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イラン戦争に端を発する中東からの化石燃料供給途絶の懸念が広がる中、欧州の航空会社と製油所は今夏のジェット燃料(航空燃料)不足を回避できるとの自信を深めている。英フィナンシャル・タイムズ紙が報じたこの動向は、エネルギー安全保障と航空産業の交差点を示す重要な事例であり、ベトナムを含むアジア新興国の航空・エネルギー市場にも示唆を与えるものである。
ライアンエアCEO「燃料供給の懸念はほぼ消えた」
欧州最大のLCC(格安航空会社)であるライアンエア(Ryanair、アイルランド本拠)のマイケル・オリアリーCEOは、「現時点で欧州全域の燃料供給についてほぼ懸念はない」と断言した。同氏によれば、1〜2カ月前には確かに深刻な懸念が存在したが、米国、西アフリカ、ノルウェーからの供給増強に加え、中欧の一部航空会社がロシアから燃料を調達していることもあり、欧州大陸への航空燃料供給は安定する見通しだという。
製油所の増産と戦略備蓄の取り崩し
スペインの大手エネルギー企業レプソル(Repsol)は、製油所の構成を再調整し、原油1バレルあたりのケロシン(灯油=ジェット燃料の原料)生産量を増やすことで、今後数カ月の航空燃料生産量を前年同期比20〜25%増加させたと発表した。レプソルの精製部門責任者アントニオ・メストレ氏は、「夏季に十分な航空燃料供給を確保するため」の措置だと説明し、計画されていた定期メンテナンスも延期して生産に集中していると述べた。通常、製油所は製品間の生産比率を柔軟に変更する余地が限られており、これほどの増産は異例である。
ポルトガルのエネルギー企業ガルプ(Galp)も航空燃料の生産を「最大化」しており、「今後数カ月間、予測されていたような燃料供給の途絶は起きない」と明言。国内需要は増産と確約済みの輸入契約で「完全に満たされる」見込みだとしている。
エネルギーコンサルティング会社FGE NexantECAのアナリスト、ユージン・リンデル氏の推計によれば、欧州の製油所増産により1日あたり約10万バレルの航空燃料が追加供給され、これはイラン戦争前に欧州が中東から輸入していた量の約20%に相当する。さらに、IEA(国際エネルギー機関)加盟国による戦略備蓄の取り崩しが2025年の欧州航空燃料不足分の約34%を補填し、米国やナイジェリアからの輸入増が残りの不足分を埋めるとリンデル氏は見積もっている。
IEAの警告は杞憂に終わるか
IEAのトップは4月、欧州の航空燃料在庫が約6週間分しかないと警告していた。しかし現時点で深刻な供給途絶は回避されている。ブリティッシュ・エアウェイズ(British Airways)は夏季の全フライトスケジュールに対応する燃料供給元を確保済みと発表。エールフランス(Air France)も数カ月分の燃料備蓄があるとしている。ウィズエア(Wizz Air、ハンガリー本拠のLCC)のヨージェフ・ヴァラディCEOも、航空燃料価格の上昇は各社にとって負担だが、米国やナイジェリアの製油所が欧州向け輸出を増やしたことで欧州は適応できていると述べた。
価格は依然高水準——油断は禁物
北欧市場における航空燃料価格は4月初旬に1トンあたり1,904USDという史上最高値を記録した。これは危機前の2倍以上の水準である。先週時点では1トンあたり約1,328USDまで下落したものの、戦争前と比べると依然60%高い水準にある。
イスタンブール空港の商務ディレクター、セルヴェル・アイドゥン氏は、湾岸地域の主要航空ハブが閉鎖された後に乗り継ぎ需要が急増した同空港でも、複数の供給元からの調達により燃料供給は安定していると述べ、「多様化が鍵だ」と強調した。
一方、ポーランドのエネルギー大手オルレン(Orlen)のシニアトレーダー、ウカシュ・ストルプチェフスキ氏は、この夏が「グローバルなエネルギー安全保障システム全体のストレステスト」になると警告する。「2〜3年の経験しかなければ問題ないと言うだろう。だが私は長年この業界にいる。現在の状況がわずかに変わるだけで、多くの問題が生じ得る」と同氏は慎重な姿勢を崩さない。
なお、欧州の航空燃料需要は、各航空会社が不採算の短距離路線を削減した影響で今年約2%減少したと推計されている。当初懸念されたような大幅な需要破壊には至っておらず、業界にとっては比較的穏やかな調整にとどまっている。
ベトナム航空・エネルギー市場への示唆
このニュースは直接ベトナムの出来事ではないが、ベトナム経済・投資に関心を持つ読者にとって複数の重要な示唆がある。
第一に、ベトナムの航空セクターへの間接的影響である。ベトナム航空(Vietnam Airlines、銘柄コード:HVN)、ベトジェットエア(VietJet Air、VJC)、バンブー・エアウェイズといったベトナムの航空会社も、国際的な航空燃料価格の高騰の影響を受ける。燃料費は航空会社のコスト構造の3〜4割を占めるため、1トンあたり1,328USDという高水準が続けば、各社の利益率を圧迫する。特にVJCは国際線比率を拡大中であり、欧州路線での燃料調達コストは注視が必要である。
第二に、ベトナムの精製能力と燃料安全保障の観点がある。ベトナムにはズンクアット製油所(ビンディン省)とニソン製油所(タインホア省)の2大製油所が存在するが、国内航空燃料需要の全量を賄うには至っておらず、一定量を輸入に依存している。欧州が「多様化」と「増産」で危機を乗り切った教訓は、ベトナムのエネルギー安全保障政策にも当てはまる。ペトロベトナム(PetroVietnam)グループ傘下のビンソン精製石油化学(BSR)やニソン精製石油化学(NSH=非上場)の動向も、航空燃料供給の観点で注目に値する。
第三に、ベトナム株式市場全体への影響として、中東情勢の不安定化による原油高はベトナムのインフレ圧力を高め、ベトナム国家銀行(中央銀行)の金融政策にも影響し得る。2026年9月に判定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げに向けて、マクロ経済の安定は不可欠な条件であり、エネルギー価格の動向はその前提条件の一つとして引き続き注視すべきである。
総じて、今回の欧州航空燃料問題は「供給源の多様化」「国内生産能力の最大活用」「戦略備蓄の機動的運用」という三つの柱で危機を回避した好例である。ベトナムが将来、同様のエネルギー供給ショックに直面した際に同じ対応が可能かどうか——それが投資家にとっての本質的な問いとなる。
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出典: 元記事












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