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米国の転職昇給率がコロナ期の30%水準に急落——ベトナム労働市場への示唆と投資家が注目すべきポイント

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米国の労働者が転職時に得られる昇給幅が大幅に縮小し、コロナ禍の採用ブーム期と比較してわずか30%の水準にまで落ち込んでいる。「大退職時代(Great Resignation)」と呼ばれた空前の売り手市場は完全に過去のものとなり、米国の労働市場は構造的な転換点を迎えている。この動きは、米国経済と密接に連動するベトナムの輸出産業や労働市場にも間接的な影響を及ぼす可能性があり、注視が必要である。

目次

コロナ期の「転職バブル」はなぜ終焉したのか

2021年から2022年にかけて、米国では新型コロナウイルスの流行からの経済回復に伴い、深刻な人手不足が発生した。企業は競うように賃金を引き上げ、転職者に対しても大幅な昇給を提示することが常態化していた。いわゆる「大退職時代」には、労働者が自発的に離職し、より高い報酬を提示する企業へ移ることが米国全土で相次いだ。

しかし現在、転職時の平均昇給率はそのピーク期のわずか30%程度にまで縮小している。背景には複数の要因が絡み合っている。まず、米連邦準備制度理事会(FRB)による積極的な利上げが企業の採用意欲を冷え込ませた。加えて、テクノロジー業界を中心とした大規模なレイオフ(人員削減)が続き、労働市場の需給バランスが大きく変化した。企業側は「売り手市場」から「買い手市場」へと立場を取り戻しつつあり、転職者に対してかつてのようなプレミアムを支払う必要がなくなっている。

米国労働市場の冷え込みが示す構造変化

今回の転職昇給率の低下は、単なる景気循環の一局面ではなく、より深い構造変化を反映している可能性がある。AI(人工知能)や自動化技術の急速な普及により、一部の職種では人間の労働力に対する需要そのものが減少し始めている。特にホワイトカラーの事務職やミドルマネジメント層では、生成AIの導入によって業務効率化が進み、新規採用を抑制する企業が増えている。

また、リモートワークの定着により、企業は地理的な制約を超えて人材を確保できるようになった。これは労働者間の競争を激化させ、賃金上昇圧力を抑制する方向に働いている。米国労働統計局(BLS)のデータによれば、求人件数(JOLTS)もピーク時の1,200万件超から大幅に減少しており、労働市場全体の「過熱感」が解消されつつあることを裏付けている。

ベトナムの労働市場・輸出産業への波及経路

米国の労働市場の動向は、ベトナム経済に対して複数の経路で影響を及ぼし得る。第一に、米国は引き続きベトナムにとって最大の輸出相手国である。米国の雇用情勢が悪化し、個人消費が減速すれば、ベトナムからの輸出品——特にアパレル、履物、電子部品、家具——への需要が減退するリスクがある。

第二に、米国のテック企業がコスト削減を進める中、ベトナムへのIT・BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)案件のフローにも変化が生じる可能性がある。一方で、「より安い労働力」を求めて米国企業がオフショアリング(海外委託)を加速させるシナリオも考えられ、この場合はベトナムのIT人材への需要がむしろ高まる可能性もある。ベトナムのソフトウェア開発企業であるFPTソフトウェア(ベトナム最大手IT企業FPTコーポレーションの子会社)などは、こうした動向の恩恵を受け得る立場にある。

第三に、ベトナム国内でも転職市場の変化は注目に値する。ベトナムではここ数年、特にホーチミン市やハノイの都市部を中心に、若年層の「ジョブホッピング(nhảy việc)」が社会現象となってきた。米国発のトレンドが時差を伴ってベトナムに波及するケースは少なくなく、ベトナムの労働市場においても今後、転職プレミアムの縮小が見られる可能性がある。

投資家・ビジネス視点の考察

米国の雇用環境の変化は、ベトナム株式市場にとっていくつかの含意を持つ。

■ 輸出関連銘柄への影響:米国の消費減速リスクは、ベトナムの繊維・アパレル大手であるビナテックス(Vinatex、銘柄コード:VGT)や、水産加工のヴィンホアン(Vinh Hoan、銘柄コード:VHC)など、対米輸出比率の高い銘柄にとって逆風となり得る。一方で、米中対立を背景としたサプライチェーン再編(チャイナ・プラスワン)の恩恵は引き続き有効であり、中長期的にはベトナムの製造業セクターへの追い風は変わらないと考えられる。

■ IT・BPOセクターの二面性:前述の通り、米国企業のコスト削減志向はベトナムのITアウトソーシング企業にとってプラスにもマイナスにもなり得る。FPTコーポレーション(銘柄コード:FPT)の北米向け受注動向は、今後の決算で特に注視すべきポイントである。

■ FTSE新興市場指数への格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナムの格上げは、海外からの資金流入を大幅に増加させると期待されている。しかし、米国の景気後退懸念が強まれば、グローバルなリスクオフの動きが新興国市場全体の資金フローに影響を与える可能性がある。格上げの「追い風」と米国経済減速の「逆風」がどのように拮抗するかは、今後数四半期のマクロ環境次第である。

■ 日系企業への示唆:ベトナムに進出している日系製造業にとって、ベトナム人労働者の転職率や賃金動向は経営コストに直結する問題である。仮にベトナムでも転職プレミアムが縮小する局面が訪れれば、日系企業にとっては人材定着率の改善やコスト抑制につながるプラス材料となり得る。ただし、ベトナムの最低賃金は2024年にも引き上げが実施されており、制度面での賃金上昇圧力は依然として存在する点には留意が必要である。

いずれにせよ、米国の労働市場の「正常化」は世界経済全体の転換点を象徴するシグナルであり、ベトナム投資を検討する上でもマクロ環境の変化として把握しておくべき重要なファクターである。


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出典: 元記事(VnExpress)

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