こんにちは、ベトナム経済&株式投資ニュース解説のベトテク太郎です。
2026年7月28日時点で、ドル円は163円台をつけています。年初の始値が156.85円でしたから、年内だけで7円近く円安が進んだ計算です。年初来の安値は152.09円、高値は163.99円。上値を切り上げる展開が続いています。

添付したのは、1971年から現在までのドル円の長期チャートです。55年分を一枚に収めると、いま自分がどこに立っているのかが見えてきます。
ただ、今日お伝えしたいのは為替の予測ではありません。私には円がこの先どこへ向かうのか分かりませんし、分かると言う人がいたら距離を置いたほうがいいと思っています。今日の話は、もっと手前にあるものです。
日本に住んでいる皆さんが、自分でも気づかないうちに、資産のほぼ全額を円という一つの通貨に集中させているという話です。
まず、自分の円建て比率を数えてみてください
投資の世界で分散という言葉を使うとき、多くの場合それは銘柄や国や資産クラスの分散を指します。通貨の分散が話題になることは、意外なほど少ない。
そこで、一度計算してみてください。計算に含めるのは、証券口座の中身だけではありません。
一つ目は預貯金です。二つ目は日本の不動産、持ち家がある方はその評価額です。三つ目は将来受け取る公的年金の受給権、これも円建ての資産です。四つ目は退職金の見込み額。そして五つ目、これが最も大きいのですが、人的資本です。
人的資本とは、あなたがこれから働いて稼ぐ給料の総額のことです。年収600万円の方が、あと25年働くとします。単純に掛け合わせれば1億5,000万円。これは全額、円で受け取る資産です。

年収600万円、預金500万円、そしてオルカンを800万円保有している方を例に計算してみます。オルカンは中身の9割以上が外貨建て資産ですから、外貨建て部分は約760万円。
合計1億6,300万円のうち、円建てが1億5,540万円。比率にして約95.3%です。
オルカンを800万円積み上げて、世界中に分散したつもりでいる。でも通貨という切り口で見ると、資産の95%が円という一つの通貨に賭けられている。これが多くの日本在住の方の実像だと思います。
55年のチャートを三つの局面で読む
もう一度、長期チャートに戻ります。この55年は、大きく三つの局面に分けて見ることができます。
第一の局面は、1971年から1995年までの円高期です。1ドル360円の固定相場が崩れ、1973年に変動相場制へ移行し、1985年のプラザ合意で流れが加速しました。1995年4月には79円台をつけています。24年かけて、円の価値はドルに対して4倍以上になりました。
第二の局面は、1995年から2011年までのもみ合い期です。80円台から140円台までの間を行き来しながら、2011年10月に75円台という史上最高値を記録しました。
そして第三の局面が、2012年から現在に至る円安期です。75円台から160円台まで、円の対ドル価値はおよそ半分以下になりました。15年弱で半減です。

ここで一つ、公平を期しておきたい点があります。1971年の360円と比べれば、いまの160円台でも円は当時の2倍以上の水準にあります。円が一方的に弱くなり続けてきたわけではありません。
ただ、物価も含めた実質的な購買力で見ると、日本円の実力は1970年代前半の水準まで戻っているという指摘があります。名目のレートだけを見ていると、この部分は見落とされます。
なぜ「一時的な円安」と言い切れなくなったのか
2022年に150円をつけたとき、多くの解説が「日米の金利差が原因であり、金利差が縮まれば戻る」と説明していました。この説明には根拠があります。実際、金利差は為替を動かす最も大きな要因の一つです。
ただ、金利差だけでは説明しきれない部分があるという見方も出てきています。
一つは、貿易収支とサービス収支の構造変化です。かつての日本は貿易黒字国でしたが、エネルギーの輸入依存に加えて、クラウドサービスやデジタル広告への支払いが年々膨らんでいます。円を売って外貨を買う実需が、構造的に積み上がっている状態です。
もう一つは、家計の資産形成です。新NISAを通じて日本の家計が海外資産を買っています。これは個人にとって合理的な行動ですが、集計すると円売り外貨買いのフローになります。制度が円安を後押しするという、皮肉な構造がここにあります。
三つ目は人口動態です。生産年齢人口が減少する国の通貨は長期的に弱含みやすいという議論があります。これは検証が難しく、異論も多い論点です。
これらが今後どう作用するのかは、私には分かりません。円高に振れる展開も十分にあり得ます。ただ、「いずれ元に戻る」という前提だけで資産配分を組むことのリスクは、以前より大きくなっているように感じています。
オルカンを持っていれば通貨分散になるのか
ここで、前の記事とつながる話をします。
全世界株式インデックスの通貨構成を見ると、米ドル建てが6割強を占めます。次いでユーロ、英ポンド、円と続きます。つまりオルカンは、世界中に分散した株式ファンドであると同時に、実質的には米ドルに大きく寄ったファンドでもあります。

