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米国とイスラエルがイランを攻撃してからわずか数日後、30歳の米国人投資家アンソニー・リード氏は貯蓄の一部を株式購入に充てる決断を下した。地政学リスクが急激に高まる中で、なぜ米国株式市場は下落するどころかむしろ上昇を続けているのか。この現象はベトナムを含む新興国市場の投資家にとっても極めて重要な示唆を含んでいる。
紛争激化の中で買い向かう個人投資家たち
中東情勢の緊迫化は、通常であれば株式市場にとってネガティブな材料として受け止められる。しかし今回、米国とイスラエルによるイラン攻撃という重大な地政学イベントが発生したにもかかわらず、米国の主要株価指数は堅調な推移を見せている。アンソニー・リード氏のように、むしろ「押し目買い」の好機と捉える個人投資家が少なくないことが、その背景にある。
こうした現象は、過去の地政学的危機においても繰り返し観察されてきた。2001年の同時多発テロ、2003年のイラク戦争開戦、2014年のクリミア併合、2022年のロシアによるウクライナ侵攻——いずれのケースでも、米国株は初期の急落後に比較的短期間で回復し、その後上昇トレンドに復帰している。市場関係者の間では「地政学リスクは買い」という格言すら存在するほどである。
なぜ市場は紛争を「織り込む」のか
米国株が地政学リスクに対して耐性を示す理由は複数ある。第一に、米国経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)が依然として堅調であることだ。労働市場は底堅く、企業収益も成長を続けており、AI(人工知能)関連を中心としたテクノロジーセクターへの期待が市場全体を下支えしている。
第二に、投資家の間で「紛争は局地的かつ短期的に終結する」との見方が広がっていることがある。米国とイスラエルによるイラン攻撃が全面戦争へとエスカレートする可能性は低いとの観測が支配的であり、市場はすでにこのシナリオをある程度織り込んでいる。
第三に、FRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策に対する期待がある。地政学的緊張が経済に悪影響を及ぼす場合、FRBが利下げに動く可能性があるとの見方が、株式市場にとっては逆説的にプラス材料として作用している。
第四に、軍事関連銘柄やエネルギー関連銘柄が紛争激化の恩恵を直接受けるセクターとして買われており、指数全体を押し上げる要因にもなっている。ロッキード・マーチンやレイセオンといった防衛大手、さらにはエクソンモービルやシェブロンといったエネルギー大手の株価は、中東情勢の緊迫化とともに上昇する傾向がある。
原油価格と「恐怖指数」の動向
一方で、紛争激化が全く影響を与えていないわけではない。原油価格はイラン攻撃を受けて一時的に上昇しており、イランがホルムズ海峡(ペルシャ湾の出口に位置し、世界の原油輸送の約2割が通過する戦略的要衝)の封鎖に踏み切るリスクが完全に排除されたわけではない。
また、VIX指数(ボラティリティ・インデックス、いわゆる「恐怖指数」)も一時的に上昇する場面が見られた。ただし、2020年のコロナショック時のような極端な水準には達しておらず、市場全体のパニック度合いは限定的である。
投資家・ビジネス視点の考察——ベトナム市場への波及
この米国株の動向は、ベトナム株式市場(VN-Index)にとっても重要な意味を持つ。ベトナム市場は外国人投資家の資金フローに左右されやすく、米国市場のリスクオン・リスクオフのムードが直接波及する構造にある。米国株が地政学リスクにもかかわらず堅調であることは、外国人投資家のリスク許容度が維持されていることを意味し、ベトナムを含む新興国市場への資金流入が急激に細る事態は当面回避される可能性が高い。
もっとも、原油価格の上昇はベトナム経済にとって両刃の剣である。ベトナムは原油の純輸出国から純輸入国へと転じつつあり、原油高はガソリン価格や輸送コストの上昇を通じてインフレ圧力を高める。ペトロベトナムガス(GAS)やペトロベトナム・ドリリング(PVD)といったエネルギー関連銘柄にとっては追い風となるが、航空(ベトジェットエア=VJC、ベトナム航空=HVN)や物流セクターにとってはコスト増の要因となる。
さらに、2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナム格上げとの関連も見逃せない。格上げが実現すれば、グローバルなパッシブファンドからの大規模な資金流入が期待されるが、地政学リスクが高まる環境下では、新興国全体への資金配分が抑制される可能性もある。米国株が堅調を維持し、世界経済の安定感が保たれていることは、FTSE格上げ後の資金流入を最大化するための前提条件とも言える。
日本企業にとっても、中東情勢の緊迫化はベトナム事業に間接的な影響を及ぼし得る。特にベトナムに製造拠点を持つ日系メーカーにとって、原油高に伴う物流コスト増やサプライチェーンの混乱リスクは注視すべきポイントである。一方で、「チャイナプラスワン」の流れの中でベトナムへの生産移管を進める企業にとっては、地政学リスクの多様化という観点から、ベトナム拠点の戦略的重要性がむしろ高まっているとも言える。
結局のところ、「地政学リスクは買い」という格言が今回も当てはまるかどうかは、紛争の規模と期間に依存する。局地的な衝突で終われば市場への影響は一過性にとどまるが、ホルムズ海峡封鎖や核施設への攻撃といった重大なエスカレーションが発生すれば、話は全く異なる。投資家としては、楽観と警戒のバランスを保ちつつ、ポートフォリオの分散を徹底することが肝要である。
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出典: 元記事












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