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米国発のリサイクル企業TerraCycle(テラサイクル)が数百万ドル規模の資金を投じて推進した「再利用パッケージ(リユース容器)」モデルが、北米をはじめとする複数の市場で事実上の失敗に終わった。消費者の利便性志向と根深い使い捨て習慣が、環境に優しいとされるビジネスモデルを「窒息」させた構図である。このニュースは、循環経済(サーキュラーエコノミー)の推進を掲げるベトナムや東南アジア諸国にとっても重要な教訓を含んでいる。
TerraCycleと「Loop」プロジェクトの全容
TerraCycleは2001年にカナダ出身の起業家トム・ザッキー氏が米ニュージャージー州で設立したリサイクル企業である。同社は通常のリサイクルルートに乗らない廃棄物──使用済み歯ブラシ、タバコの吸い殻、使い捨てコンタクトレンズなど──を回収・再資源化する独自のビジネスモデルで注目を集めた。
その同社が2019年に大々的に発表したのが「Loop(ループ)」と名付けられた再利用パッケージの仕組みである。Loopの基本コンセプトは、かつての牛乳配達モデルに着想を得たもので、消費者が耐久性のあるステンレスやガラス製の容器入り商品を購入し、使い終わった容器を返却すると、洗浄・補充されて再び流通に戻るというものであった。P&G(プロクター・アンド・ギャンブル)、ユニリーバ、ネスレ、ペプシコなど世界的な消費財メーカーが参画し、プロジェクトへの期待は非常に大きかった。投入された資金は数百万ドル規模に達したとされる。
失敗の核心──利便性と消費者習慣の壁
しかし、Loopモデルは北米市場を中心に深刻な苦戦を強いられた。その最大の原因は、現代の消費者が求める「利便性」との根本的な矛盾にある。
第一に、容器の返却という行為そのものが消費者にとって大きな負担であった。使い捨て容器であればゴミ箱に入れて終わりだが、Loopでは容器をすすぎ、指定の場所に持っていくか集荷を依頼する必要があった。日常生活の中でこの「ひと手間」を継続できる消費者は極めて限られていた。
第二に、価格面での不利がある。再利用容器は製造コストが高く、商品価格にデポジット(保証金)が上乗せされるため、通常の使い捨てパッケージ商品よりも割高になるケースが多かった。環境意識だけでは価格差を吸収できなかったのである。
第三に、物流・洗浄インフラの構築コストが想定以上に膨らんだ。回収、洗浄、再充填のサプライチェーンを一から構築する必要があり、既存の使い捨てパッケージ流通網と比べて圧倒的にコスト効率が悪かった。
結果として、Loopは2023年に北米でのeコマース事業を停止。フランスやイギリスなど欧州でも店舗展開を試みたが、いずれも規模の拡大には至らなかった。
「使い捨て文化」はなぜこれほど強固なのか
Loopの失敗は、単なる一企業の経営判断のミスではなく、グローバルな消費構造の問題を浮き彫りにしている。20世紀後半以降、プラスチック製の使い捨てパッケージは世界の消費財産業の基盤となった。軽量で安価、衛生的で大量生産に適するという特性が、メーカー・小売・消費者のすべてにとって合理的であったからである。
この構造を変えるには、消費者の行動変容だけでなく、製造・物流・小売のバリューチェーン全体を再設計する必要がある。Loopはその壮大な試みであったが、既存システムの慣性に押し戻された形となった。
ベトナム・東南アジアへの示唆
ベトナムは近年、急速な経済成長に伴いプラスチック廃棄物の問題が深刻化している国の一つである。ベトナム天然資源環境省のデータによれば、同国では年間約180万トンのプラスチック廃棄物が発生し、そのうちリサイクルされるのは3割程度にとどまる。ホーチミン市やハノイなどの大都市では、デリバリーサービスの急拡大に伴い使い捨て容器の消費量がさらに増加している。
ベトナム政府は2025年までに使い捨てプラスチックの使用削減を目標に掲げ、拡大生産者責任(EPR)制度の導入を進めている。しかし、Loopの事例が示すように、消費者の利便性を損なう形での環境対策は、所得水準がまだ発展途上にあるベトナム市場ではなおさら浸透が難しい。価格に敏感な消費者層が厚いベトナムでは、再利用パッケージのコスト増は北米以上に大きな障壁となり得る。
一方で、ベトナムには路上の屋台文化や市場での量り売りなど、もともと「容器持参」の慣行が残る地域・世代も存在する。都市部の若年層を中心にエコ意識が高まっているのも事実であり、テクノロジーを活用した新たなアプローチ──たとえばスマートフォンアプリと連動したデポジット回収システムなど──が現地の消費行動に合致すれば、先進国とは異なる形で循環型モデルが根付く可能性も残されている。
投資家・ビジネス視点の考察
今回のTerraCycle/Loopの失敗事例は、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資やグリーンビジネスに対する冷静な評価の必要性を改めて示している。
ベトナム株式市場への影響:直接的な影響は限定的だが、ベトナムで上場するパッケージ・包装関連企業──たとえばSPT(サイゴンパッケージ技術)やBMP(ビンミン・プラスチック)など──にとっては、使い捨てプラスチック規制の強化ペースが市場の想定より緩やかになる可能性を示唆している。EPR制度の施行が本格化しても、代替モデルの経済的成立性が証明されない限り、既存パッケージ企業の事業基盤が急速に揺らぐ事態は考えにくい。
日本企業への影響:ベトナムに進出している日系消費財メーカー(味の素、花王、ユニ・チャームなど)にとっても、環境対応パッケージの戦略設計にLoopの教訓は直結する。「理想的だが消費者が使わないモデル」に過剰投資するリスクを避けつつ、規制動向に沿った現実的な対応──軽量化、モノマテリアル化(単一素材化)、リサイクル率向上──に注力する方が合理的であろう。
FTSE新興市場指数格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるベトナムのFTSE新興市場指数への格上げに際しては、ESGスコアの改善が海外機関投資家の投資判断に影響する。プラスチック廃棄物問題への取り組みはESG評価の一要素であり、ベトナム政府の環境政策が「実効性を伴うもの」と評価されるかどうかが中長期的に重要となる。Loopのような先進的モデルの失敗を踏まえ、ベトナムがどのような独自の循環経済モデルを構築していくかは、投資家が注視すべきテーマである。
総じて、環境ビジネスは「善意」だけでは成立しないという厳しい現実を、TerraCycleの事例は突きつけている。ベトナム市場においても、消費者の行動変容を前提とせず、経済合理性を伴う形でのグリーンビジネスモデルを模索する企業こそが、長期的に市場で生き残ることになるだろう。
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出典: 元記事












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