ」だけでサプライチェーンを構築するリスクが改めて浮き彫りとなった。
2026年9月に見込まれるベトナムのFTSE新興市場指数への格上げとの関連で言えば、レアアース関連産業の成長はベトナム市場の魅力を高める一方で、環境ガバナンスの整備状況が海外機関投資家の評価に直結する。ベトナム政府がレアアース開発において環境規制の枠組みをどこまで整備できるかが、中長期的な投資判断の分水嶺となるであろう。
いかがでしたでしょうか。今回のニュースについて、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。
この記事が参考になったら、ぜひXでシェアしていただけると嬉しいです。より多くの方にベトナム投資の魅力を伝えたいと思っています。
ハノイ在住13年日本語で毎日配信。
✅ 個別銘柄の詳細分析 ✅ FTSE格上げ関連速報 ✅ 現地だからわかるリアルタイム情報
👉 月額980円でメンバーシップに参加する
出典: 元記事












コメント