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中東の地政学リスクが再び高まり、世界の原油供給の約2割が通過するホルムズ海峡の封鎖シナリオが現実味を帯びる中、中国がこのエネルギーショックに対して最も耐性のある大国として浮上している。その背景には、世界の電気自動車(EV)の過半数を保有し、再生可能エネルギーの発電比率を急速に引き上げてきた数十年にわたる構造転換がある。この動きは、同じくエネルギー安全保障の課題を抱えるベトナムにとっても極めて示唆に富む。
ホルムズ海峡封鎖——世界が恐れる「最悪のシナリオ」
ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ幅わずか約33キロメートルの狭い水路である。サウジアラビア、イラク、クウェート、UAE、カタールといった主要産油国からの原油・LNG輸出の大部分がここを通過するため、「世界のエネルギーの喉元」とも呼ばれてきた。イランとの緊張が高まるたびにこの海峡の封鎖リスクが取り沙汰され、原油価格の急騰要因となってきた歴史がある。
今回もイランを巡る中東情勢の不安定化により、ホルムズ海峡が実際に封鎖された場合のシナリオが各国で真剣に検討されている。かつてであれば、世界最大の原油輸入国である中国は最も深刻な打撃を受ける国の一つとみなされていた。しかし、現在の中国は数十年前とは根本的に異なるエネルギー構造を持つに至っている。
中国が「エネルギーショック耐性」を獲得した3つの柱
1. 世界のEVの過半数を保有
中国は現在、世界で走行する電気自動車の50%以上を自国内に保有している。BYD(比亜迪)をはじめとする国内メーカーが急成長し、2025年には中国国内のEV販売台数がガソリン車を上回る「クロスオーバーポイント」を迎えたとされる。これにより、輸送部門における石油依存度は大幅に低下した。ガソリン・ディーゼル車が主流だった時代には、ホルムズ海峡の封鎖は即座に国内輸送網の麻痺を意味していたが、EVシフトがその構図を根本から変えたのである。
2. 再生可能エネルギーの圧倒的な発電シェア
中国は太陽光パネルと風力タービンの世界最大の生産国であると同時に、最大の設置国でもある。国内の発電量に占める再生可能エネルギーの比率は年々上昇し、石炭火力への依存度を着実に引き下げてきた。特に太陽光発電のコストが劇的に下がったことで、内陸部の砂漠地帯を中心に大規模なソーラーファームが次々と稼働している。電力供給において中東の原油・天然ガスへの依存を減らしたことが、地政学リスクに対するバッファとなっている。
3. 戦略的石油備蓄と供給源の多角化
中国は過去10年以上にわたり、戦略石油備蓄(SPR)の拡充を進めてきた。加えて、ロシア、中央アジア諸国、アフリカ諸国からのパイプラインおよび海上輸送ルートを多角化し、中東一極依存からの脱却を図ってきた。特にロシアからのパイプライン原油は、ホルムズ海峡を経由しないため、海峡封鎖時にも供給が継続される重要な「保険」となる。
ベトナムのエネルギー安全保障への示唆
中国のこうした構造転換は、隣国ベトナムにとっても重要な参考事例である。ベトナムは経済成長に伴いエネルギー需要が急増しており、原油の輸入依存度も上昇傾向にある。南シナ海を巡る領有権問題を抱えるベトナムにとって、海上輸送路の安全確保は国家安全保障に直結する課題である。
ベトナム政府は第8次電力開発計画(PDP8)において、2030年までに再生可能エネルギーの発電比率を大幅に引き上げる目標を掲げている。太陽光・風力、とりわけ洋上風力発電への投資を加速させており、この方向性は中国が先行して示したエネルギー安全保障モデルと軌を一にするものである。
また、ベトナムのEV市場ではビンファスト(VinFast、ビングループ傘下のEVメーカー。NASDAQ上場ティッカー:VFS)が国内市場をリードしており、EV普及が進めばベトナムの石油輸入依存度の低下にも寄与する。ビンファストは2025年以降、国内販売台数を急速に拡大しており、二輪車の電動化も進んでいる。
投資家・ビジネス視点の考察
本ニュースは直接的にはベトナム株式市場に関するものではないが、以下の点で間接的かつ重要な影響を持つ。
①エネルギー関連銘柄への波及
ホルムズ海峡リスクの高まりは、原油価格の上昇圧力を通じてベトナムの石油・ガスセクター(PVS=ペトロベトナム・テクニカルサービス、GAS=ペトロベトナム・ガス、PLX=ペトロリメックスなど)に短期的な追い風となり得る。一方で、原油高はベトナムの製造業や物流コストを押し上げ、インフレ要因となるため、中央銀行(ベトナム国家銀行)の金融政策にも影響する。
②再生可能エネルギー・EV関連の成長テーマ
中国の事例が示すように、再エネとEVへの投資は地政学リスクへのヘッジとなる。ベトナムにおいても、太陽光・風力関連のEPC企業やビンファスト(VFS)、さらにはバッテリー関連サプライチェーンに位置する企業群は、中長期的な成長テーマとして注目に値する。
③日本企業への影響
ベトナムに製造拠点を持つ日本企業にとって、エネルギー価格の高騰は生産コストの上昇に直結する。特にエネルギー集約型の製造業(鉄鋼、セメント、化学など)は影響が大きい。一方で、日本企業がベトナムの再エネプロジェクトに参画するビジネスチャンスも拡大している。JICAや日本の商社が関与する洋上風力プロジェクトなどがその好例である。
④FTSE新興市場指数への格上げとの関連
ベトナムは2026年9月にFTSE新興市場指数への格上げが決定する見込みであり、海外投資家の資金流入が期待されている。エネルギー安全保障の強化は、国家としてのリスクプロファイルの改善につながり、格上げ後の投資評価にもプラスに作用する。エネルギー自給率の向上や再エネ比率の拡大は、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の観点からも評価されるポイントである。
中国が数十年をかけて構築したエネルギー安全保障の「盾」は、一朝一夕に真似できるものではない。しかし、ベトナムが同様の方向に舵を切り始めていることは確かであり、その進捗を注視することが、ベトナム投資を考える上での重要な視座となるだろう。
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出典: 元記事












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