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チャイナプラスワンの本命はどこか。ベトナム・インドネシア・インド・メキシコ・タイを5つの軸で比較しました

こんにちは、ベトナム経済&株式投資ニュース解説のベトテク太郎です。

チャイナプラスワンという言葉が使われ始めて、もう20年近くになります。ただ、この10年で問いの中身がすっかり変わりました。以前は「中国以外にも生産拠点を持つべきか」という問いでしたが、いま企業が抱えているのは「どこに持つか」という具体的な選択の問題です。

そして投資家にとっては、その選択がそのまま各国の株式市場の将来につながっています。工場が建ち、雇用が生まれ、所得が上がり、内需が育つ。この順番で経済は動きます。だからこそ、どの国が選ばれているのかを見ておく価値があります。

今回はベトナム、インドネシア、インド、メキシコ、タイの5カ国を、人件費、電力、港湾と物流、貿易協定、政治リスクという5つの軸で並べてみます。私はハノイに住んで13年になりますが、ベトナムを持ち上げるだけの記事にはしません。この国には明確な弱点があり、それを隠すと比較の意味がなくなるからです。

目次

そもそもチャイナプラスワンとは何だったのか

言葉の整理から始めます。

チャイナプラスワンは、生産拠点を中国だけに集中させず、もう1カ国を確保しておくという考え方です。もともとは2000年代前半に、中国の人件費上昇とカントリーリスクへの備えとして語られ始めました。

流れが本格的に加速したのは、2018年以降の米中の貿易摩擦です。関税が実際に課され、企業が中国からの輸出コストを再計算せざるを得なくなった。そこにコロナ禍によるサプライチェーンの断絶が重なり、経済合理性だけでなく地政学が生産地の選択に入り込みました。

結果として何が起きたか。米国の輸入相手国の構成が変わりました。中国のシェアが低下し、メキシコが米国最大の輸入相手国の座を占め、ベトナムのシェアも大きく伸びています。これは統計に明確に表れている変化です。

軸1 人件費 インドが最も安く、メキシコが最も高い

まず最も分かりやすい軸から見ます。

製造業ワーカーの月額基本給を概算で並べると、インドが最も低く、次にベトナム、インドネシア、そしてタイとメキシコが上位に来ます。メキシコとインドでは2倍以上の開きがあります。

ここで注意しておきたい点が3つあります。

1つ目は、これらの数字は都市と業種によって大きく変わるということです。ジャカルタとジャワ島の地方都市では最低賃金が倍近く違いますし、ベトナムでもハノイやホーチミンと地方省では差があります。

2つ目は、賃金の上昇スピードです。メキシコは近年の最低賃金の引き上げで人件費が急速に上がりました。ベトナムも毎年数パーセントずつ上がっています。今の水準だけを見て10年後を判断するのは危険です。

3つ目は、人件費だけでは何も決まらないということです。もし人件費が最重要なら、いま最も工場が集まっているのはバングラデシュやエチオピアであるはずです。実際にはそうなっていません。

軸2 電力 ここがベトナムの最大の弱点です

正直に書きます。ベトナムの最も深刻な弱点は電力です。

2023年の5月から6月にかけて、ベトナム北部で電力不足による計画停電が発生しました。ハノイ周辺の工業団地で操業を止めた工場が多数出て、日系企業も影響を受けました。私は現地でこの時期を過ごしましたが、企業側の動揺は相当なものでした。

背景には、経済成長に電力供給の整備が追いついていないという構造問題があります。石炭火力への依存が続き、再生可能エネルギーの発電設備は増えたものの送電網の接続が追いついていない。政府は電力開発計画で大幅な設備増強を掲げていますが、実現には時間がかかります。

他国を見ると、インドネシアは石炭が自国で採れるため発電コストは低い水準にあります。ただし群島国家であるため送電網が島ごとに分断されており、ジャワ島以外では供給の安定性に課題が残ります。

インドは電力供給が過去10年で大きく改善し、再生可能エネルギーの導入量は世界最速級です。ただし州によって供給の質に差があります。

メキシコは北部の工業地帯で電力と水の不足が投資の制約として指摘されています。国営電力会社を重視する政策が民間の発電参入を抑えた時期があり、その影響が残っています。

