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地政学リスクへの不安が高まるなか、世界各国の中央銀行が外貨準備における米ドルの保有比率を引き下げ、代わりに金(ゴールド)の購入を加速させる意向であることが、英国に本部を置く独立系調査機関の最新アンケートで明らかになった。この動きはベトナムをはじめとする新興国の通貨政策や資本市場にも波及する可能性があり、投資家にとって見逃せないトレンドである。
英調査機関の最新サーベイが示す「ドル離れ」
英国拠点の独立系研究機関が世界の中央銀行の準備資産運用担当者を対象に実施した調査によると、多くの中央銀行が今後、米ドル建て資産の保有を縮小し、金の購入量を増やす計画であることが判明した。背景にあるのは、地政学的リスクの高まりである。米中対立の長期化、中東情勢の不安定化、ウクライナ紛争の膠着、さらには米国の関税政策をめぐる不透明感など、従来の「ドル一強」を揺るがす要因が複合的に重なっている。
中央銀行が金を買い増す傾向自体は2022年以降、顕著に加速してきた。ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)のデータによれば、2022年と2023年にはいずれも年間1,000トンを超える中央銀行の金購入が記録されている。今回の調査結果は、その流れが2025年以降もさらに続くことを示唆するものだ。
なぜ中央銀行は「ドル売り・金買い」に動くのか
中央銀行がドル離れを進める理由は複合的である。第一に、米国の財政赤字拡大と連邦債務の膨張が、長期的なドルの信認低下リスクとして意識されている点が挙げられる。米国の連邦債務は対GDP比で歴史的高水準に達しており、今後の金利負担の増大も懸念材料だ。
第二に、ロシアへの経済制裁で示された「ドル建て資産の凍結リスク」が、各国中央銀行にとって現実的な脅威として認識されるようになった。2022年にロシア中央銀行の外貨準備の一部が西側諸国によって凍結された事実は、新興国・途上国の中央銀行に強い衝撃を与え、「制裁リスクのない資産」として金の魅力を再認識させる契機となった。
第三に、地政学的な多極化の進展がある。BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)を中心に、国際取引における脱ドル化の模索が進んでおり、金はその文脈で「中立的な準備資産」として改めて脚光を浴びている。
ベトナム国家銀行(SBV)の立ち位置
ベトナム国家銀行(SBV=State Bank of Vietnam、ベトナムの中央銀行に相当)もまた、外貨準備の運用においてこのグローバルトレンドと無縁ではない。ベトナムは近年、輸出主導の経済成長を背景に外貨準備を着実に積み上げてきた。外貨準備の多くは米ドル建て資産で運用されてきたが、世界的なドル離れの潮流のなかで、SBVが金の保有方針をどう調整するかは注視に値する。
ベトナム国内では金価格が国際価格と大幅に乖離するという構造的な問題が長年指摘されてきた。SBVは金の輸入や売却を通じて国内金市場の安定を図る施策を断続的に実施しており、2024年にはSJC金塊(ベトナム国内で最も流通する標準金塊ブランド)の直接入札販売を再開するなどの対応を行った。中央銀行の金買い増しという国際潮流は、ベトナム国内の金市場政策にも間接的に影響を及ぼし得る。
金価格高騰と為替への影響
世界の中央銀行がドルを売って金を買うという行動は、金価格の上昇圧力を持続させる一方、ドルに対しては下落圧力として作用する。金の国際価格は2024年以降、史上最高値を繰り返し更新しており、2025年に入ってからもその勢いは衰えていない。中央銀行の買い需要が「価格の底支え」として機能する構図が強まっている。
ドル安が進行した場合、新興国通貨にとっては相対的な追い風となる。ベトナムドン(VND)は対ドルで管理フロート制を採用しており、ドル安はドン安圧力の緩和、ひいてはSBVの為替介入余力の温存につながる。輸入物価の安定にも寄与するため、ベトナムのインフレ管理にとってもプラスに働く可能性がある。
投資家・ビジネス視点の考察
ベトナム株式市場への影響:ドル安・新興国通貨高のシナリオは、海外からベトナムへの資金流入を後押しする要因となる。特に、外国人投資家がベトナム株を購入する際のドン建てリターンが改善されるため、ホーチミン証券取引所(HOSE)やハノイ証券取引所(HNX)への資金流入の増加が期待できる。
FTSE新興市場指数への格上げとの関連:ベトナムは2026年9月にもFTSE新興市場指数への格上げが決定する見通しであり、これが実現すれば大規模なパッシブ資金の流入が見込まれる。中央銀行のドル離れによるドル安トレンドとFTSE格上げが重なれば、ベトナム株への資金流入が「二重の追い風」となるシナリオも想定される。銀行株(VCB=ベトコムバンク、BID=BIDVなど)や不動産関連株への恩恵が大きいと考えられる。
日本企業への影響:ベトナムに生産拠点を持つ日系製造業にとって、ドル安はドル建て売上の目減りリスクとなる一方、ベトナムドンの安定はベトナム拠点のコスト予見性を高めるメリットがある。また、金価格の上昇は、ベトナムの個人消費者が「金への投資」に資金を振り向ける傾向を強める可能性があり、消費財関連の日系企業にとっては消費動向の変化に留意する必要がある。
マクロ的な位置づけ:今回の「中央銀行のドル売り・金買い」トレンドは、米ドル基軸通貨体制の緩やかな変容を象徴する動きである。ベトナムは米国を最大の輸出先としており、ドルの地位低下は長期的には貿易構造にも影響を及ぼし得る。もっとも、短中期的にはベトナム経済のファンダメンタルズは堅調であり、GDP成長率は2025年も6〜7%台が見込まれている。ドル離れの潮流は、むしろベトナムにとって「脱・ドル依存」の好機となり得る側面もある。
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