これは欠点ではありません。米ドルは世界の基軸通貨で、流動性も最も厚い。円建て資産に偏った日本在住者にとって、ドル建て資産を持つこと自体が大きな一歩です。
ただし、円からドルへの一本道だけで通貨分散が完成したと考えるかどうかは、また別の論点だと思います。ドルもまた一つの通貨であり、ドル自体が弱くなる局面は過去に何度もありました。
新興国株式インデックスの中身が実は東アジアの大型テック株に偏っているという話は前回書きましたが、通貨についても同じ構造があります。分散の名前がついているものが、必ずしも分散になっているとは限らないのです。
通貨分散を三つのレイヤーで整理する
通貨分散という言葉は曖昧なので、私は三つのレイヤーに分けて考えています。
第一のレイヤーは、金融資産の通貨です。外貨建ての株式、債券、外貨預金など。ここは証券口座の中で完結するので、最も取り組みやすい部分です。
第二のレイヤーは、収入の通貨です。給料が円だけなのか、外貨で受け取る収入があるのか。副業や外貨建ての配当も含まれます。ここを動かすのは簡単ではありませんが、動かせれば効果は大きい。
第三のレイヤーは、生活基盤の通貨です。どこに住み、何の通貨で生活費を払っているか。私はハノイで暮らしているので、生活費の大半はベトナムドンで払っています。円が安くなれば日本円換算の生活費は変わりますが、現地通貨で稼いで現地通貨で使う部分については、為替の影響を直接は受けません。
【図解4】をここに配置
多くの方にとって現実的なのは第一のレイヤーですが、第二のレイヤーに少しでも手をつけられると、資産全体の景色が変わってきます。
新興国通貨は分散になるのか
ここは正直に書きます。新興国通貨は、通貨分散の答えとしては扱いが難しい部類に入ります。
ベトナムドンを例にとると、対ドルでは長期的に緩やかな減価が続いてきました。多くの新興国通貨に共通する傾向です。円が弱くなっているからといって、新興国通貨に逃げれば安全というほど単純な話ではありません。
ただし、通貨の減価と資産の増価は別の話です。現地の経済が成長し、企業の利益が現地通貨ベースで伸びていけば、通貨が多少減価しても円換算のリターンがプラスになる余地はあります。逆に、通貨の減価が成長を上回れば、円換算では目減りします。
新興国に投資するとき、この二つを分けて考えられているかどうかが、判断の質を大きく左右します。この視点は「富の南下」という連載シリーズで詳しく扱っていますので、関心のある方はご覧ください。https://note.com/gonviet/n/ndcd64cc184eb
現地に住んでいて感じること
ハノイに住んで13年になります。生活実感として一つだけ書いておきます。
以前は日本から来た駐在員や旅行者が「ベトナムは安い」と言っていました。いまも品目によってはそうですが、都市部の外食やサービス、住宅の価格は、円換算で見ると日本とそれほど変わらない水準まで来ているものがあります。
これはベトナムの物価が上がったからでもあり、円が安くなったからでもあります。日本にいると円安は数字の話ですが、外にいると生活の手触りとして現れます。この感覚の差が、円というポジションを客観的に見るきっかけになったのは確かです。
注意点と、私自身の限界
最後に、この記事の限界を書いておきます。
為替の方向は誰にも読めません。私にも読めません。円安が続く前提で外貨に寄せた直後に急激な円高が来る展開も、当然あり得ます。過去にも何度も起きてきたことです。
また、外貨建て資産を増やすことは、円安への備えであると同時に円高への賭けの反対側でもあります。分散とは、どちらに転んでも致命傷にならない状態を作ることであって、勝ちにいくことではありません。この区別は大事だと思っています。
そして、外貨建て資産にはコストがかかります。為替手数料、信託報酬、税制上の扱い。比率をどこに置くかは、これらを踏まえてご自身で判断していただくものです。投資判断はご自身の責任でお願いします。
まとめ
オルカンを持っているから世界に分散できている。この認識は、資産クラスの話としては正しいと思います。
ただ、通貨という切り口を一本入れると、多くの日本在住の方は資産の9割以上を円に置いています。人的資本まで含めて数えれば、その比率はさらに上がります。
いまが円安だから外貨を買うという話ではありません。順序が逆で、まず自分がどれだけ円に賭けているかを知る。その上で、その比率が自分にとって納得できるものかを考える。動くのはその後でいいはずです。
チャートの55年を眺めていて改めて思うのは、通貨というものは思っているよりずっと大きく動く、ということです。
そういうことなんです。
いかがでしたでしょうか。今回の円と通貨分散について、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。
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