タイは5カ国の中で電力インフラが最も安定しています。ただし産業用電力の価格は相対的に高めです。

電力という軸だけで見れば、タイとインドネシアが優位、ベトナムは明確な劣位です。

軸3 港湾と物流 メキシコの強さは地理そのもの

物流を見ると、順位が入れ替わります。

メキシコの強みは単純明快です。米国と陸路で直結しています。トラックで国境を越えれば当日から数日で米国の消費地に届く。海上輸送で2週間から4週間かかるアジア勢とは、そもそも競技種目が違います。ニアショアリングという言葉がメキシコを指して使われるのは、この地理的優位のためです。

ベトナムは南部のカイメップ・チーバイ、北部のハイフォンで深水港の整備が進んでいます。中国華南地域に隣接しているため、部材を中国から調達して組み立てるという分業が成立しやすい点も実務的な利点です。一方で、南北に細長い国土のため国内輸送コストが高くつき、北部と南部でサプライチェーンが分断されがちという弱みもあります。

インドネシアは群島国家という地理が物流コストに直接跳ね返ります。国内物流費がGDPに占める比率は他のASEAN諸国より高い水準にあると指摘されてきました。

インドは主要港の整備は進んでいますが、内陸の輸送と通関手続きに時間がかかる点が長く課題として挙げられています。

タイはASEAN域内の陸路ハブとしての位置が優れています。レムチャバン港と東部経済回廊の組み合わせで、自動車産業の集積が完成しています。

軸4 貿易協定 ここではベトナムが際立ちます

貿易協定の網の広さという軸では、ベトナムが5カ国の中で最も充実しています。CPTPPに加盟し、RCEPにも参加し、EUとの自由貿易協定を締結し、英国とも協定を持っています。輸出先を米国、EU、日本、韓国、ASEANに分散できる制度的な下地があるということです。

メキシコはUSMCAを持っており、米国市場へのアクセスという1点に関しては最強です。ただし原産地規則が厳しく、部材の域内調達比率を満たさなければ特恵関税を使えません。この規則が近年さらに厳格化されています。

タイはRCEPに参加しており、ASEAN域内の協定網も持っています。CPTPPへの参加は検討段階にとどまっています。

インドネシアはRCEPに参加していますが、CPTPPには加盟していません。EUとの協定は交渉が続いています。

インドはRCEPの交渉から離脱し、CPTPPにも加盟していません。関税水準は5カ国の中で最も高く、これは輸出拠点としてはマイナスですが、巨大な内需を保護するという別の戦略の裏返しでもあります。

軸5 政治リスクと関税 最も読みにくい軸です

最後の軸が、実は今いちばん重要になっています。

ベトナムは一党制であるため政策の継続性は高く、外資誘致の方針が政権交代で覆るリスクは小さいと言えます。ただし対米貿易黒字が大きく膨らんでいるため、米国の通商政策の標的になりやすいという構造的な弱点を抱えています。反腐敗の取り締まりが強化された時期に行政の意思決定が滞ったという指摘もありました。

メキシコはUSMCAの見直し時期を2026年に迎えており、この協定の枠組みがどう変わるかがそのまま投資判断に直結します。加えて司法制度改革をめぐる議論や、地域によって深刻な治安リスクが存在します。米国依存が強みであると同時に、最大のリスクにもなっているという構造です。

インドネシアは資源ナショナリズムが政策の軸にあります。ニッケルの未加工鉱石の輸出を禁止して国内での加工を促す政策は、国益としては合理的ですが、外資にとっては予見しにくい規制変更として現れます。

インドは州ごとに規制や労働法制が異なり、土地取得の難しさが長年の課題です。関税による国内産業保護の姿勢も続いています。

タイは政権の安定性に不安が残り、加えて5カ国の中で最も高齢化が進んでいます。人口動態という点では、すでに中国に近い課題を抱え始めています。

そして5カ国すべてに共通する最大の変数が、米国の関税政策です。2025年以降、国別に異なる税率を課す方向へ動いており、その税率は交渉によって変動しています。この記事を書いている時点の税率がいつまで有効かは、私にも分かりません。最新の税率は必ずご自身で確認してください。

