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ベトナム国家銀行(中央銀行)は2026年の「デジタル金融の日」を正式に発表し、従来の「キャッシュレスの日」から名称・コンセプトを刷新した。2025年末時点でキャッシュレス取引件数は252億件超、取引総額は362兆ドン超に達しており、ベトナムはデジタル決済インフラの整備段階から「デジタル金融エコシステム」の構築フェーズへと本格的に移行する。
「デジタル金融の日2026」が示す新たな方向性
ベトナム国家銀行およびホーチミン市人民委員会の指導のもと、トゥオイチェー紙(Tuổi Trẻ、ベトナムの主要日刊紙)が国家銀行決済局、ホーチミン市商工局、そしてナパス(Napas=ベトナム国家決済株式会社)と共催で記者会見を開き、「スマート決済がデジタル金融を推進する」をテーマとしたプログラムを公表した。
このイベントは2019年に「キャッシュレスの日(6月16日)」として始まり、QRコード決済や電子ウォレットの普及を後押しする政策的なてこの役割を果たしてきた。2026年からは名称を「デジタル金融の日」に改め、キャッシュレス推進にとどまらず、デジタル金融エコシステム全体の発展へと射程を広げる。トゥオイチェー紙のチャン・スアン・トアン副編集長(イベント組織委員長)は「データ技術、銀行間決済インフラ、政策の三者が融合し、国内外の決済接続の機会が開かれると同時に、個人データ保護と安全なデジタル金融空間の構築が進む」と強調した。
デジタル金融発展の「3本柱」
国家銀行決済局のファム・アイン・トゥアン局長は、デジタル金融の新段階を支える3つの柱を以下のように整理した。
第1の柱:法的枠組みの整備。民間経済・国営経済の発展に関する国会決議を具体化するため、関連規定の見直し・改正を進める。行政手続きの簡素化を推進し、住民データベースや電子本人確認(eKYC)の活用によって、国民や企業のコスト・参入障壁を引き下げる。
第2の柱:国家決済インフラの高度化。安全性と接続性を高め、デジタル決済エコシステムを拡張する。特に注目すべきは、従来の「QR送金(振込型)」から「QR決済(ペイメント型)」への転換を研究・推進する点である。これにより、個人間送金(P2P)に偏っていたQR利用を、店舗での商品・サービス購入時の決済手段として本格的に位置づけ、金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)を促進する狙いがある。
第3の柱:QRコードによる国際決済の拡大と個人データ保護。クロスボーダー決済の利便性を高めると同時に、データセキュリティとシステムの安全性を優先し、持続可能なデジタル金融エコシステムの構築を目指す。
トゥアン局長は「デジタル決済はデジタル経済における交通インフラのような存在だ。決済が便利で低コストになれば、資金回転が加速し、国内消費が刺激され、需給のマッチングが迅速化して生産・ビジネス活動の発展を支える」と述べた。さらに「二国間のクロスボーダー決済は消費と観光の新たな原動力となりつつある。QRコードによる越境決済は外国人観光客の利便性を高めるだけでなく、国内の商品・サービスの販路拡大にも貢献する」と期待を示した。
ナパスが牽引するクロスボーダーQR決済の現在地
実務面での展開を担うナパスのグエン・タイン・トゥン副社長は、同社がタイ、ラオス、カンボジアとの間で双方向のQRコード越境決済を既に稼働させていることを明らかにした。ベトナム人が海外で利用する場合と、外国人観光客がベトナム国内で利用する場合の両方向に対応している。
2025年から2026年初頭にかけては「VietQRGlobal」として中国および韓国からの訪越観光客向けサービスを開始。今後はインド、シンガポール、台湾への拡大も準備中で、現時点で20行以上の銀行・決済仲介事業者がサービスを展開している。
トゥン副社長はまた、個人間送金(P2P)から「VietQRPay」への移行を促す鍵として、売上管理・運営面での価値を挙げた。VietQRPayはキャッシュフローの透明化、注文・販売拠点ごとの取引情報の紐付け、返金・一部返金機能、取引ごとの参照コードによる重複決済防止など、小規模事業者から大企業まで対応できる機能を備える。さらにVietQRGlobalと統合することで、外国人観光客の取り込みも可能となり、販売管理ソフトとの連携によりリアルタイムで取引を自動確認、売上データから「デジタル信用スコア」を形成して融資アクセスを円滑にする仕組みも構築されつつある。
2026年5〜9月の主要イベント
プログラムは2026年5月から9月にかけて展開される。まず、ホーチミン市のベンタイン市場(Chợ Bến Thành、観光客にも有名な中心部の大型市場)やファンシックロン通りの飲食街など商業が活発なエリアで「QRコード切替キャンペーン」を実施し、個人事業主のデジタル決済標準化を支援する。
メインイベントである「デジタル金融フェスティバル」は2026年6月6〜7日、ホーチミン市の歩行者天国グエンフエ通り(Nguyễn Huệ)で7時30分から21時30分まで開催され、10万〜12万人の来場を見込む。また、ホーチミン市商工局との連携で「ショッピングシーズン(販促月間)」も展開し、消費喚起とデジタル決済習慣の定着を図る。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の動きは、ベトナムの金融デジタル化が「普及フェーズ」から「収益化・エコシステム構築フェーズ」に入ったことを明確に示している。投資家にとって注目すべきポイントは複数ある。
銀行・フィンテック関連銘柄への追い風。QR決済のP2P型からペイメント型への転換は、決済手数料収入の拡大を意味する。ナパスの株主構成に名を連ねる国家銀行傘下の銀行群、およびデジタルバンキングに積極的なテクコムバンク(TCB)、VPバンク(VPB)、MBバンク(MBB)などは恩恵を受ける可能性が高い。VietQRPayの普及に伴い、加盟店管理サービスやPOSソリューションを提供するフィンテック企業にも成長余地が生まれる。
クロスボーダー決済と観光セクター。中国・韓国・インドからの観光客がQRコードで直接決済できるインフラが整備されれば、小売・飲食・観光関連企業の売上押し上げ要因となる。ベトナムの2025年の外国人観光客数は過去最高水準に迫っており、決済の利便性向上はさらなるインバウンド消費拡大に直結する。
FTSE新興市場指数への格上げとの関連。2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げにおいて、金融インフラの近代化と透明性の向上は評価ポイントの一つである。デジタル決済データに基づく信用スコアの形成は、中小企業の正規金融へのアクセスを拡大し、銀行セクター全体の資産の質改善にもつながる。市場の透明性・効率性の向上はFTSE格上げの追い風となり得る。
日系企業への示唆。ベトナムに進出している日系小売・外食チェーンにとっては、VietQRPayやVietQRGlobalへの対応が顧客利便性の差別化要因となる。また、決済データの蓄積は消費者行動の分析精度を高め、マーケティング戦略の高度化に寄与する。フィンテック分野での日越協業の可能性も広がっている。
ベトナムのデジタル金融エコシステムは、国家主導のインフラ整備と民間のイノベーションが噛み合い、ASEAN域内でも際立つスピードで進化を続けている。252億件超というキャッシュレス取引件数は人口約1億人の国としては驚異的であり、この決済データの「資産化」が次の成長フロンティアとなることは間違いない。
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