ハノイ在住13年の現地投資家による、より深い企業分析・投資戦略は👉 メンバーシップで公開中
世界各国の中央銀行が、海外に預けていた金(ゴールド)準備を自国へ移送する動きを加速させている。WGC(ワールド・ゴールド・カウンシル=世界金評議会)の最新報告によれば、地政学的リスクの高まりを背景に、「海外に保管した資産へのアクセスが制限されるリスク」を低減するため、金の本国回帰(リパトリエーション)が広がっているという。この潮流はベトナムを含む新興国経済や金価格に直結するテーマであり、投資家にとって見逃せない動きである。
WGCが指摘する「金準備の本国回帰」とは
従来、多くの中央銀行は金準備の相当部分を、ニューヨーク連邦準備銀行やイングランド銀行(ロンドン)といった国際的な金保管拠点に預託してきた。これは国際取引の利便性や流動性確保の観点から合理的な選択とされてきた。しかし近年、この慣行を見直す動きが急速に広がっている。
WGCの報告によると、各国中央銀行が金準備を自国に戻す最大の動機は、「海外にある資産へのアクセスリスク」の軽減である。具体的には、2022年のロシアに対する西側諸国の経済制裁が大きな転機となった。ロシアの外貨準備がG7諸国によって凍結されたことで、「外国に預けた資産が地政学的な対立によって使えなくなる」というリスクが、理論上の話ではなく現実の脅威であることが世界中の中央銀行に認識されたのである。
どの国が金を「引き揚げて」いるのか
WGCのデータによれば、金準備の本国回帰を進めている中央銀行の数は年々増加している。中国人民銀行(PBOC)やインド準備銀行(RBI)、トルコ中央銀行などの新興国が金の積極購入と自国保管を進めていることは広く報じられてきたが、最近ではポーランド、ハンガリーなどの中東欧諸国も、ロンドンやニューヨークから金を自国の金庫に移送する動きを公表している。
こうした傾向は、単なる一時的な流行ではなく、ポスト冷戦期の国際金融秩序に対する構造的な見直しの一環と位置づけられる。米ドルを基軸とした決済システムへの過度な依存を減らし、外貨準備の「脱ドル化」を進める動きと連動しているのである。
金価格への影響──中央銀行の買い越しが続く
中央銀行による金の継続的な購入は、金価格の構造的な押し上げ要因となっている。WGCの年次統計では、世界の中央銀行は2022年以降、年間1,000トン超のペースで金を純購入しており、これは過去数十年で最も高い水準である。金準備を自国に戻す動きは、保管場所の変更にとどまらず、追加購入を伴うケースも多い。結果として、国際市場での金需要は高水準で推移しており、金価格は2025年から2026年にかけて史上最高値を繰り返し更新してきた。
ベトナムにとっての意味──国内金市場と中央銀行の動向
ベトナムにとって、この世界的な金の動きは複数の経路で影響を及ぼす。まず、ベトナムは世界有数の金消費国であり、国民の金選好は文化的に極めて強い。ベトナム国家銀行(SBV=ベトナムの中央銀行)は近年、国内金市場の安定化に向けて金の輸入許可やSJC金地金(国が品質を保証する公式ブランドの金地金)の供給調整を繰り返し行ってきた。
国際金価格の上昇は、ベトナム国内の金価格にも直結する。ベトナムでは国内金価格と国際金価格の間にしばしば大きなプレミアム(上乗せ分)が発生し、1タエル(=約37.5グラム、ベトナムで伝統的に使われる金の取引単位)あたり数百万ドン規模のプレミアムがつくこともある。世界的な金の「囲い込み」が進めば、今後も金の国際的な流通量が減少し、ベトナム国内の金価格がさらに高止まりする可能性がある。
さらに、SBV自身の外貨準備運用方針にも影響しうる。ベトナムの外貨準備は近年着実に積み上がっているが、その構成に占める金の比率や保管先は公式には詳細が開示されていない。世界的に中央銀行が金準備の自国保管に動く中、SBVも同様の方針を強化する可能性は十分に考えられる。
投資家・ビジネス視点の考察
ベトナム株式市場への影響:金価格の上昇は、ベトナム株式市場において金関連セクターに直接的な恩恵をもたらす。一方で、金価格高騰は消費者の購買力を金に吸い上げる効果(いわゆる「金シフト」)を持ち、株式市場全体への資金流入にはやや逆風となりうる。ベトナムの個人投資家は金と株式の両方を投資先として比較検討する傾向が強く、金が魅力的に映る局面では株式市場からの資金流出が懸念される。
通貨・マクロ経済への波及:世界的な脱ドル化と金回帰の流れは、米ドル/ベトナムドンの為替レートにも間接的に影響する。SBVがドル資産から金へのシフトを進めれば、為替介入余力の構成が変わり、ドン相場の安定メカニズムにも変化が生じうる。
日本企業・投資家への示唆:ベトナムに進出する日本企業にとって、金価格高騰はベトナム人従業員の消費行動や貯蓄志向に影響を与える社会的要因でもある。また、日本の機関投資家がベトナム株をポートフォリオに組み入れる際、金市場の動向と株式市場への資金フローの関係は注視すべきポイントである。
FTSE新興市場指数への格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるベトナムのFTSE新興市場指数への格上げは、海外からの機関投資家の資金流入を促すとされる。しかし、世界的に中央銀行が「安全資産」としての金に傾斜する局面は、新興国株式への資金配分にとってやや逆風となる可能性がある。格上げの恩恵を最大化するには、ベトナム市場が金と競合しうる魅力的なリターンを示す必要がある。
長期トレンドとしての位置づけ:今回のWGCの報告が示す「金準備の本国回帰」は、一過性の現象ではなく、ポスト・グローバリゼーション時代の国際金融秩序の再編を反映した構造的な変化である。ベトナム経済・投資を考える上でも、「金というオルタナティブ資産」の存在感が今後さらに高まることを念頭に置くべきである。
いかがでしたでしょうか。今回のニュースについて、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。
この記事が参考になったら、ぜひXでシェアしていただけると嬉しいです。より多くの方にベトナム投資の魅力を伝えたいと思っています。
ハノイ在住13年日本語で毎日配信。
✅ 個別銘柄の詳細分析 ✅ FTSE格上げ関連速報 ✅ 現地だからわかるリアルタイム情報
👉 月額980円でメンバーシップに参加する
出典: 元記事












コメント