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グローバルの高級スキンケア市場の成長が明確に減速している。調査会社Circana(サーカナ)のデータによれば、2025年第3四半期の高級スキンケア製品の売上高は前年同期比わずか3%増の97億ドルにとどまり、平均販売価格も3%下落した。ベトナムを含む新興国の美容市場にも波及しうるこの構造変化を、投資の観点から読み解く。
高級スキンケアだけが「値下がり」——市場の全体像
美容業界では香水やメイクアップブランドの力強い成長が注目される一方、高級スキンケアは唯一、平均販売価格が下落した分野となった。対照的に、マス向け(大衆向け)スキンケアは前年同期比5%の成長を記録し、高級セグメントの1%成長を大きく上回っている。
この背景には複数の要因が絡み合う。第一に、消費者の支出引き締めである。インフレや景気の先行き不透明感から、消費者は「本当に効果があるのか」をこれまで以上に厳しく問うようになった。第二に、韓国発の大手ビューティーブランドが競争力のある価格帯で次々と製品を投入していることだ。Beauty of Joseon(ビューティー・オブ・ジョセン)やMedicube(メディキューブ)といった韓国ブランドは、手頃な価格と高い品質を両立させ、世界中で急速にシェアを拡大している。
さらに、2016年に登場したThe Ordinary(ジ・オーディナリー)が「毎月数百ドルを費やさなくても効果的なスキンケアは可能だ」というメッセージを広めて以降、Byoma(バイオマ)、Rhode(ロード)など同様の戦略を採るブランドが続々と誕生している。Eコマースの普及も従来の流通構造を揺さぶり、高級ブランドが享受してきた「販売チャネルの独占的優位性」を弱体化させている。
一部の投資ファンドは、安定的な収益を生み出せるブランドが不足しているとして、高級スキンケア分野から徐々に撤退していることも認めている。
消費者の二極化——「プロ仕様」か「超高級」か
興味深いのは、消費者が高級スキンケアに投資する場合の選択肢が二極化している点である。一方では、皮膚科クリニック専売ブランドであるEnviron(エンバイロン)やIS Clinical(アイエス・クリニカル)といった「専門性」を重視した製品への流入が見られる。他方では、La Prairie(ラ・プレリー)のような超高級ブランドに直接移行するケースもある。つまり、「中途半端な高級品」が最も苦しいポジションに置かれているのだ。
小売大手の戦略転換——SephoraとUlta Beautyの動向
かつてSephora(セフォラ、LVMH傘下の世界最大級コスメ小売チェーン)は、Tatcha(タッチャ)、Drunk Elephant(ドランクエレファント)、Sunday Riley(サンデーライリー)、Youth To The People、Supergoop(スーパーグープ)など数々の高級スキンケアブランドを「発掘・育成」する場として機能してきた。しかし現在、同社のスキンケア分野における戦略は不明瞭になりつつある。
Sephoraのスキンケア部門の全盛期を牽引したPriya Venkatesh(プリヤ・ヴェンカテッシュ)氏は現在、同社のグローバル最高商務責任者(Chief Merchandising Officer)に昇進しており、後任体制下では新たな「スター・ブランド」の発掘が停滞している。Rhodeの取り扱い開始や韓国発のOlive Young(オリーブヤング)との提携が2025年初に発表されたものの、それ以外に目立った動きは乏しい。
一方、Ulta Beauty(アルタビューティー、米国最大級のビューティー専門小売)では、La Roche-Posay(ラ ロッシュ ポゼ)、Clinique(クリニーク)、Medicubeといった既存の人気ブランドが売上を牽引している。ただし、これら既存ブランドへの依存は長期的に持続可能な戦略とは言いがたい。
また、Summer Fridays(サマーフライデーズ)やEadem(イーデム)など、元来スキンケアを主力としていたブランドがメイクアップ(特にリップ製品)に事業を拡大する動きも加速しており、「リップスティック・ブーム」への便乗が業界全体のトレンドとなっている。
エスティローダーとPuigの合併交渉——業界再編の号砲か
こうした市場環境の中、Estée Lauder(エスティローダー、米国最大手の化粧品コングロマリット)とPuig(プーチ、スペインの香水・ファッション大手)が合併に向けた交渉を進めていることが確認された。両社はいずれも創業家が経営に深く関与しつつ上場しているという共通点を持つが、強みは明確に異なる。
エスティローダーはClinique、Estée Lauderなどグローバルに認知されたスキンケア・メイクアップブランドと、世界規模の流通ネットワークを有する。一方のPuigは、Carolina Herrera(カロリーナ・ヘレラ)、Rabanne(ラバンヌ)、Jean Paul Gaultier(ジャンポール・ゴルチエ)といった高級フレグランスブランドに加え、Charlotte Tilbury(シャーロット・ティルバリー)という急成長中のメイクアップブランドを擁する。
仮にこの合併が実現すれば、スキンケア、メイクアップ、フレグランスという高級美容の主要3カテゴリーすべてをカバーする巨大グループが誕生することになる。エスティローダーのグローバル流通力・製造能力と、Puigのブランド・クリエイティビティ・香水分野の専門性が組み合わさることで、L’Oréal(ロレアル)やLVMHに匹敵する競争力を持つ可能性がある。
ただし、バランスシートやサプライチェーンの統合は技術的に可能であっても、ブランド哲学や開発スピード、企業文化の融合は極めて困難である。この点は今後の交渉の最大の焦点となるだろう。
投資家・ビジネス視点の考察——ベトナム市場への影響
今回のグローバル高級スキンケア市場の減速は、ベトナムの美容・消費財セクターにも複数の示唆を与える。
第一に、韓国ブランドの台頭はベトナム市場でも顕著である。ベトナムではK-Beauty(韓国コスメ)の人気が根強く、Eコマースプラットフォーム(Shopee、TikTok Shop等)を通じた販売が急拡大している。高級スキンケアの伸び悩みと大衆向け・韓国ブランドの成長という構図は、ベトナム国内でもそのまま当てはまる。
第二に、ベトナムの小売・消費関連銘柄への影響である。ホーチミン証券取引所(HOSE)に上場するMobile World(MWG)傘下のAn Khang薬局チェーンや、化粧品Eコマースを手がける企業にとって、高級品よりも中価格帯・マス向けブランドの取り扱い強化が合理的な戦略となる可能性がある。
第三に、エスティローダーとPuigの合併交渉は、ベトナムにおける両社の事業展開にも影響を及ぼしうる。エスティローダーはベトナムで複数のブランド(Clinique、MAC等)を展開しており、合併後の流通再編やブランド戦略の変更がベトナム市場にも波及する可能性がある。
第四に、2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナム格上げに関連して、消費財セクターは海外機関投資家の注目分野の一つである。グローバルな美容市場の構造変化を正しく理解した上で、ベトナムの消費関連銘柄を評価することが、今後ますます重要となるだろう。
高級スキンケア市場において「ブランドストーリー」だけでは高価格を正当化できない時代が到来している。科学的根拠に基づく効果、合理的な価格設定、そして本物の専門性——この3つを兼ね備えたブランドだけが、今後の淘汰の波を生き残ることができる。ベトナムの美容市場においても、この構造変化を先読みした投資判断が求められる局面である。
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