5つの軸を並べると、勝者は1つに絞れません

ここまでの比較を整理すると、はっきりすることが1つあります。5つの軸すべてで勝つ国は存在しないということです。

人件費ならインド。電力ならタイ。物流ならメキシコ。貿易協定ならベトナム。政策の予見性ならベトナムとタイ。それぞれ違う国が首位に来ます。

だから実務では、企業は用途別に国を使い分けています。

米国市場向けの最終組み立てはメキシコ。電子部品や縫製の輸出拠点はベトナム。資源加工と国内向け生産はインドネシア。巨大な内需を取りにいくならインド。既存の自動車産業のサプライチェーンを使うならタイ。

チャイナプラスワンという言葉が示すのは、実は「プラスワン」ではなく「プラスいくつも」だったということです。

投資家として、ここから何を見るか

生産拠点の話を株式市場の話に翻訳すると、注意点が出てきます。

工場が来ることと、その国の上場企業が儲かることは、同じではありません。外資の工場が進出しても、利益の多くは進出企業の本国に帰属します。現地の上場企業が恩恵を受けるのは、工業団地を開発する不動産、電力、港湾、物流、建設、そして所得が上がった労働者を顧客に持つ銀行や小売といった間接的な業種です。

この視点で見ると、5カ国の株式市場へのアクセスにも大きな差があります。インドは日本からもインデックス型の投資信託で買えるようになりました。インドネシアとメキシコは新興国株式指数に含まれますが構成比は小さい。タイも同様です。そしてベトナムは長らくフロンティア市場に分類され、新興国指数にも全世界株式指数にも含まれてきませんでした。

このアクセスの非対称性については、前回の記事で制度面から詳しく整理しています。工場の話と、指数の話と、日本の制度の話は、それぞれ別のレイヤーで動いているのです。

そして製造業の移転が長期的に何をもたらすのかという視点は、「富の南下」という連載シリーズで扱っています。関心のある方はご覧ください。https://note.com/gonviet/n/ndcd64cc184eb

この記事の限界について

5カ国を5つの軸で並べるという整理は、見通しをよくする代わりに必ず粗さを持ちます。

実際の立地判断では、産業ごとに重視する軸がまったく違います。半導体後工程なら電力の安定性と技術者の質が最優先になり、人件費の順位はほとんど意味を持ちません。縫製なら人件費と関税が効きます。この記事の比較は、あくまで全体像を掴むための地図です。

また、ここに挙げた数値はいずれも概算で、時点によって変わります。とくに人件費と関税率は動きが速い項目です。

そして最後に、生産拠点として選ばれることと、その国の株価が上がることの間には、時間差と業種の差と為替の差があります。この3つを飛ばして結論に飛ぶと、判断を誤ります。投資判断はご自身の責任でお願いします。

まとめ

チャイナプラスワンの本命を1カ国に絞る問いには、たぶん答えがありません。企業はすでに用途別に使い分けているからです。

ただ、5つの軸を並べてみると、それぞれの国が何を武器に選ばれているのかは、かなりはっきり見えてきます。ベトナムは貿易協定の網と中国華南への隣接性、そして人件費のバランスで選ばれている。その一方で電力という深刻な弱点を抱えている。この両面を同時に見られるかどうかが、判断の質を決めるのだと思います。

現地に住んでいると、工業団地の造成が進む速度と、停電の不安が同居している光景を毎日見ることになります。どちらか片方だけを切り取れば、まったく違う記事が書けてしまう。だからこそ両方書きました。

そういうことなんです。

いかがでしたでしょうか。今回のチャイナプラスワンの5カ国比較について、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。

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【免責事項】 本記事は、情報提供のみを目的としており、特定の金融商品への投資の勧誘や推奨を意図するものではありません。執筆者は金融商品取引業の登録を受けておらず、投資助言・代理業を行う資格を有していません。

本記事で提供される情報は、執筆者の個人的な分析と見解に基づくものであり、投資判断の最終的な決定は読者ご自身の責任において行ってください。ベトナム株式投資は価格変動が大きく、元本割れのリスクを伴います。

本記事の情報の正確性、完全性、最新性については最大限の注意を払っていますが、保証するものではありません。本記事の情報に基づいて行われた投資による損失や損害について、執筆者は一切の責任を負いません。

投資判断に際しては、金融商品取引業の登録を受けた専門家への相談を強く推奨いたします。本記事は法的、税務的、財務的なアドバイスを提供するものではありません。

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